140 ある少女
「よ。元気か?」
「ぁ、え……お、あなたは……」
「マナー違反だけど失礼するよ? 『鑑定』」
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〜ステータス〜
名前:ラノア
性別:女
年齢:14
種族:ヒューマン
職業:メイド見習い
状態:情緒不安定
レベル:4
HP:25/26
MP:32/32
・ベーススキル[P]
『魔素吸収(3)』『軽身(2)』『気配察知(2)』
・ベーススキル[A]
『生活魔法(1)』『魔力吸収(1)』『身体強化(6)』『視力強化(3)』『忍び足(3)』
・ギフトスキル[P]
『魔力排出(-)(貸与)』
称号
「元人体実験被験者」「救われし者」
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「うん。致命的なことにはなってなさそうだな」
俺は小さく頷くと、ステータスから現実へ意識を戻して目の前の少女を観察する。
少女の体はまだすこし細いが、最初に比べれば十分人間的な範疇だ。顔色も悪くない、少し白すぎる気もするが、実験してた奴らに囚われてたことを考えれば仕方の無い部分か。
前に1度エリクサーを投与したことがあるが……いくらエリクサーとはいえ、肉体を自動的に最善の状態へ変容させる程の力はない。魔力器官の欠損などが完治していることを思えば、こちらも十分すぎるほどだけどな。
「ウィズィの家に任せたのは正解だったか。……メシはちゃんと食ってるか?」
「ぁう……は、はい」
「ならよろしい。じゃ、俺はこれで。あ、俺が来てたことはあんまり言いふらさないでね?」
このラノアという少女は、この国の闇を凝縮した様な奴らに囚われ人体実験を受けさせられていた孤児だ。俺がその闇を潰す時に、人体実験で暴走状態になったラノアを俺にぶつけられたのだ。
今戦っても、油断していたらやられそうな程厄介な相手だった。今はあの時よりいろいろバグってるから、あの時と同じごり押しでも比較的楽になりそうだけど……どっちにしろ、殺さずに相手するとなれば苦戦はしそうな気がする。
現在地は魔道王国エリフィン、貴族街のラズダム公爵家本邸。エリフィンの魔法を学ぶ学院で同じクラスになったウィズィ・ラズダムの実家である。
ラノアを助けた後、エリクサー数本と一緒に事後のケアを丸投げしたままになっていたので気になっていたのだ。
スキルが何やら不穏な感じになっているが、これはまあ見なかったことにしよう。元気に生きてくれ。
そんなことを思いながら、コートに付与している『隠者』を再度起動して立ち去ろうとしたら。
「ま、待ってください! わたしもつれてって! ……ください!」
「……はいぃ?」
困った。子どもは嫌いなのに……この世界に来てから、なぜかやたらと懐かれている。それだけ厄介事に巻き込まれてるってことでもあるが……やめてほしい。
「……なんで一緒に来たいんだ?」
「ぇ、と……助けて、くれたから……ありがとう、も、言えなかったし……」
「感謝を受け取るよ。ほら、それじゃあいい子だからここに残るんだ」
「い、いやです! 私も行きます! そのために、がんばって訓練してもらったのにっ……!」
「あー……」
困った。エーシャとミーシャっつー2人を保護した経験上、子どもを庇う面倒くささは身に染みている。
俺がお人好しな勇者っぽい人間なら受け入れるんだろうが……生憎そんなに他人ばかり気にするほど余裕も無いし優しくもない。
『連れて行けばよいではないか』
『霹靂神? なんだよ盗み聞きしてたのか?』
『些事はよい。連れて行けばいいのだ、何か減るものでもなし。訓練したと言うのであれば、ただの足でまとい程度で済むであろう』
『……ああもう、考えるのが面倒くさくなってきた。そうだよ、そもそも俺は怠惰な人間なんだ。この楽しい世界ではしゃぎすぎてたけど、また最初の町の時みたいに怠惰な時間が必要だ。なら、メイドがいた方がいいに決まってるな。うん。よし連れてこ』
『カカっ! 阿呆の理論じゃな!! 今はどこぞへ飛んで行っておるが、あの妖精がおれば爆笑しておったに違いない!! カッカッカ!』
やかましいゴブリンは置いといて。
「連れていくなら、ラズダム公爵家に無言で連れ去るわけにもいかん。無断で屋敷に侵入してるっつーやましい事があるのに、さらには働き手を引き抜こうと……いやいっか。Sランク冒険者の権力でごり押そう。もうめんどくさいや。ほら行くぞラノア」
「は、え……あ、待ってください!」
ユーリ──もとい、黒野祐里。興味のある事には没頭し思考をとめず、人生は遊びだから楽しむべきだという理念を持つ。だがコイツはその反面、気を抜けば惰眠をむさぼり、旅行は好きだが準備が面倒だから結局行かない、といった怠惰な一面をもっている男だった。
人体実験されてた子です。