013 牛
「多分到着〜」
ようやくラスボスの居そうなところに辿り着いた。石造りの装飾がなされた、とても大きな門が俺の目の前にある。多分だけど、今のSTR(力)なら普通に開けられるだろう。
「『鑑定』」
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・名称:不明
・耐久値:不明
・備考:迷宮「タウラスの楽園」、第100層にある門。
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あれ、ここ100層だったのか。じゃあ最初に転移したのは何層だったんだろう。50層くらいかな?
それにしても、新『鑑定』の情報の少なさよ。なんか悲しくなるね。旧『鑑定』はほとんど「不明」だなんて言わなかったから、余計にそんなこと思うのかもしれないけど。ま、そんなことはどうでもいいか。
気がかりなことが1つある。ここに来る道のりにあった、くまさんズの死体だ。そう、死体。迷宮の魔物は、死んだらドロップを残して消え去るのが普通だ。
死体が消え去るのは迷宮のシステム的に絶対だから、あの死体達もそのうち消えるんじゃないかとは思う……思うが、俺が今まで倒したくま達は、死んだ瞬間には消滅が始まっていた。なにかしらの異常が起こっているのは確実だろう。
死体が残っているのももちろん気になるが、ドロップも一緒に散らばっていたのも結構気になる。……俺、こういうよく分かんないことがあると考え込んじゃうからな。あんまり深く考えずに行くか。
「と、その前に。『鑑定』」
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〇status
・基本情報
名前:黒野祐里
種族:人族(異世界人)
職業:元高校生
状態:正常
・個体値
Lv:94(89↑)
MP:14400(4800×3)/4800(4500↑)
STR:783(765↑)
VIT:756(727↑)
INT:811(776↑)
AGI:683(664↑)
DEX:892(871↑)
LUC:41(30↑)
・スキル
◎ベーススキル→
パッシブ(常時発動):『マルチタスク』『思考加速』『瞑想』『無想剣』『辻斬り』『風導師』『気配察知』『悪路走破』『ライダー』『罠看破』『無手』『不夜』『体内時計』
アクティブ(任意発動):『全属性魔法』『無属性魔法』『体術』『剣術』『刀術』『槍術』『棒術』『札術』『投擲術』『弓術』『錬金術』『瞳術』『魔術』『望遠』『暗視』『気配感知』『鑑定』
◎ギフトスキル:『魔力創造主』
◎オリジンスキル:『四季風』
・称号
「異世界人」
「非正規タロット所持者」
「慈悲深き者」「無慈悲なる者」「熊殺し」
「魔法使い」「魔術師」「魔力貯蔵庫」「魔力操作者」「魔力使い」
「武芸百般」「全てを扱う者」「進む者」
・備考
『マルチタスク』『思考加速』によって思考に補正。
『ライダー』によって乗り物の操作に補正。
『無手』によって武器以外での戦闘時に補正。
『不夜』によって不眠・睡眠不足による能力低下を無効。『暗視』に補正。
「熊殺し」によって熊全般への攻撃に補正。
「魔力貯蔵庫」によって魔力の最大保有量が上昇。
「進む者」によって「移動速度低下」を無効。
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レベルが上がってアクティブスキルが結構増えたな。いろいろ練習した甲斐があった。一番好きなのは『刀術』だな。とにかく刀がかっこいい。デザインやら能力やらを考えたのは俺だけどな。
『〇術』系のスキルを増やせたのは、前に考えていた抜け道を見つけたからだ。しかも割と簡単だった。「刀を扱うのに最善な動きを使用者に強制する」。この能力を付与した刀や、それぞれの武器を創造して訓練しただけだ。
まあ、ほとんどの場合は、筋肉が耐えきれずにちぎれたり後日の筋肉痛がひどかったりする上、特に初めの頃は何がなんだか理解できないから自力での習得に時間がかかったりするんだけどね……あと回復魔法は最強だわ。
無理やり魔法の力で回復するのも少し怖いから、自然治癒力を高める方向で使ってる。真偽、というか効果のほどは不明だ。旧『鑑定』が生きてさえいれば……
ああ、俺は何度この思いを抱けばいいんだろう。前も言ったように、ギフトスキルの『鑑定』が消えると分かってから、思い付く限りのことは調べた。だが、所詮この世界についての事前知識がないガキの知恵だ。テンパってもいた。だから実際に知りたいことに直面して初めて何も知らないということを知ることになるんだ。
うん、そうだな。次の目標はやっぱり図書館的な場所で情報収集にするか。
……おっと、また思考の旅に出てしまっていた。いつまでボス部屋の前でうだうだやっているんだ俺よ。『マルチタスク』までサボっちゃって……
はいはい、それじゃーちゃっちゃとボス倒して次の場所に行きましょーかねー。はーいはいはい。ボス戦攻略RTAスタートでーす。
༅
扉に手を触れると、見上げるほど大きなその扉は、「ガガッ」と、石に引っかかったような音を立てながらも、1度も止まることなくひとりでに開ききった。
そして、中にいるモンスターの姿が明らかになる。何かの肉を食らっていた様子のその大きな姿。何メートルあるだろうか。腰に巻いた布に、特徴的な2本の角。地面に置いてある、そいつの身長と変わらない程大きな戦斧。
これ、振り上げたら体育館の天井に届きそうなくらいあるな。マジででかい(小並感)。
「『鑑定』」
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〇status
・基本情報
名称:キングタウロス
種族:魔物
レベル:124
性別:不明
・スキル
ベーススキル:『乱撃』『衝撃波』『斧術』『咆哮』『金剛』
ギフトスキル:
オリジンスキル:『迷宮適応』
・備考
情報を読み取れません
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ああ、なるほど。こいつが出入りするならあの大きさの扉も納得できる。おそらく、外に出て熊を食い荒らしてたんだろう。『迷宮適応』の効果かな。
……攻略には関係ないけど、まだ鑑定の表記にバラつきがでるな。こっちの意思で表記の方法を変えれるのはめっちゃ便利なんだけどな〜。統一しないとなんか気持ち悪いよな。今回個体値はわざと外してレベルだけ見たけどどうなんだろ。まあ見やすくはあるよね〜。
はい。切り替えよう。備考の読み取れなかった情報は、おそらく『迷宮適応』っていうスキルについてだろう。
「『鑑定』」
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『咆哮』:咆哮により、自分より50以上レベルの低い敵を威圧し、全ての味方を鼓舞する。
『金剛』:物理攻撃によるダメージと衝撃を半減する代わり、魔法攻撃によるダメージが大きくなる。
『迷宮適応』:不明。
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ふむ。じゃあ魔法でガン攻めだな。
あ、ちなみに、俺が鑑定している時間は5秒もかかってない。情報少ないしね。前は板に表示してそれを読んでたけど、今はもう脳内に情報を取り込むようにしてるし。
ちょうど情報を読み取り終わったタイミングで、キングタウロスは戦斧を手に取りこちらを向いた。
「ブルルルルラァァァァァァッッッ!!」
鼻息荒く吼えると、こちらへ向かってこようとする。見た限り変化はないから、今のはスキルの『咆哮』じゃなさそうだな。この隙に一撃で沈めるっ!
魔力を足に回す。足の下へ魔力で干渉し、前方の地面に、見ただけでは分からないように空洞を作る。落とし穴だ。だがこれは保険。それと同時に、本命の魔法の準備を進める。
魔力で世界に干渉する。魔力で触れられる近い空間ではなく、「俺が接しているこの世界」と捉えることで、世界自体に干渉するのだ。
基本的に、魔法では近いところに変化を起こすことしか出来ない。手のひらから石の礫を出したり、炎を出したりがいい例だ。それは、「世界への干渉」という性質上仕方の無いことではある。
だが、この方法を使えば、自分の周囲を起点としない魔法を使うことが出来る。結局はイメージの問題なのだ。無双系の小説でよく見るワードだが、実感したのは初めてだよ。その分アホほどMPを使うけどな。
『鑑定』じゃなくて自力で見つけた方法だから、すごく自慢したい部分だよ、ここ。
魔力による「干渉」を受けた世界は、空気中から水分を絞り出す。こんな狭いところじゃあ水蒸気爆発とかは怖すぎるから、このまま水で攻撃する。
細く、もちろん先端を尖らせて、槍のように。
この前、『貫け』とわざわざ命令で強化していたけど、もうそんな小手先の技術は必要ない。自前の操作技術だけで充分補えているからだ。
「爆発槍」
どうだ、聞いたか。この俺渾身の命名を。丁度よく厨二病っぽくて、丁度よくダサくて、丁度よく技の内容そのまんまだ。すごいだろう。
飛ばした水の槍は、キングタウロスのVIT(耐久力)に阻まれることなく突き刺さった後、、形を崩して体内に侵入していく。そして一瞬で、暴虐の限りを尽くした。
血管や内臓をズタズタにされたキングタウロスはゆっくりと倒れ伏し、そして程なく、ドロップを残して消滅した。呆気ない戦いだった。
「またつまらぬ物を切ってしまった……」
保険を使わずに済んだことにホッとしつつ、ドロップアイテムを確かめにいく。
「おお! ポーションじゃん! ここにきて初めてのポーションだとは!!!」
それは、鑑定するまでもなく、どこからどう見てもポーションだった。青と赤の2種類が、フラスコのようなガラスっぽい容器に入っていたのだ。一応、「違うのかよ!」というツッコミを待機させながら鑑定してみるが、やはりポーションだった。青が魔力回復薬、赤が怪我や体力の回復薬だと分かった。
便利なアイテムであるとこは間違いないのだが、祐里の心情は喜びとは遠かった。なぜなら……
「あぁ……その手があったか……そうか……くっそ……」
そう。祐里の『魔力創造主』なら、魔力回復薬であっても簡単に作ることができたはずなのだ。それさえあれば、今とは比較にならないほど強くなれていただろう。全ての能力がもっと高くなっていただろう。
特に、序盤の成長はもっと速めることができたはずだ。だからこそ、とてつもなく悔しい。序盤のテンポがあまり良くなかったと自覚しているだけに、悔しかったのだ。
悲しみの波に溺れた祐里が、魔力・体力・怪我を回復する総合薬を創ったり、ステータスをかさましできる薬を創るのは明日のことだが、語ることは無いだろう。
ダンジョンの攻略を終えたからか、先程戦闘を行った部屋の中央に魔法陣が出現していた。これに乗れば、おそらく外に出られるのだろう。
「はぁ……」
だが祐里は、まだその選択肢を選ぶつもりは無かった。ダンジョンの中で、人間に会うことがなかった。予測でしかないが、この魔法陣に乗って外に出ればそれなりの騒ぎが起こるだろう。それか、誰もいない秘境に出るかのどっちかだ。
さすがに、最初に『放浪者』で飛んだ階層に誰もたどり着いていない、なんてことはないだろう。何らかの理由で封鎖されているのか。
それはともかく、萎え萎えのこのテンションで騒ぎに巻き込まれるのは嫌だった。ほんっと〜に嫌だった。ものすご〜〜〜く嫌だったのだ。
だからこそ、再び『放浪者』でどこに飛ぶか分からない転移をしようとしたのだが…………
「おいおい嘘だろ……」
愚者のタロットカードは、表も裏も真っ黒に塗りつぶされ、何度試してみても、他の十数枚と同じように、使うことはできなくなっていたのだった。