123 叱・観・創
「まったく、心配させないでよ。 攻撃手が1人減るかと思って焦ったじゃない!」
濃度2へと退避した俺を迎えたのは、バレンタインからの叱責だった。その横ではモアが厳しい顔をしており、さらにその横ではシロが心配そうな目でこちらを見ている。
「悪い悪い、警戒心が死んでたわ」
「はぁ……まあいいけど、それで? さっきの凍結はどんな感じだったの?」
俺への追撃もそこそこに、状況分析へと入るバレンタイン。今もなおHPとMPが減り続けている状況なため、悠長な事はしていられないのだ。
「多分、濃度3に入ったら無条件で凍るな。MPと……あとHPも減らされたから、対策無しだと無理ゲー。んで、このヘアゴムがその対策。無骨な飾りだけど許してくれ。ちなみに有料ね」
相変わらずふざけた値段を要求してみたが、バレンタインもモアも、迷うことなくポンと支払ってくれた。上客って奴だな、でも付き纏われたりすると面倒だからあんまり売りつけるのはやめとこう。
……あれ、付き纏われるのはもう確定してたんだっけ? 萎える……いやいや、そこはもう吹っ切れたんだった。セーフ。危なかった。
こうして、おそろっちのヘアゴムを装着した4人組+おまけの皇帝という世にも奇妙なパーティが完成した。
「行くか。濃度3の制限がまだ分かってないから、各自注意していこう。確認する余裕があるか分からんからな。あのデカブツ、氷結してない存在には反応して攻撃してくるかもだし」
「それでも、氷結が無いってだけでかなり楽になるのは間違いないわね。それじゃ、行きましょう」
「ユーリ、予定通り『鑑定』は任せたぞ」
「ああ」
4人は互いに表情を見渡し、俺達は濃度3へと突入した。……皇帝にヘアゴム渡していないのは、忘れてるって訳じゃないぞ。奴は、濃度3に入らない方が良いのだ。
4という数字を大事にするなら、濃度3に4人しかいない、という状況はその数を強調してくれるはずだし……皇帝が濃度3にくると足手まといになりそうな予感がするのだ。
これは『直感』スキルによるものじゃなく、ただの予感である。
༅
俺は再び、無風の世界に足を踏み入れる。しかし、今度は氷漬けになったりしない。アゲハはコートの内ポケットで静かにしている。スキル『透過』の効果で、コートの内側からでも外の様子は見えているらしい。
さっきは詳しく観察する余裕は無かったので、今度こそ濃度3の様子の把握に務める。
足元はやはり寒さに侵食されているが、濃度2のように草花が氷結してはいなかった。というか、現状足元に生えているであろう草花を視認することは出来なかった。
なぜなら、その上から雪が降り積もっていたからだ。といっても、積もっているのは1センチ程度。足が取られる事は無いだろうが、逆に滑らないように気をつける必要がある。
上を見上げれば静閑な青空が広がっているのだが、視界に入ってくる濃度2(吹雪)との境界や亀の頭が異様さを演出している。
亀がこちらを攻撃しようとする様子はない。まだ俺達に気付いていないのだろうか?
『鑑定』で自分のステータスを覗けば、HPとMPがぐんぐん減っていく。毎秒3のペースだ。常人じゃ30秒も立っていられないだろう。
だが、これだとさっき氷結した際の減り具合とは見合わない。やはり、氷結状態だと減少スピードが増すのだろう。
「環境ダメージが痛すぎるな。お前ら、HPとMPは大丈夫か? もしやばそうならHPだけでもかさ増しできる魔道具を創ろうか」
「私は……厳しいわけじゃないけど、面倒ね。そもそもMP特化でHPは低めだし、常に回復魔法陣を展開し続けるのはさすがにダルいから。HPだけお願いするわ」
「俺は問題ないな」
「わたしも。だいじょぶ」
3人から返ってきた返事は、正直意外なものだった。このハイペースで迫る死に抗うには、かなり特殊な力が必要だからだ。高レベルのHP自動回復スキルとか、スリップダメージ無効とか。…………あれ、意外と普通のスキルで対応できるじゃん。前言撤回。
皇帝の声は濃度の境界を挟んでもう聞こえなくなったので、返事は察するしかないが……まあ大丈夫だろう。なんか隠してたけどタロット持ってたし。
「『魔力創造主』【再創造】。金は後でな」
「ありがと。……座標指定、並列展開、多重展開。『無属性魔法』【身体強化】・【魔力強化】・【強化】。前見せたみたいに魔法陣をくっつけてる訳じゃないから、制限時間はあるけど効果は高いわ。じゃ、攻撃は任せるわね」
「あれ、スキルは普通に使えるな。制限は変わらずか?」
「ううん。スキルレベル6の『気配察知』がなくなっちゃった。制限がキツくなってる」
シロのセリフで確認してみると、濃度3ではスキルレベル7以下が使用不可だと分かった。……バケモンすぎだろ。常人だとほとんどのスキルが使えなくなるから、ただ死ぬのを受け入れるしかないってことだぞ。その上問答無用で氷結させられるし。
しかも、これら全部が殺意のあるちゃんとした攻撃じゃないのだ。その異常さがわかるだろう。
……はぁ、いつまでも呆れてても仕方ない。いくら『高速思考』があるとはいえ、今もHPは減り続けてるんだ。無駄な事はやるべきじゃないな。
間延びしてますね。この辺、書き方が悪い自覚はあるのですがいい改良の仕方も思い付かず。申し訳ない限りです。
濃度2は吹雪ですが、足元に雪は積もっていません。視界が遮られ、小さな氷の礫がたまに打ちつけてくるだけです。
濃度3は晴れていますが、足元には雪が積もっています。視界が通りますが、足元の雪に触れると氷結(広義では封印の一種)されます。