130 戦闘中
「ふっ飛べ!!!」
物騒な声と共に俺が投げた物体を、少年──ルルクは切り捨てようとした。だが、その瞬間。
────────────ッ!!!!!
凄まじい轟音が辺りを席巻した。「ふっ飛べ」なんてただのブラフで、ただの音響弾だったのだ。相手は地球の道具なんか知らん人間だし、そもそも俺は、創る道具の見た目なんか自由に設定できるんだ。見た目からの予測に意味は無い。
「がァァァっ!?」
あの距離でくらえば鼓膜が破れてもおかしくはないだろうけど、血が出てる様子はない。レベルアップで鼓膜も強化されるんですかね。俺はあんまり実感無いんですけど?
……愚痴は後にしておこう、今は戦闘中だ。
とにかく、聴覚はしばらく使い物になるまい。詠唱で動きを予測されないのは割とデカいアドバンテージ。
「ほっ! 『描画』。よっ! 『製図』……【魔法陣描き】。【空機雷】」
鉄杭とチャクラムを投擲し、剣で斬り上げ、斧で振り下ろし、双剣で追い立てる。どうやらこの少年、レベルの割に速くないようだ。スキル構成からして、魔法使い寄りのステータスなのか?
連撃の合間に入れられる反撃を躱しながら、なんとか成立している戦闘に安堵する。
ステータスから想像していたより、遥かに対等な戦いだ。……まあ、いろいろと使われてないスキルが残ってるけど。
「ああああああ!!!! もう!!!! ウザいんだよぉぉぉおおお!!!」
「ふぅ……『魔道』・【活道】。よっ! オブジェクトコール:〈吸血剣トレゾア〉っ!」
〈吸血剣トレゾア〉は、与えたダメージに応じてHPとMPを回復するものだ。長期戦とか消耗を抑えたい時用だな。今使うのは、後者の理由からだ。
情緒不安定な少年のメンタルを無視して、じわじわとダメージを稼ぎ自分は回復していく。別に殺す気はないが、殺さずに収める自信が無いのも事実。……いや。そもそも俺に子供が殺せるだろうか?
「……くっそ!!! つまんない戦い方ばっかりしやがって!!! 領域負荷なんかもういい!!! 全力で潰してやる!!!」
「げ。大技か? それは困るなっ!!」
「フン。もっとまっ正面から来いっての。『発展属性魔法』【炎理】」
少年の魔法が発動されると同時に、彼の全身から炎が吹きでる。爆風で押せば崩せるか?
俺が投げた手榴弾が起こした爆発は、しかして炎の壁にはなんの効果も与えられなかった。むしろ、爆風は取り込まれその防御がより強固になったように見える。
「…………あれ、発展属性魔法って……そうか、炎関係で攻撃したら乗っ取られるのか」
魔道学院でもまだ習っていない範囲の内容だから、すっかり意識の外だった。発展属性魔法は、その属性を自在に操るのが特徴的だ。
基本属性魔法ではほぼ太刀打ちできないので注意が必要なのだと、聞いてもいないのにラウルが教えてくれたんだった。
「『魔力創造主』・【簡易創造】」
いい感じの打開策が思い付かなかった俺は、とりあえず頭上から大岩を落とすことにしたのだった。
༅
「何あれ。誰?」
「さあ。……あ。敵みたい」
「みたいね。……凍土を越えて転移してきた方法、気になるわね。可愛い顔して凶悪な敵かもしれないわ」
「っ……たすけ、いく」
「やめときなさいな、迷惑かけて終わりになるわよ。……それより、今まで通り援護を続けてる方が何十倍も助けになるわ。亀が放ったあの雪の攻撃も、貴方がいなかったらかなりめんどくさかったはずだしね」
とつぜんの乱入者を強敵だというとなりのバレンタインに、おもわず気が動転してしまう。でも、彼女のいうとおりだ。わたしは弱い、こんなにもわたしにとってたたかいやすいフィールドでも、彼のとなりで戦えないほどに。
まじめに、そらを飛んでたたかう練習をした方がいいかも。このたたかいが終わったら、きっと最初にやろう。
「ま、私ももどかしい思いしてるのは一緒よ。私の専門は付与と罠。できる事の半分しかできてないんだもの」
「うん」
わたしは、クロくんがはった結界に手をそえる。魔力でできたそれには触ることはできないけど、クロくんに触れたような気分になった。
ルルクが好きな「楽しい戦い」とは、ただ強者と戦うだけでなく、互いの武器を撃ち合い、魔法で力比べをするような、いわゆるアツい戦いです。
そのため、炎の剣を避け続けたユーリに腹を立てていました。理不尽。
それでは。