閑話 世界を救おうとする一団は、傭兵の一団と遭遇する
とあるスキルを持った人物を目標として、魔道王国エリフィンを粗方探し尽くしたシグ・アンティ・リコリスの3人。結局該当スキルを持つ者は見つけられなかったのだが、それをリーダーへ報告し別の国を探す許可を貰いに1度拠点へ向かっていた。
「にしても、エリフィンはそんなにだったな」
「まあ……確かに。私が最初から言っていた通り、ランパードの方が良かったでしょうね。なにせ軍事国家と銘打っているんですから、強い方も山のようにいるでしょう」
「でも、リーダーの気持ちも分かる。エリフィンは都市国家で探す範囲がすごく狭いから、先に潰したかった」
「それもそうですね、事実数週間で調査が終わったのですし」
アンティの躊躇ない物言いにリコリスが頷きを返す。なんだかんだ愚痴を言っても、彼女自身自分たちのリーダーがなぜエリフィンを任せたのか理解していたのだ。
故に、先程の愚痴はただの戯れにすぎない。長く共に行動していることで仲間間の口数が減っていないのは、リコリスやバレンタインのこういった気遣いの賜であった。
「ユーリの奴が該当者ならなぁ……」
「何回同じことを言うんです。いい加減気持ち悪いですよ」
「いやぁ……あんなに強い奴は久しぶりだったろ? その分期待も大きかった……!」
「それには共感しますけどウザいです。次言ったら殴りますから」
「……未練がましい。きもい」
「ひでぇ!?」
現在は、エリフィンを離れて江閣宋と魔帝国ベルベットの中間を純華聖王国に向かって進んでいる3人。目的地は、リーダーのいる聖王国だ。
現在地をさらに詳しく言うと、魔帝国ベルベットの南南西にそびえるレビア山脈の南側の麓を東から西へ沿うように進むとぶつかる小さな村に滞在しているところだ。
「次はどうする、やっぱランパードか? 強者っていう指標を大事にするなら江閣宋もありかね」
「ランパードは、距離的にバレンタイン達が探すことになりそうですね。バレンタインにはリーダーの宣星が通っていてわざわざ報告にくる必要がないですしね」
「それもそうか。となると、ノーランド王国の線も出てくるか。確か転移者がでたって話だけど……どうだかなぁ」
「……後ろに付いてる神がどんなのか分からない以上、接触は怖い」
「そうなんだよなぁ、面倒な話だよまったく」
本来、目的に近しい転移者たちには何を置いても優先して接触を図りたい気持ちがあった。しかし、その世界間転移を行った神がどういった性質の者か分からない為不用意に近付けないというハリネズミのジレンマにも似た理由があって行動には移せないままでいたのだ。
「フェノンのアレがもっと気軽に使えたらなぁ……」
「そんなの、どうせろくな事にならない。最初の時みたいな事が起こったらどうするの」
「少しは考えてものを言ったらどうですか、シグ? 地頭が足りないのですから」
村の中央にある広場の一角でのんびりとしながら、取り留めのない話を続ける。そんな折り、唐突に3人の空気が張り詰めた。
「……なかなか強そうな気配ですね」
「ここら辺は空気中の魔力が薄いから魔力の多さが分かりやすいな」
「3人いる」
「『裂き咲き』は反応していないですが……どうしますか?」
「無視はナシだろ。最低でもスキルを確認しないと」
「了解しました」
「……くる」
短くやり取りを済ませた3人は、慣れたように次の行動へ移った。シグは後方から警戒し、いつでも銃を発砲できるように気構えている。リコリスはシグの右斜め前に佇み、アンティはその人物達へ声をかけた。
「貴方達は何者?」
「あん? 俺に言ってんのか? ……むぅ、まあいいか。俺は震舌、江閣宋出身の元傭兵だ」
「咎だよ~」
「…………」
アンティの問いに、その問いを投げかけられた者達は三者三様の対応をした。
それを見たアンティは、少し眉を寄せてこう続ける。
「私が聞きたいのはそれじゃない。……いえ、もういいわ。こっちに来て」
「ちょ、おい!? なっ、んだコイツ力つええな!?」
「ぷーくすくす、震舌くん歳下の女の子に力負けしてやんの~!」
「だっさ」
ユーリに声をかけた時とは違って途中で腕を振り払われることもなく、アンティはそのまま3人を連れてシグの所まで戻った。
「シグ、リコリス」
「……おーう、どした? 後ろのはどちらさん? 新しい友達でもできたのか?」
「少しは考えたらどうですか? アンティが同年代の友人など作れるはずがないでしょう」
「いやそれアンティへの罵倒になってるぞ大丈夫か」
「…………ショック……」
「口が滑りました。ごめんなさいアンティ」
「……おーい? 話が見えないんだがー?」
マイペースな会話を──あえてではあるが──続ける3人組に痺れを切らし、震舌が声を上げる。
それに反応して、シグが話を振った。
「あー、そんで、お前さんらはどちらさん?」
「また名乗らせるのか? まあ別にいいが……俺は震舌、江閣宋出身の元傭兵だ」
「スイーツ大好き咎ちゃんだよ~」
「……」
「おいルカ、お前も名前くらい言えよ」
「私をルカって呼ばないで。ルガルカってちゃんと呼ぶか、せめてリリーにしてよ」
「ま、そういうことで。もう名乗りは十分だろ? 結局何の用なんだよ」
睨みにも近いジト目をシグ達に向ける震舌。その視線に居心地の悪さを感じながら、シグはとりあえず言葉を返した。
「あー、とりあえず名乗り返させてくれ、江閣宋の傭兵達。俺はシグ、Cランク冒険者だ」
「私はリコリス。冒険者ランクはAよ」
「アンティ。同じくAランク」
「へぇ。Aとはなかなか……そんで? なんで俺達は引っ張ってこられたんだ?」
「あー、ホントにすまんが少し俺達で話をする時間をくれ。そうだな、そこの甘味処でなんでも1品ずつ奢ってやるから」
「おいおい、そんな安っぽいもんで俺達が納得するt」
「震舌くぅ~ん? まさかせっかくの甘い物を断ろうとしているの~? これはおしおきが必要だね~?」
咎が発した凄むような声に折れた震舌が、2人を連れて頭を掻きながら甘味処に入っていった。
「で? どうだったアンティ」
「ありえるかも。でも戦うか直接聞いてみないと確証はない」
シグがアンティへ問いかけたのは、震舌達が目的のスキルを保持しているかどうかの確認だった。アンティが持っている『窃視の魔眼』は、『鑑定』に類する能力だ。対象のステータスを覗き見た時に、見たことを対象から気付かれなくなる。ただその代わり、読み取れるステータスが曖昧になってしまうという欠点もあった。
例えば、『大剣術』というスキルを対象が持っていた場合、アンティが魔眼を使うと「剣関係のスキル」というなんとも言えない結果が出る。
その為、実際に戦闘で力を引き出し、魔眼の読み取り結果とすり合わせて相手のスキルを読むようにしていた。
「やるか」
「アンティ、彼らの系統はどうでしたか?」
「……いつも通りあいまいだけど。男はオリジンじゃないけど空間に作用するスキル、女の子は制限、背の高い女性は道具を使う」
「おい、男のは期待できるんじゃないかそれ?」
「だからありえるかもって言った」
「咎とかいう子の方も希望はありますね。協力を得るのが難しそうな性格には見えましたが」
彼らが求めるスキルは2種類あった。その2種類のどちらでも良いが、そのどちらもが聞いた事のない能力のものであった。
ひとつは、スキルを強化するスキル。特に効果の対象範囲を広げるスキルだ。
そして、もうひとつは──
「しっかし今更だが……異世界に転移できるスキルなんて、本当に他に存在するのかねぇ……」
「フェノンの持つ異世界転移は超限定的な上に、複数効果を内包するスキルの効果のひとつですからね。もし転移に特化したオリジン持ちなら、可能性はあるという話だったでしょう?」
──異世界に転移するスキルだった。
ユーリはシグのお気に入りです。
シグとしては、自分と同じで女性と一緒のパーティ、コイツも苦労してんだろうなぁ……という思いと、単純に強い奴とは仲良くしたいという思いがあります。期待が未練に変わったことで執着を見せている部分もあります。
それと、少し前にユーリがレベルシステムについて考察する話を153部に投稿しましたが、その描写を少し変更しました。下に簡単にまとめます。
変更前→レベルシステムは、自分の周りに纏う幕みたいなものだった。たがみのお陰で判明したし、事実だった。
変更後→レベルシステムは、自分の周りに幕のようなものを纏ってるんだと思う。たがみは、今まで気にしてなかったレベルシステムについて調べているユーリに驚いた。
たがみ=霹靂神(雷帝)です。
それでは。