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146 洞窟蛇戦

「あー、とりあえず5日で。朝食だけお願いしたい」


「あいよ。部屋はいくつにする?」


「2つで」


「それなら5日まとめて金貨2枚だ」


「これで」


「ちょうどだな。確認した。これが鍵だ、合鍵は冒険者パーティのメンバーのみ貸し出しているが登録するか?」


「いやいい」


「分かった。部屋は2階だ、ごゆっくり」


 さて、これが宿をとった時の会話である。いい宿に泊まるのは旅の醍醐味だなとふと思い付いたのでこの街で1番高い宿にしてみたのだが……

 ぼったくりであった。うーん、これでこそ旅って感じだ。従業員の態度は適当、というかこちらを舐めているのがよく分かる。掃除は割としっかりやっているが、料理は美味くもなく不味くもなく。


 オプションが朝食のみで1泊銀貨2枚なのにこのクオリティは、さすがにやりすぎだわ。


「凍れ」


 トカゲの魔物が氷漬けになり、動きを止める。だが、その体がまだ残っていることから分かるように、死には至っていない。

 さすがは変温動物をモチーフにした魔物だ、これだけで死ぬことは無いか。


 だが、こちらもただ凍らせるだけでは終わらない。


「吸収」


 魔物の体が崩れるように溶けて消える。そして、俺のHPとMPが少しだけ回復した。

『氷帝』の力で行う吸収だが、何度か使って気付いたことがある。これ、どうやらダンジョン内であまり使わない方が良さそうだ。


 そもそも、なぜダンジョンでは倒した魔物が消えるのか。それは、一般的にリソースをダンジョンが吸収してシステムの維持に使っているからだ、と言われている。

 であれば、俺の行為はダンジョンのエネルギーを少しずつ盗んでいるのと同義。人間に例えれば血液を少しずつ貰っているようなものだろう。


 短期間に多数やるのはやめておこう。あまり頼りにはしていないけど『直感』スキルもいい仕事をするなぁ。


「ストレス発散はこれくらいにしておこう。このダンジョンは攻略して、もう1つのダンジョンに行くか」


「あいわかった」


「かしこまり、ました」



 10分後。俺たちはボスと向き合っていた。



「グルルルロォオオ!!!」


「なんでヘビ? 道中全部トカゲだったのに。つかヘビはそんな鳴き声じゃないだろ」


「洞窟といえばヘビではないか? それほどおかしくはないと思うぞ」


「そんなもんかねぇ……あ、はいラノア。がんばれ~」


「は、はい!」


 ラノアが前に出て、気配を薄くした。戦闘開始のルーティンとしては所要時間も少なくていい感じだ。

 俺は身体強化が多すぎて本気の近接戦で戦おうとすると時間かかるからなぁ……


 ラノアが『忍び足』も同時に発動して洞窟の暗がりに溶け込んだ。

 結果的に、ヘビのターゲットが俺たちへ移る。一応、防御する準備だけしておこう。


 ヘビが体を縮めて飛びかかるモーションに入ると同時に、ラノアが投擲した閃光弾がヘビの目先で爆発した。

 俺がラノアに渡したアイテムは、閃光弾、音響弾、まきびし、ワイヤー、クナイの5種類。圧倒的忍者イメージのラインナップである。そして、ラノアがこのアイテムを使うのは今回が初めて。それだけの強敵だと認識しているんだろう。


 ……危なくなったら遠慮なく使ってしまえとは言ってあったが、俺たちにひと言もなく使うのはダメだな。後で言っておこう。俺はコンタクトで強すぎる光を自動で抑えられるからいいものの、タガミが目をやられてしまった。


 ただ、効果的な手段であることも事実。実際、ヘビも突然の強い光でフラフラしている。こうなったら後は倒すのは楽だな。Dランク推奨も頷ける難易度だ。


 ──と、この時のユーリは思っていたが。実際は攻略開始時点でDランクなことを推奨しているのであって、その道中で力をつけ、ボスまで倒してしまうのはCランクに近い実力になることを想定されていた。

 そして当然、攻略はパーティによるものという前提がある。決して、Dランク程度のステータスを持つ者が単独で攻略することは想定されていない。


「っ!」


 つまり、それほど簡単なことではないということだ。ラノアの放った斬撃は、ヘビの鱗に阻まれる。反射で繰り出された尾の一撃に、ラノアは吹き飛ばされてしまった。


 ヘビはとぐろを巻き、口を開けて毒らしきものを吐いてラノアに追撃しようとする。


「はい、ちょっとタンマね」


 そして、その体勢のままヘビは氷の像になった。

 俺はラノアの元へ近寄ると、なんとか立ち上がったところだった。だが、HPは既に5まで減っていた。

 HP最大値が少ない人間のダメージ算出方法に興味が湧くが、それは置いておく。ひとまずポーションを手渡し、回復させた。


「ラノア1人じゃ厳しいか。盾役は俺がやるよ」


「は、いえ……はい。おねがい、します」


「ドレスコード:No.8〈騎士〉」


 体が一瞬光に包まれ、次の瞬間には盾持ちの騎士へ変貌した。〈騎士〉は攻撃を捨てた、防御特化の装備セットである。


「『挑発』『要塞』『金剛』『シールド』起動」


 『挑発』は相手の敵意を自分に向け、『要塞』は盾の強化と足のふんばりを強化。『金剛』は自身と盾をまとめて硬化して、『シールド』は魔法攻撃に有効な魔力の盾を生み出す。いずれも、防御系のスキルだ。


 俺がヘビの前で装備効果を起動すると同時に、ラノアも動きだした。普通に剣を降るって刃が通らないのであれば、頭を使わなければならない。

 ラノアの持てるアイテムには重さの関係で限りがあるため、閃光弾は1つしか渡していなかった。そのため、もう閃光弾は無い。だから代わりを、俺がやるのだ。


「はぁぁぁっ!」


 裂帛(れっぱく)の気合と共に振り下ろされたラノアの短剣は、彼女の接近に気付かないヘビの目を的確に刺した。


「ガラララルルロォォオオオッ!?!?」


「いい選択っと!」


 突然の痛みに狂乱するヘビ。もんどりうって無茶苦茶な攻撃のように圧倒的な質量の暴力を振りまいたが、ラノアは上手く避けきった。

 だが、当然死には至らない。


 ラノアもそれを分かっているのか、すぐにアタックを再開した。

 だが、やはり攻めあぐねている。剣が通らないからHPを減らせないし、目からの出血もほとんど無いから持続ダメージも見込めない。少し粘らせてみる……ここまでか。


「ドレスコード:No.9〈侍〉。『召喚』・箔刀(はくとう)。〈金箔(きんぱく)〉」


 ステータスの力をそれなりに引き出せる今なら、変なスキルを使わずともこのヘビくらいなら一瞬で倒せる。

 新しく創った箔刀の強化を行って出された斬撃で、ヘビはダンジョンの礎へと還った。


「おつかれラノア。動きと判断は良かったぞ。とりあえず、攻撃手段を増やす方向でいろいろ考えてみよう」


「……はい。すみません」


 ……子どもは嫌いだが、ゲームのキャラを限界まで育成するのは好きだった。俺はそれに似た感覚で、ラノアを強くすることに楽しさを見出しているのだろうか?




 まあいいか。やる事が増えるのはいいことだと思うから。

 せっかくの人生、楽しまなければ意味は無い。楽しみは多い方がいい。この精神を忘れずにいこう。

ボス戦中、タガミは剣の手入れをしていました。


ユーリが本当に育成の楽しさをラノアに見出しているなら、ラノアは色々と大変なことになりそうですね。ユーリは「限界まで」育成しきることに楽しさを感じるので……

実際にどうかはまだ分かりませんけどね。


それでは。

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