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閑話 穏やかな(?)日々、氷の中で

 ぴよぴよという小鳥のさえずりが聞こえる。朝の穏やかな雰囲気によく合ったそれは、本来有り得ないものだった。


 なぜなら、今この瞬間、俺の周囲に生命が存在するはずが無いからだ。

 俺がスキル『氷帝』を獲得してから、約1ヶ月。『氷帝』に含まれている【侵食領域〈凍土〉】がパッシブ(常時発動)スキルであるせいで、俺は人里から離れた場所で1人寂しく暮らしていた。


 その【侵食領域〈凍土〉】によって、あらゆる生命は俺の近くへ辿り着くまでにそのHPとMPの全てを捧げることになる。そんな中、小鳥のさえずりなど聞こえるはずもないのだ。

 では、先程の「ぴよぴよ」はなんなのかと言えば、余りに寂しい生活にどうしようもなくなり、『聴覚補助』の付いたイヤリングを全力で使い、数キロ離れた場所にいる小鳥の鳴き声を聞き取っていたのである。消費魔力との費用対効果を考えれば、バカ極まりないが、そうでもしなければおかしくなりそうだった。


 そんな中俺は、問題の【侵食領域〈凍土〉】をオフにしようと四苦八苦していた。

 パッシブスキルを完全にオフにする話など、この世界に転移してから色々調べたが聞いたことがない。まあ、そんなことそもそもしようと考えることが無いだろうからな。


「ほっ……」


 息を吐けば白く変わる。それは、この低温下で過ごしても俺の体温が維持されている証明。自分のスキルで自分に害が出ては仕方ないので、当然っちゃ当然か。

 最初は、スキルに身体を合わせるように──文字通り、「冷たい人間」になるかと思っていたのだが、結果的には違ったようだ。……おっと、今は人間ですらなかったな。


 辺りの景色にも慣れたものだ。だって移動してないからな。

 暇で創り上げた氷の樹木や彫刻が連なる森。真っ白に染め上げられた白雪の地面。変化のない澄んだ青空。


 せめて、その青空に何か変化でも──鳥が一二匹でも飛んでくれれば、まだ視覚の楽しさが感じられるのだが。残念ながら、この“凍土”の中心の空には影一つ見られなかった。な? 小鳥の声が聞きたくなるのも仕方ないだろう?


「さて」


 小さく意気込んで始めたのは、日課となっている【侵食領域〈凍土〉】含むスキルのコントロール練習だ。


 こうして魔法の勉強から離れ、レベルやステータスを気にせずスキルのみに集中したことは、あまり無かったように思う。

 転移したての頃に『魔力創造主(マジックメイカー)』を研究したのと、魔法を勉強した位だろうか。




 体の内側に意識を向け、自分がスキルを発動していることを自覚する。パッシブ(常時発動)スキルであり、意識せずに常に発動しているそれも、俺が発動しているのだ。その力の動きを認識する。

 ……言葉にすれば簡単に思えるようなこれも、2週間ほどかけてようやく到達した境地だ。食事もせずにただひたすら瞑想のようなことをし続け、なんとか成し遂げた偉業なのだ。


 力を認識したら、次はそのコントロール。どこにどんな風にどれくらいの力を入れれば、その力が変化するのか。ひたすらに試す。

 現段階では、その力の漏出を少なくするのが限界だ。分かりやすく言うなら……そうだな、水が出しっぱなしになっている蛇口を、目を閉じたまま音や振動で場所を探り当て、キツく固定された取っ手に力を込めてひねっている。そんな感じだ。


「……ここまでか。進歩してはいるけど……地道だなぁ……」


 体感では、1度開いたところまで蛇口をひねるのは10分の1ほどの労力ですむ。これをほぼ無意識下でもできるようにすると考えると、また随分と気が遠くなる。

 が、まあ別に自他関わらず能力が上がる様を実感するのは嫌いではない。自他関わらず、とは別に俺がこの世界でルチル以外の弟子を取っている訳ではなく、地球にいた頃のゲームの話だけど。


 まあ確かに? ルチルの成長も結構早くて育てるのが楽しい部分はあるけど? 俺はどっちかというと素材を一気に注ぎ込んで1レベルから上限突破後レベルMAXまで上げちゃうのが好きだしぃ?


 ……っと、内なるツンデレギャルの一面が出てきてしまった。久しぶりだな。


 1人になると無駄な思考が多くなっていかんな。今はまだ集中の時間だ。

 次に取りかかるのは、別のパッシブ(常時発動)スキルのコントロール練習だ。それが終わったら、次は武器術スキルの訓練。終わりが見えないねぇ。



 こうして訓練していると、スキルとはなんぞや? と考えることも多くなった。だが、そもそも、だ。レベルとはなんぞや? むしろそっちの方が訳分からんことが多いだろう。

 レベルが自分より低い相手に、単純な身体能力で負ける現象。身体能力を強化するスキルが関与しているのは確実だろう。だが、それだけとは思えない。レベルの差が100あっても、押し切れなかった事実。単なる1レベルごとの成長率の差って訳でもないだろう。俺が何か勘違いしているのか。


 まず考えるべきは、レベルによる身体能力の強化は存在するのかどうか。この世界では一般的な事実として広まっているそれが、間違いである可能性だ。

 だが、その点については結論はもう出ている。レベル上昇による身体能力の向上は、間違いなく存在している。これが断言できる理由は単純だ。俺がこの世界に来た当初、バグっていた『鑑定』で見たステータスの中にSTR(筋力)等があり、レベル上昇などで強くなっていたからだ。


 となれば、次に考えるのはその強化とは()()()()()()()強化しているのかだろう。

 魔力的な何かが体に入り込んで、細胞から何から作り替えて強化しているのか? 体にまとわりついて、魔法には有効な外装のような働きをするのだろうか?


 ……よく考えりゃ、そもそものそもそもレベルアップのシステムへの理解も曖昧なんだよなぁ。アイテムでの強引なレベルアップを除けば、①魔物を倒す、②生産行動をする、③自己研鑽を積む、の3つの方法が主ではある。つまり、なんらかの行動によってゲームで言うところの経験値が入り、魔物を倒すことでボーナスが付く、と考えるべきか。

 いや、逆か? 魔物討伐で経験値が入るおまけで、裏方や弱者への救済として微々たるボーナスがある、というシステムか。こっちのほうが納得できるな。


 この世界に神がいることが確定している以上、システムは精緻に管理されていると考えるべきだ。であれば、合理的を極めた順当なもののはず。ある程度予測はできるはずだ。



 さらに言えば、俺が今まで力を発揮できていなかった可能性を真と仮定すれば、さらに絞り込むことができる。そうか、だとすればレベルによる身体強化システムは……



 〇──〇──〇──〇──〇──〇──〇──〇



「なるほどね」


 結局、レベルアップによる強化は魔力で外装のようなものを生み出し力と防御に役割を持つものなんだと思う。それによる速度の上昇は完全に副産物。俺の速度に追い付いた震舌(しんぜつ)の動体視力と反応は、才能と経験によるものだったと結論づけた。


「しかし驚いた、吾輩は強さばかりに執着して、その地盤には目を向けなんだ」


「俺はそういう性格だから気にしてるだけで、それも全然良いと思うよ」


「何を言う。強さを求めるなればこそ、その地盤を確たる物にすべきなのは道理であろう。貴兄(きけい)は視野が広いのだな」


「そう言うあんたは器が広いな。そこらの人間よりよっぽど。見習って欲しいくらいだ」


 俺の言葉に応えてくれるのは、鬼のような形相をした男。……言葉遊びが過ぎたな。オスのゴブリンである。俺の『侵食領域〈凍土〉』を突破してコンタクトを取ってきた男であり、帝級の1柱〈雷帝〉でもある。名は、霹靂神(はたたがみ)。愛称はタガミである。

 出くわすなりすぐに決闘を申し込んでくるような強者狂いの一面もあるが、普段の落ち着いた知的で聡明な顔こそ、本性と言うべきだろう。


霹靂神(たがみ)、俺、そろそろ人間の国に戻ろうと思ってんだよね」


「ほう。それは寂しくなるな。こちら側では言葉を交わせる相手が居らぬ故……」


「……よし。じゃあ、着いて来いよ」


「ふむ?」


「俺が決闘に勝った時言ってたじゃん? なんでも1回いうこときくって」


「確かにそう申したな。その権利を行使すると?」


「おう。俺も世話になったしな。このまま何も返さずにお別れじゃ心が晴れん」


「カカっ! よかろう、是非も無し! 吾輩はただ従うのみである!」


 仲間になりたそうな目をしていたゴブリンが仲間になった。……旅の序盤かよと、内なる芸人がツッコミを入れる。しまったな、それなら先にスライムを仲間にするべきだったか。


 立ち上がった俺とタガミを、無数の氷像が取り囲んでいた。

 氷像の周囲にあった冷気はすでに(ほど)け、精緻に作り込まれていた氷たちは半分ほど溶けていた。それが表すものは、言うまでもない。

ありがとうございます。下の評価ポチってくれると嬉しいです。

まだ閑話が続く予定です。



仲間が増えたぞー。

新たな仲間はゴブリンさん、人型への進化は今後にも予定しておりません。強面です。詳しくはまた。


レベルアップシステムについてもっと話数使って書こうかとも思いましたが、中々筆が進まず結果的にこんな感じになりました。

レベルアップにより、生物は自分の周囲に根源膜を獲得・強化します。物理・魔法問わず減衰し、膂力にブーストがかかります。HPとは根源膜の残量で、これが消えると直接身体に損傷を負うようになります。

本来は無意識に使いこなせるはずのシステムでしたが、転生者であり根源がブレていたユーリ含む「合格者」上位3人は意識しないと恩恵を全て受けることができません。

ユーリはそれを無意識に扱えるよう特訓しました。


それでは。


※追記

レベルシステム前後の描写を少し変更しました。

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