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143 道で宴会

「がっはっは!!! こんな所でこんな美味いもんにありつけるとはなぁ!!!」


 豪快な笑いだ。ともすれば下品と捉えられかねない、口を大きく開け片手に酒の入ったジョッキを携えたおっさんの笑い。だがそれは、宴会のような様相を呈しているこの場を盛り上げるための一要素でしかなかった。


「ま、さっき言った通り金は取らないから、好きなだけ飲んで食いなよ。今後ともよろしくってことで」


「もちろんだよ兄ちゃん! がっはっは!」


「おいこのハゲだぬき! 今俺の皿から肉取りやがったな! ぶちのめしてやる!」


「お! ケンカかぁ!? いいねぇ俺はファガスに賭けるぜ! 銀貨1枚!」


「俺はルーツに銅貨5枚だ!」


 バカがアホやって、一層カオスになってきた。だが、ここは外だ。いつ死んでもおかしくない世界の、街の外の、夜なのだ。危険は常に潜んでいる。


「うざいなぁ、最近じゃ弱い魔物は近寄ってこなかったのに……」


 そう言いながら、こちらを虎視眈々と狙っていた鳥型の魔物を氷漬けにした。

 その氷が落下してくる前に、その存在の全てを吸収して氷も消した。──『侵食領域』の応用である。超広範囲から少しずつHP・MPを吸い取っていたあの領域を、氷漬けにした内部のみに圧縮して展開してやれば……体積すらどこかへいってしまうのだ。


 ……待てよ? HPとMPを吸い取って存在が無くなるんなら、ステータスの補正って保護膜とか外部装甲みたいなものじゃないのでは…………?

 うん、また後で検証だな。


 そういえば、氷帝の力をコントロールできるようになってから、今のように周囲に力がバレにくくなった気がする。常時発動(パッシブ)スキルの訓練を通して魔力操作が一段上に成長したと言うことだろうか。

 そう思ってステータスを確認してみれば、前は『魔力操作(max)』という表記だったのが『魔力操作(EX)』に変わっていた。なんか知らんがやったぜ。


 前、夢に出てきた神(名前は忘れた、ケ〇ロだっけ?)が「スキルの獲得しやすさも普通に戻った」みたいなことを言ってた気がするんだが……本当に戻ってるのか? こんな簡単に強くなって大丈夫なの?

 いや、この記憶がただの勘違いだったって可能性もあるか。


「……?」


 胸ポケットで、何かがモゾモゾと動く感覚。どうやら、頭の上にいたはずのアゲハがいつの間にか移動していたようだ。

 察するに、宴の気配に釣られて飛び出そうになったがなんとかガマンしている、ってところか。


 そう、この妖精さんは今絶賛反抗期なのである。『氷帝』を身に付けるまで近くに置いておけないと、野に放ったのがいけなかったのだ。

 あの時は気が動転していたし、焦っていてあんな対応しかできなかったんだが……まあ、今考えても仕方なかったとは思うけど。心は納得しきれないってことだろう。


「ん、次はゴブリンか……って、タガミ?」


「吾輩が対処してこよう、この雰囲気にはまだ慣れんのだ」


「ああ……分かったよ。任せた」


「うむ」


 タガミが暗闇の中へ躍り出る。余程この空気が耐えられなかったのだろう。

 思い付きでこんな場を作ってしまったが、考えなしすぎたな。少し反省。


 本当の従魔契約ならレベルアップのリソースが分配されるのかもしれないが、俺とタガミはただの友人。魔力的な繋がりも何も無いので、リソースの分配ももちろんない。


 そんなことを考えていると、突然視界が少しぼやけたような感覚に陥る。驚いて目を擦るが、改善は無い。幻覚系の効果がある魔物のスキルかと思って『気配感知』を使うが、それにも反応はなかった。


「ん? なんだ?」


「酔いすぎちまったか……だいぶ視界にキてるわ」


「にしちゃ変な気がするが……んま、んなこたどうでもいいか! がっはっは!!」


 おっさん共は呑気なものだ。先程から魔物に襲われかけている事にも気付いていない。おっさん共の護衛は離れた所で野営してるが、アイツらは気付いてて静かにしてんのかね?


 そこまで考えて当たりを見回してから、ようやくその()()に気付いた。霧だ。細かく、冷たさや水滴による不快感は無いが視界が遮られるのが鬱陶しい。

 霧に魔力を感じないが、川や湖の水に干渉するスキルや魔道具なら魔力を含まない霧を発生させることは出来ると思う。


 つまり、敵対行動の可能性はあると言うことだ。


 濃霧が出るという噂は……まあ少なくとも、俺がエリフィンにいた時は1度も聞かなかった。だから、人為的なものである可能性はどうしても高く考えてしまう。


「でも霧ならどうとでもなるんだよな。『四季風』・【初嵐(はつあらし)】」


 常に周りに吹かせている柔らかな風ではこの霧はほとんど動かないと分かっていたので、少し強い風を吹かせた。

 俺の背後から吹いた強い風が、霧を押しのけてゆく。夜だから特段視界が戻ったことを実感しにくいが、少なくとも周りにいる奴らは視認できた。

 再度『気配感知』を飛ばしても、突然増えた気配はない。霧に隠れる能力を持った盗賊、という訳でもなかったらしい。


「……この辺って夜は霧が濃いのか?」


「あぁ? んな話は聞いたことねぇぜ?」


「俺も何回もこの関所前で野営したことあるが、霧なんて1度も出なかったはずだ」


「……へぇ。妙なこともあるもんだ」


 その日はそのまま、特におかしいことも起こらずに夜は更けていった。

『四季風』、ストーリーでほとんど出てこないけどユーリはほぼ常時使用しています。風に吹かれるのが好きなので。ついでにいうとユーリはジェットコースターなんかの絶叫系も好きです。

手にするスキルの全部が上手く物語の鍵になるなんて、変な話だと思うので。使わない・目立たない・使い道ないスキルも容赦なく出していきたいです。

それで読者を混乱させたら意味ないので程々にしたいとは思っていますが……


それでは。

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