138 その後
会話無し、事後の簡単な説明です。
「号外! ごうがぁぁぁぁい!!! 我らが皇帝と助力頂いた旅の一行により、凍土は滅された!!! 我らは助かったのだ!!!!」
暗く淀んだ帝都の至る場所で、その知らせはほぼ同時に発せられた。はるかな昔より存在すると言われていた凍土の消滅というそのニュースに対し、懐疑的な反応をした者はほとんどいなかった。
帝国とは、皇帝の強さによる恩恵を一身に受けて成立している国だ。ゆえに、皇帝の「力」と、そこから派生するカリスマ、人望に対する信頼は異常と呼べるレベルだった。
さらに加えて、他国で異世界からの転移者を保護したという声明があったことを知る者が多かったことも強く影響していた。つまりは、城の者たちの言う「旅の一行」こそが、その転移者達なのだろう、と予想したわけだ。
これに対し、帝国が正式に間違いを指摘するのはしばらく後の事になる。真実を表明するのは、転移者達を保護したという声明を出したノーランド王国に対して「我々は転移者に手を出していない」というアピールのため。
その発表に時間がかかったのは、表向きには凍土の接近により混乱した国内を建て直していたという理由を伝える。その真実は、間違いだろうとなんだろうとそれで民の精神が良い方向に保たれるのであれば、ある程度国の信頼が回復するまでその勘違いに乗っかった方が色々と都合がよい、というものであった。
大結界が発動し、外界と完全に隔離された時間は、わずかに3日。だが、それでも“寒波”から最も近かったためにいち早く国民へ報せを出したことが仇になり、国全体の生産力は大きく下がったのは事実だった。
そのため、多くの者は表向きの理由を信じることになった。
ただ、その転移者達を自分で見たという者が国内に一切現れないことだけは、全員疑問に思っていた。
༅
“クラスメイト”。今にして思えば、なんとも薄っぺらい括りだろう。年齢だけで付けられる枠なんだから当然だけど、そのことに気付けたのは手遅れになってからだった。
“寒波”が来るという国からの発表に買い占め騒動が起き、俺達はその一点において明らかな敗者だった。結果起きたのは組織の分裂。冒険者パーティとして活動していたグループを基本にして、俺達は思い思いのままに動き始めた。
俺は、妹と2人でとある老夫婦にお世話になっている。だが、他のメンバーについての動向を把握していない訳では無い。ただ、それが軒並み悲惨だという事実は……目を背けたくなる。コレが、かつての仲間だったのか、と。
簡単に列挙するとこうだ。
スキルを悪用しバレずに盗みをくり返し生き延びた者と、そいつの傘下に入った奴ら。
身体を売って男の家に転がり込んだ者。
人数が減れば余裕が出ると言って仲間を殺そうとした奴。
所詮俺達は、日本の学校という規範のしっかりした場所で煙たがられていた人間の集まりで、そこから何も変わっていなかった訳だ。
意外だったのは、不良もどきの紅谷が上手く立ち回っていた事だ。兵士に取り入って、仕事をこなし、その報酬で生き延びたという。
多分、国が良かったんだろう。力を尊ぶこの国で、アイツの腕っぷしが輝いた訳だ。そして、その力を順当に示し、悪の道を選ばなかったアイツとそのグループこそ、俺達の中で1番真っ当な人間だった訳だ。
別に、他の奴らを悪く言っている訳じゃない。俺だって、他の奴らを救い上げることなく2人だけで助かったのだ。
まあ、俺の判断は正しかったんだろうな。結界がどれだけ長く張られるか読めなかった以上、リスクをなるべく減らすのは正解だろう。だが、それでも結果だけ見れば俺達には余裕があった。
……3日で済むなんて、予想できるわけも無いんだけど、堕ちた奴らからすれば関係ない。自分たちは酷い目を見て、他の奴らは余裕を持っていた。だから嫉妬し、憤怒する。単純な話だ。
俺達を受け入れてくれた老夫婦にすらその矛先が向きそうになったのは、流石に焦ったけど……上手く、こっちに敵対心を集められた。
俺と褥は、逃げることにした。クラスメイト達からも、俺達を保護してくれたノーランド王国からも。
王城で会った妖精とはそれなりに仲良くなれてたんだけど、もう話すことはなさそうだ。申し訳ない。
風のうわさで、盗みをくり返した奴とそのグループが捕らえられ、そのタイミングも相まってかなり重い刑罰が下ったと聞いた。
生きるために他人を害することは、この世界でも罪にあたるようだ。特に、個人の強さを尊重する帝国であってもそうだということは。
いや、あまり言い過ぎるのはやめておこう。もう終わった話だ。
地球にいた頃からあまりいい思い出がないような繋がりだ、もう思い出すことも無いかもしれないな。
俺達の視線の先に広がる空は、青の見えない曇り空だった。ただ、その雲の上には太陽があるんだ、という確信を持てるような光を纏っていた。
国民が転移者を見ていない、というのはいくつかの要因から生まれた事実です。大まかには以下の通り。
1.他者と接する機会がほとんどなかった
2.帝国が隠蔽してノーランド王国に貸しを作った
3.──現在公開できない情報です──
4.転移者についていいイメージを持っている民達が、犯罪に手を染める人物を転移者だと認識する訳がなかった
5.当時の帝都で犯罪が増えていたので、大量に盗みを働いた奴とその一派以外は埋もれた
クラスメイトがバラバラになってしの先生は……
っと、これについては後々語る可能性があるので、触れるのはやめて匂わせるだけにしておきます。
白夜は、先生に関心が無かった+先生が把握しにくい動きをしたことでしの先生について言及しませんでした。
また、これにて3章終了です。しばらく閑話タイムに入って、4章の筋書きを練っておきます。それでは!