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125 神解け

「予定通り、初撃は俺が」


「ああ。任せる」


「……『光り、鳴り、裂く。(つんざ)き、(とどろ)き、(どよめ)く。()は雷。痺れ、燃やし、切り裂き千切(ちぎ)る千変の槍。【神解(かみと)け】』!!!」


 モアが呟くように唱えた詠唱は区切りが多く、魔道学院で数多くの詠唱を聞き研究してきた俺にも何節でどれほどの魔力が必要になるものか判別できない。ひとつひとつの単語は簡単なものだが、その実非常に複雑なものだった。

 技能の名前に「神」を含むそれは、当然のように濃密な『神気』を纏っている。だが、それはおかしい。詠唱内に指定して増幅もさせていないのに、これだけの神気……まるで、本当に神自らが放ったかのようだ。


 その正体は雷。一瞬のうちに目標へと到達するそれは、数秒間モアの突き出した(つるぎ)から放たれ続けたために光の線となって目視が可能だった。

 それは、まるでデタラメな線を引くように予測不可能な軌道で、それでいて無駄な道順を通ったとは思えない速度で氷帝へと激突した。


 そして、ドォォォォォォォォッという轟音が耳に届く。この距離であれば()()はほとんど無いはずだが、これは魔法。使用者のイメージと詠唱でいかようにも変化する。

 と、そんな冷静な事を考える余裕はほとんど無かった。その轟音は、耳が壊れてしまったかと心配をしてしまう程。かろうじて俺が正気を保っていられるのは、ひとえにエリフィンでこの間創った魔道具──イヤリングによる自動音量調節のおかげだった。




 ༅




「今日のスキルは派手ね~、嫌な予感がしたから防音と耐衝撃の魔法陣張っといて良かったわ!」


「クロくん、つらそう。さきに警告してくれないから……」


「それはそうね。でも、仕方ない部分もあるのよ。モアのスキルは『トリックスター』。日替わりで色んなスキルが割り当てられる。でも、スキル獲得時特有の頭に流れ込む情報は、あくまでもただの薄っぺらい情報。実際に使ってみないと分からないことだってあるのよ。……今日のスキルが起こした、轟音っていう副効果みたいなね」


「それは……うん」


「ま、それでも頭に浮かぶ詠唱候補を教えてくれれば私なら推測できたんだけど……それを伝えなかったのはモアの性格のせい。だから、別に責めるなとは言わないわ。悪いのは間違いなくアイツだもの」


 隣に立つ女性が放った言葉は、かなり薄情なもの。でもそれは、ある程度の信頼関係のもとに成り立っていた。矛盾してそうで、成立している。……今のわたしとクロくんの関係とは似ても似つかない。


 クロくんは誰かと深い関係になるのをいやがっていて、中学生の時は告白された後体調を崩したってウワサもあった。だからわたしは自分の気持ちをがんばって隠すようになったし、クロくんの印象になるべく残らないように話しかけることもやめた。


 でも、こんな世界に飛ばされて、よく分からないうちに保護されたりしても、結局いろいろ理由を付けてクロくんを探していた。同郷の人間を求めるだけなら、私と同じ「合格者」のクロくんより、他大勢のクラスメイト達のところに行った方が簡単だった。

 それでもそうしなかったのは、私が求めていたのがクロくんだったからに他ならない。


 結局、私はクロくんが好きなのだ。隠しても、話すことがほとんど無くても変わらない。だから、こんな所で死ぬわけにはいかない。

 “このままだと、帝国は人が住める場所ではなくなる。” 皇帝は言葉をにごさずそう言った。でも、多分それだけじゃない。近くの国だって、巻き添えはあるはずだ。この世界に住めなくなるのは困る。まだ、地球に戻る方法が分かってないんだ。


「ほんき、だす……『雪魔法』、【ペニテンテ】っ!!!」


 ……わたしのために、かわいそうなカメさんにはどいてもらおう。

読んでくださってありがとうございます。


ペニテンテは実在する言葉です。でも、現実の現象をまんま落とし込んでる訳ではありません。

他の技名──言葉でもそうですが、多少の改変をしています。

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