120 第一歩
凍土の端が少しずつ迫ってくるのを、肉眼で捉えている。少しずつ、本当に少しずつこちらへ近付いてくる。範囲内には入っていないはずなのに、視界を占める真っ白な景色が、肌寒さを想起させている。
目線を左右に振れば、そこには今から共に戦う仲間の姿。全身冬装備の低身長元クラスメイト女子シロ、全身真っ黒無気力系びっくり箱モア、そんなひらひらな服でホントに前線張れるのか心配な女性バレンタイン。
そして、後ろを振り向けば少し離れた位置に皇帝がいる。……そういえば、皇帝の名前まだ聞いてないな。…………「グラン帝国」って名称なんだし皇帝の名前もグランか。そうだよな、多分。うん、そういう事にしておこう。
今から俺達は凍土へと踏み込む。それはつまり “寒波” の掌握領域への侵入だ。
1番外側の凍土──濃度1は、特殊な物がほとんどないただの低温の世界。その低温でもって、体力と魔力が少しずつ奪われる。地味な、地味な開戦になる。
……こういう緊張感は、破りたくなるのが人間というもの。足は動かさないまま、凍土の領域に手を突っ込んで、様子を確かめてみる。
「寒さを感じないのはいいんだが……HPとMPは減ってんな」
「んー、多分結界のようなものでしょうね~。厳密に言うなら領域……環境侵食型の高位階魔法と原理的には一緒なんだと思うわ」
「へぇ。さすがは〈魔法陣〉、魔法には詳しいんだな?」
「そりゃそうよ。私、基本属性も発展属性も光闇無属性まで全部極めてるんだもの。オリジンスキルのおかげだけどね」
バレンタインの何気ない言葉に絶句する。少しの間だが魔法を専門とする学院で学んでいたから、その異常性が分かったのだ。後ろで、皇帝も驚愕に包まれている気配がしていた。
基本的に、スキルオーブによってほとんどのスキルは手に入れることができる。当然、流通量=レアリティの違いはあるが、大体は獲得可能だ。ただ、それによって獲得したスキルは、例外なくスキルレベルが1なのである。
……いや、スキルによってはスキルレベルが存在しない物もあるから、そういう奴は例外と呼べるか。
火、水、土、風の基本属性をレベルmaxまで上げている人間は、おそらく両手で数えられる程しかいないはずだ。
スキルレベル8を超えると『神気』が絡んでくるから、一層鍛えるのが難しくなる。そのせいもあって、魔法スキルのスキルレベルmaxは1属性であっても相当自慢できる扱いなのだ。
少なくとも、エリフィンでは宮廷魔術師を確約される程の扱いだった。……実際にその権利を行使できた人間はまだいないようだったし、どれほど凄いことか分かるだろう。
発展属性まで全てレベルmaxともなれば、この世界に唯一、と言い切って良いほどの異常さである。Sランクという枠には収まらないように思えてくるや。……ダメだな、学院にいたから感覚が一般人寄りになってる気がする。
同じSランクとして、それくらいのレベルを求められることもあるだろう。それに応じる必要なんてないが、力はあった方が楽しい。少なくとも、強者の宴に混ざれないのはイヤだ。せっかく異世界に来たんならバケモンに混ざって俺もドヤ顔したい。どうにかせねば。
「一応、このパーティのリーダーはアンタなんだし。意気込みみたいなの、なんか言ったら? 一応国のトップなんだし、慣れてるだろ?」
「……いいだろう。……コホン。えー、今回は俺が無理やり巻き込む形になって、申し訳なく思っている。だが、互いに利のある行動のはずだ。俺は後ろで支援するだけ、という形になったこともまた君たちの──」
「よし、そろそろ行くか」
「そうね」
「はーい」
「そうしよう」
「………………連携はもう問題ないみたいだな? あぁん?」
俺達は、躊躇なく凍土に足を踏み入れ開戦の幕を切って落とした。
伸ばした癖にこの短さと出来。申し訳ない。期限を決めると仕事できなくなる性格なの忘れてました。ごめんなさい。
面白い小説見つけたことも相まって投稿ペース落ちてます。次の投稿はいつになるだろう……
頑張ります。それでは。