012 飛
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ダンジョン。迷宮。どちらも同じものを指して使われる呼び名だ。世界各地に散在している小迷宮。十等から一等まで、その数字が少なくなるほど難易度が高くなる。そして、世界にある7つの大陸、そのそれぞれに1つずつ存在している大迷宮。その7つの全てが、未だに制覇されていない。
大迷宮は、全て等しく上にのびている。雲がかかるその様を見て、天の塔と呼ぶ者も少なくない。それに対し小迷宮は、下へ下へと続くもの、大迷宮の半分にも満たない高さではあるが上へ登るものの2つ、どちらもが存在している。ただ、一等迷宮だけは、上へとのびるものばかりだ。
小迷宮を制覇し、多くの財宝や魔法、スキル、食料などを得た人々は、その誰もが夢見た。大迷宮を制覇したのなら、どんな素敵なものが得られるのかと。
旧『鑑定』による記述より一部抜粋
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༅
「クマさんのレベルもだいぶ上がってきてるな……そろそろ終点か?」
この迷宮を進み初めてから5日。俺は、通常では考えられない速度で攻略を進めてきた。それを可能にした理由のひとつが、移動手段の改善だ。
アンチグラビティ-フライボード。ものすごく簡単に言えば、空飛ぶスノボだ。
『魔力創造主』で生み出した、反重力と浮遊の概念を付加した石っころ。通称(俺称)『飛翔石』。こいつは魔力を流した時にだけ効果を発揮するんだけど、砕いてスノボの板に張り付けると、石の力で浮くことが出来る。
スノボの板には前後左右の推進力を風魔法を付加しているから、それで移動できるのだ。いろいろ端折ったけど大体こんな感じ。
俺のギフトスキル『魔力創造主』は、コツを掴んでからかなり使いやすくなった。というか、ほんとになんでも創れるようになった。ただその分、創るものによってはビビるくらい魔力を持っていかれる。
好奇心を抑えられずに、かの伝説の剣『エクスカリバー』を、「なんかすごいビームを撃てる剣」というイメージで創ろうとした時に、当時の最大MPである300を消費した上で、失敗という結果に終わってしまった。MP不足しか理由が思い付かないから、使えるMPが50000になったら再挑戦してみるつもりだ。
レベル上げ目的で同じ階層をぐるぐる回ってると、いろいろやりたいことを考えてしまう。やっぱ刀とか使いたいよなー。ただ扱いが難しいから手を出しにくいんだよ。
俺が『魔力創造主』で創れるのは質量を持つものだけだ。なんとか抜け道を見つけられればいいんだけど、どうにも高望みっぽい。
レベルの上がりも悪くなってきたし、そろそろ次の層に行くか。この階層は投擲縛りしたし、次の階層はトランプ縛りでもするか。今会いに行くよくまくま。
༅
「よっと」
「グラァァァァァアアア!!!」
首筋を切られ、血を吹き出しながら叫ぶ熊。相対する男の手には、数枚の小さなカードのみ。
「『同スート』」
祐里が5枚のカードを前にかざし、小さく呟くと同時に、目を開けていられないほどの眩い光が爆発する。祐里は、光で何も見えていない筈なのにも関わらず、迷いなく手にしていたカードを飛ばす。
「乙」
光が収まると、羽の生えた熊が地に伏せているのが明らかになった。
「なかなかお強いクマさんだった……」
祐里の呟きが漏れる。魔力で補助してなお短いリーチであるトランプの影響で、倒すのに手間取ったことを憂いているのだろう。多分。
「レベル80越えてるとさすがに耐久がすごいねぇ」
祐里がこのダンジョンを進み始めて、これが6日目だ。だが、この男は6日目間も迷宮で寝泊まりしている訳ではない。
祐里が使ったランダム転移。あれは、タロットの零番、「愚者」を使った魔術だ。
「愚者」を使ってできることは3つ。1つは言うまでもなくランダム転移『放浪者』。2つめは、超限定的な事象の改変『愚者』。これの説明は、今は置いておこう。そして3つめが、任意の場所への転移『旅人』だ。この3つめの力で、例の森に帰還して寝泊まりしていたのだ。
そのため、あの森にはかなり住みやすいように改造が施されている。地主がいるかも、と考えはしたが、そう認識した上でいろいろやったからタチが悪い。
また、「愚者」の力は使い放題なのかと言うと違うのだが、それはまた別の話。
「しっかし、小説だといろいろ騒動に巻き込まれるもんなんだけどなぁ……ちょっと暇すぎないか……単純作業を延々と続けてるようなもんだし。飽きてきたし。うん、よし、もうレベル上げはいいや!一番下までつっ切ろう!!!」
今までの地道なレベル上げをする慎重さは、既に死んでしまったようだ。思い付いたが吉日と言わんばかりの即断即決即行動で、フライボードに飛び乗るのであった。
「待ってろラスボスぅぅぅうううう」
他の登場人物が登場してくれない。なんでだろう。