127 土・雪・赤
モアは、氷帝の言葉を聞いてこのまま魔法を放つか逡巡していた。だが、それも一瞬のこと。すぐに詠唱を開始した。
「『黄道十二門たる金牛宮よ、我に仇なす敵に罰を。圧倒的で残酷なまでの真の暴力を以て討ち滅ぼせ。【穀雨小満の陽】』」
モアの詠唱が終わると、周囲に漂っていた金色の光の粒が鈍い輝きを放つ土塊へと変わる。それがモアの背後へと集まり、円を形作った。そして、まるでサマー〇ォーズの某AIが背負う光の輪のように土塊同士が細い細い光の線で繋がった。
モアが脇腹の前に手のひらを下に向けて手を掲げると、土塊の輪が1箇所切れ、その端が手のひらの元に収まった。
「合わせろ、ユーリ」
「オーライ」
「オー……? まあいい、行くぞ」
「あいよ」
モアがそう言うが早いか、土塊がガトリングのように射出される。先程の雷とは打って変わって静かなもので、イヤリングの音量自動調節も働いていない。
と、そんなことを考えている場合じゃないな。追撃追撃。
「脚なら斬撃も通るかな」
お披露目にもなるし、せっかくならコイツを試す場にしてみようか。
そう考えた俺は、コア・ネックレスからとある小さめの剣を取り出した。
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〇不動・近斬
・分類:片手用両刃直剣。属性:無し
・創造主:黒野祐里/ユーリ。
・人の手で創られた神剣。神器にしては神気の消費が控えめだが、代わりに魔力消費量が大きい。
・距離・防御を無視して目視した対象を切り裂くことができる。剣を振るう行動が必要だが、その振るう速度や力は対象を斬る力に影響しない。切り裂く範囲は固定。
・再使用制限:24時間。代償:魔力・神気。
・御神は*25!//31。製作者の∩7;^°-%||:= 【ERROR 15395。権限を確認し適切な手順でアクセスしてください。】
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俺が取り出したのは、切り札として最近創造した一振の剣。最近編み出した、『神気』を絡めた創造を使い、今の全力で創り上げたものだ。
だが、想定よりも使い勝手は悪い。再使用可能になるまで24時間もかかることや、慮外な魔力消費量など。俺の想像が及ばなかった部分で色々な制限がついてしまっていた。
いずれ創り直す事になるだろうが、それはまだ先。とりあえずは、今のコイツと付き合っていくつもりだ。バグってる文字も気になるし。
「さてさて……」
俺は無造作に何も無い空間を切り上げた。淡い光を放っていた〈不動・近斬〉は、切り上げる途中でその輝きを一瞬だけ増す。そして、その瞬間──
「ッ!」
「グォォォォォラルルァァァァァアアアア!?!!」
俺が体内から急激に失われた魔力に狼狽えるのと同時に、氷帝が初めて痛みに声を上げた。
モアのタウラス・ゴージを用いた魔法と同時に命中したから、どちらに声を上げたのかは分からないが。
「『神眼』プラス『鑑定』……マジ? これで3000ダメしか通ってないの?」
「ユーリッ! 反撃がくるぞ!」
「え……わばっ!?」
氷帝に意識を戻した瞬間、何かに押され突き飛ばされる。無理やり抜け出そうとしても、弾こうとした左手が意味を成さない。回転するそれはツルツルと滑って、掴むことができないのだ。
だが、絶賛突き飛ばされ中の俺はそんな事にも気付けない。結局、右手に持ったアリアーチェをアビストラーチェに変形させ、炎を纏わせて切ることでそれを消した。
(氷か。【風輪】の氷バージョンみたいなもんか?)
俺を押していた元凶が無くなっても、それが生んだ勢いは消えない。その勢いを、俺は『天歩』を発動し空気を踏みしめることで消滅させる。
「雪か」
前を向いてみれば、俺が消したものの他にも同じものが複数飛ばされていた。その正体は、雪でできた輪っか。……雪は、固めればほぼ氷だ。氷帝の持ってた『雪車』っているスキルで生み出されたものだろうし、副次効果が不明なうちは油断禁物だな。
「モア! 無事か!」
「……チッ! 一応な!」
雪車は、視界内に少なくとも10は存在している。直線的な動きではあるが、目標に向けて突撃してくる。俺の『天歩』は、連続で使用する程消費魔力が多くなるデメリットがある。この雪車を全部消すために動き回るのは……面倒だ。
対処できそうな魔道具を脳内の片すみからなんとか引っ張り出していた、そんな時。
「わたしに任せて」
「シロ? なんで前に出てきた……ってかどうやって浮いてんだそれ」
「それは、あとで、おしえる。『雪魔法』……【雪は私、私は雪】っ!」
空中で激しく動いていた雪車が急に動きを止め、そうかと思えば次の瞬間氷帝に向けて攻撃を始めた。
「のっとった。雪は、わたしのだから」
「よく分からんが助かる」
視界の端では、モアが次の攻撃を準備している。氷帝が積極的な迎撃を始めたのだ、そりゃ集中もしようものだ。
氷帝のアクティブスキル──任意で都度発動するスキルは、総じてスキルレベルが低い。そのため、ほぼサンドバッグを殴るようなもんだと思っていたが……今のを見る限り、そうもいかないらしい。
「シロ、後ろに戻るか?」
「うん。これ、あんまり速くうごけないから」
「おけ」
シロの返事を聞いた俺はコア・ネックレスから純白の旗を取り出すと、バレンタインのいる場所へ投擲した。
「此処、此の場は我が聖域。我が祈りは永久の加護となる。我が心血は永遠の祈りである。全ての願いは我が心血を為す。『陣地作成:聖城・祈聖血界』」
純白の大地に、朱の世界が咲いた。
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かっこつけました。特に最後。厨二病サイコー! 難しい漢字サイコー! 変な読み方する技サイコー!
はい。すみませんでした。
忙しすぎて毎日投稿が早くも頓挫しそうで泣いてます。もう少ししたら楽になるので頑張ります……




