133 説明・着
〈葉桜〉……鞘に描かれた緑の葉は輝きを放ち、そこから抜かれた刀身は見る者を魅了するような漆黒だ。その漆黒は、よくある輝きを放つ類のものではなく、光を飲み込むような色合い。
付与された能力は、『HP3割吸収』『斬魔』『隠身』。HPを吸収し、その7割を使用者の回復に、残り3割を刀身の再生・進化に使用する『HP3割吸収』。たとえ『神気』を含んでいても魔力で構成されたものならば何でも斬ることが出来る『斬魔』。黒い刀身故に、暗所ではその剣閃を見ることが出来ず、気配すら覚束なくなる『隠身』の3つだ。
その代償として設定したのは、装備セット〈侍〉時のみしか使用できないというもの。つまりは使用制限だ。俺好みのビジュアルをした武器だが、そのせいで普段使いはできない。
そして、特殊効果として付与されていなくてもその切れ味は俺の手持ちの中でも最高峰。さすがに箔刀には及ばないが、その次に鋭いと言っても過言ではない。あくまでも現時点での話だけどね。
ドレスコードによって、俺の装備も先程までとは様変わりしている。通常装備……つまりはドレスコードNo.1:〈冒険者〉のセットだが、それには当然だが汎用性の高い付与効果を付けていた。内容は以下の通り。
コート……『隠者』『隠蔽』『簡易結界』
シャツ……『防刃』『防魔』『防弾』
ズボン……『疲労減衰』『軟体』『伸縮』
靴……『天歩』『無音』『自動サイズ調整』
そして、今装備しているドレスコードNo.9〈侍〉の付与効果は以下の通りだ。
紋付(上着)……『浮き身』『軽身』『瞬動』
袴……『闊歩』『木立』『軟体』
草鞋……『円歩』『縮地』『天歩』
スキルの効果も簡単に。新しい方だけね。
『浮き身』……動き出しが読まれにくくなる。認識阻害も付いてるけど限定的なおまけ。
『瞬動』……短い1つの動きの速度を引き上げる。
『闊歩』……1歩の距離を大きくした時の体重移動に補正がかかり、跳んだ時に着地点への移動速度が上昇する。
『木立』……立つだけのスキルだ。ただ、立つだけ。路傍に生える木々のように、違和感なく、倒れることなく、存在感なく、立つだけ。
『円歩』……特殊な歩法が身に付く。なんかぐるぐる回る。
『縮地』……地面上の1点から地面上の1点へ直線的に瞬間移動する。間に障害物があると失敗する。
まあつまり、対人特化で防御捨ててる装備ってことだ。
装飾品……ブレスレットにアンクレット、ネックレスにイヤリング、コンタクトなんかはそのままだから、戦いやすさに差はほとんど無い。
だから、こうなるのは必然。
「ぐっ……」
『縮地』+『闊歩』、斬。『縮地』+『闊歩』、『瞬動』、斬。『縮地』+『闊歩』、『円歩』+『瞬動』、『瞬動』、斬。『縮地』+『闊歩』+『瞬動』、『瞬動』、斬。
湯水のようにMPを消費し、気付けば残りMPが2割をきっていた。
普段しない戦い方ゆえにコントロールが下手くそ。ただそれでも、俺は目の前の少年を圧倒していた。
「ぐぁっ……クソっ! クソっ!!!」
纏った炎を『斬魔』で切り裂き、少年の体は切り裂かれ、全身から血を流している。
ただ、少年は依然としてその目から敵対心を消してはいなかった。
「……何のために戦ってるんだ、お前?」
「……ボクを育てたヒトが、強かったと分からせたかった。この世界にいる全員に、教えたかった」
強さと幼さから生まれた驕りは、多分本物だった。でも、今、満身創痍の中呟くように零したこの言葉も、間違いなく本物なのだろう。
「お前が負けても、お前の師匠が弱かったことにはならない」
「……ふざけるな。ボクは負けない、絶対に!」
「あれだな、剣を打ち合うようなのを楽しいって感じるんなら、まずは武器変えた方がいいぞ、お前。『魔力創造主』【オーブ創造】」
「なんだよお前、何がした」
『瞬動』+『縮地』、『瞬動』+『峰打ち』。不意をうたれた少年はHPが100になって気を失った。濃度3による持続ダメージで死ぬなんて笑えないので、すぐに持続回復ポーションをかける。
ちなみに、持続回復ポーションは俺のオリジナルだ。この世界には無かったので手慰みに創っていたのが役に立った。
なんだろう、色々と悩んでいたけど、開き直ると簡単なもんだな。倒仕方も色々考えたけど、結局『魔力創造主』のゴリ押しで簡単に片付いた。
俺が『縮地』で瞬間移動して、『瞬動』で速度を引き上げた斬撃を避けていたのを見れば、やはりレベル差ってのが要素として大きいとよく分かる。だが、それならなぜ俺はレベルが低かった震舌に身体能力で及ばなかったのか。
やっぱり、まだこの世界のシステムには分からないとこがだいぶ残って──
────シャラン。シャラシャラ……
考え事などしている暇はないと思い出すのに、時間は必要なかった。
だって攻撃されてるんだもの。
乱入者、とりあえず決着です。
ルルクは強いです。ユーリが瞬間移動でゴリ押ししたせいで強さを見せきる前にやられましたが、本当に強いです。この世界で何番目かは明言しませんが、マージで強い設定でした。
『縮地』反則すぎませんか? 世の中の主人公達はこんなスキル常用してるの???
ただ、ルルクが2つ目のオリジン(セカンドオリジン)を使えさえすればまだ抗えたっていうことだけ、伝えておきます。
その余裕を与えられなかったのは、ユーリの容赦の無さによるものか、ルルクの驕りによるものか……
両方ですね。
また、持続回復ポーションはスリップダメージの対処として最適解の1つですが、ユーリは2本しか持ってなかったのでバレンタイン達には伝えませんでした。
あとがき長くなってしまいました、すみません。それでは。