119 飯くれ
「なんで!? 出られなくなってる!?」
ヒステリックな声が、栄養の足りていない頭に響く。声の主は……千彩か。
俺や先生含むクラスメイト達は、結局食料問題を解決できずにこの国から逃げることを選んだ。情報収集等にも尽力した後の苦渋の決断だった。
だが、それらの尽力が裏目に出てしまった。結果、俺達は逃げ遅れた。この国には大規模な結界が展開され、中から外へも、外から中へも移動することができなくなっていたのだ。
安全策だと思っての行動が、裏目に出た。その事が思ったよりも大きかったようで、クラスメイト達の雰囲気はすこぶる悪い。誰かが口火を切れば、殴り合いにまで発展しそうなほど。
「……こっちの国にゃ知り合いもいねぇし、頼れる人も……そうだ、俺達が転移者だって言えば皇帝がどうにかしてくれるんじゃねぇか?」
「たしかに! ノーランド国王から連絡がいってるだろうし、きっと保護してくれるよ!」
マニが思い付いたように発した内容は、たしかに現状唯一の光だった。
なぜ今まで思い付かなかったんだ、と考えてしまうような単純な策ではあるが、それも仕方ない。
俺達は一般市民で、王宮から離れた生活にもかなり慣れきっていた。国のトップに直訴しようなんて考えは、このタイミングでは出づらいものだろう。
王宮までの道のりは、重い空気も気にならなかった。なぜか。単純な話だ、周りが俺達と同じくらい悲惨だったんだ。
食料が尽きたのかフラフラと道ばたを歩く男、強盗に押し入られたのか大きく窓が割れている家々、恐怖に耐えられなくなったのか奇声を上げながら走る女性。最初の頃の買い占め騒動とはまた一風違った地獄だった。
やがて、帝都の中心に着いた。大きくそびえる城の頂上からは魔力光が発されており、結界の中心でもあることが見て取れる。その光が神々しさを演出し、ただでさえ威圧感のある城は荘厳さを纏っていた。
「皇帝陛下は現在、城を空けております。申し訳ございませんが、我々では判断が付けられない部類の話でございますゆえ……希望に応えられぬこと、謝罪致します」
その言葉に、皆が「そんなバカな」という顔をする。まるで、予想外だとでも思っているかのように。
だが、そんなはずは無い。道中の暗い顔を見れば馬鹿でも分かる。もし、拒否されたらどうしよう。万が一、食料が手に入らなかったらどうしよう。そんな悪い想像が、浮かんでいたはずなのだ。
「……とはいえ、この状況で放り出すのは悪手には違いありませんな。豪華とは到底言えぬ部屋と食事で良ければ、私共が工面して差し上げましょう」
クラスメイト達の雰囲気から何かを感じたのか、豪華な応対室で相対している方がこんなことを言ってきた。
先程までのお堅い返事からは一転した、柔らかい態度での、譲歩。明らかに怪しい。
「ほっほ。不思議そうな顔ですな?」
「え……いや……」
「なに、そう難しいことではありませぬ。貴方方を助けることは、言わばノーランド王国への貸し。隣国へ貸しを作れるというのは、言葉より数倍は重いものなのですよ。貴方方は、ただ生きるために我々の手を借りるのがよろしいでしょう。気にすることはありませぬ」
柔らかな微笑みに絆された訳では無いが、俺達はその言葉を受け入れることにした。
俺達の行動で、王国に迷惑がかかろうと知ったこっちゃない。そもそも、帝国に送り込ませたのは王国だ。諸悪の根源と言ってもいい。
……いわゆる、アレだ。「俺、しーらね」ということだ。
だって、俺達は悪くないんだから。
評価お願いします
視点主は、幽崎白夜です。彼はクラスメイトと仲間だと思ってないので、なんか言われても俺と妹だけ抜けて旅でもしよう、と考えています。自分と妹が良ければいい訳です。普通ですけど。
にしてもめっちゃ短いですね。でも多分明日書こうとしても同じくらいの文しか書けないと思うので、明日はお休みさせていただきます。その分いい文が書けるよう頑張りますね。
ほんとに申し訳ございません。
それでは。