139 別れ・旅立
4章です。お願いします。
魔道王国エリフィンの入口──ユーリとルチルがこの国へ入る時に通った鉄門の手前で、2人の少女が話をしていた。
「それじゃあ……」
「……はい。寂しくなりますね」
「きっとユーリは帰ってくるわ。でも、私はそれを待っていられない。せっかく仲良くなれたのに、ごめんねフロース」
「いいんですよ。それに、ユーリさんなら大丈夫っていうのは……なんだか分かる気がします」
メガネをかけた緑髪の少女は名残惜しそうに握っていた手を話した。美しいブロンドの髪と長く尖った耳が特徴的なもう1人の少女も、気丈に見せようとしてはいたが別れの辛さを隠せずにいた。
「修学部の方々は、お見送りに来られないんですか?」
「そうみたいね。……1度研究を始めたら、ご飯を食べるのも寝るのすら忘れて没頭するような人ばっかりだったもの。仕方ないわよ」
「あはは……私も修学部に知り合いがいるから簡単に想像できます……」
微妙な空気になったが、それがかえって寂しさを薄れさせたようだ。そのままいくつか言葉を交わし、2人の少女は別れた。1人は門の中へ、もう1人は外へ。明確な目的がある分、外へ出ていった少女の方が足取りは軽いような気がした。
༅
(まったく。私の運の無さにはうんざりするわね)
街道を歩きながらそんなことを思う。ちょうどこの辺りで、あの赤いオークと戦ったなぁと思い返しながら。
とある目的の為に故郷を飛び出し、ユーリという希望を見つけてからは慎重に力を得ようとした。……だが、間に合わなかったようだ。
それでも、無理に協力をこじつけようとして愛想を尽かされるよりは何十倍もマシだっただろう。
(アイツ、子どもには優しい所があるけどそれ以外には基本冷たいものね……)
子どもに対して優しい、というよりかは「反射的に助けてしまう」と言った方が正しい気もするけど。
……ユーリの過去については聞いた事がない。どこ出身なのかも分かっていない。出会った場所と状況からして、ノーランド王国の出身なのだろうとは思う。
冒険者の低ランク昇格試験は、彼ぐらいの年齢ならば地元で受けるのが普通だからだ。ただ、ユーリに関してはこの根拠では心許ない。
出会った時から強かったからだ。
目的地であるシューケッツの森は、ノーランド王国のはずれにある。六角形+中心の1国という配置の七国。そのうち、今いるエリフィンとノーランド王国は正反対に位置している。
中心にある魔帝国ベルベットは、人種を問わずに受け入れることで有名だ。むしろ、純正な人間に対して恨みを持つものがそこそこ集まっているせいで人間が住みにくくなっているほど。
ただ、今は魔王関係のゴタゴタで国の出入りが制限されている。そのせいで、みんな遠回りを強要されている現状だ。
亜人種である私でも、今のベルベットを通り抜けることはできない。
(……まあでも、遠回りのせいで増えるのは3日かそからだし、そもそも今回はそれの影響がないルートを選んだし。関係ないわね)
色々調べて決めた帰り方を思い返して再確認していると、自然と目的地──故郷のことが思い出された。
シューケッツの森は特殊な場所だ。聖獣が住み、その聖獣と私たちエルフ族が魔物と共存している。強い魔物は奥まった場所にしかいない上、最奥は人類未到達の魔境。
私の故郷は、そんな森のちょうど中間くらいの深度にある村だ。エルフ・ハイエルフ・ハーフエルフが集まって構成されたその村には、名前がない。だからと言って小さい村という訳ではなく、結構な広さも、歴史もある。
だが、そこは色々な歪みを抱えていた。そして……その歪みが無視できなくなってきたところに、今回の災厄だ。
正直、あんな村滅んでしまった方がいいと思う。でも、あそこには家族がいる。親友もいる。罪の無い子供たちがいる。だから、救わないと。
「ふぅ……待ってて、リチル」
その小さな意気込みは、風のせいで私の耳にも届かなかった。