118 書き手
「俺は戦闘に直接的な関与ができない。それは、俺が4という数字に対してしか力を発揮できないからだ。ユーリ、バレンタイン、モア、シロ。お前ら4人が動き、俺は補助に回る」
「補助の内容は?」
「4人であることに対するバフは、自動的な物になる。効果は、物理攻撃・魔力攻撃・防御・回復の4つを強化する。倍率は一律4倍。制限時間は無いが、効果範囲に限度がある。444メートルだ。だから、補助役とはいえ俺も凍土に踏み込むことになるな」
「……そりゃすごい。見事に4尽くしだな。物理と魔力に限定される強化ってことは『神気』は対象外なのか?」
「その通りだ。魔法スキルに『神気』を込めようとすると魔法だけが4倍強化されるから、いつもと感覚が狂うはずだ。気を付けてくれ。最悪でもスキルが発動しないだけだろうから、致命的なことにはならんだろうが……」
皇帝や他メンバーとの作戦会議はそれなりに真面目に続き、互いの手の内もある程度晒しもした。
“寒波” へ向かって歩きながら続けられたそれは、付け焼き刃と呼んで差し支え無いものだろう。直前に味方の能力を知ったからって、すぐに上手い連携が取れるわけが無い。
だが、一つ一つのパーツはかなりの力を持っている。無駄にはならんだろう。
「見えた。アレが端か、確かに少しずつ侵食してきてんな」
「すごいわね、素の視力でそれなの? それともスキル?」
「いや、魔道具だ。『魔力視』、『罠看破』、『神眼』付き。目と同化するから邪魔にもならず、魔力消費も小さい。『神眼』で視力の補助も可能だ。1枚白金貨5枚、両目分は白金貨8枚で売ってもいいよ?」
「あ、私買うわね。はい、16枚。……私とニコの分だから。モアは自分で買いなさい」
「……はぁ。分かったよ。すまないなユーリ、俺の分も頼むよ」
ポンと躊躇なく渡された、不思議な光沢のある貨幣たち。軽くやり取りしているが、とんでもない金額が動いている。
白金貨1枚は、日本円換算して約100万円だと思ってもらえればいい。つまり、今の一瞬で2500万円近くの金額が動いたのだ。
「『魔力創造主』【再生産】……はいよ。壊れたら連絡してくれ、気分が良ければ新しいのを渡すよ」
「ありがたいわね~、こういうのってシグのスキル対象外だもの~」
「支援はアンティに頼りきりだしな」
「そうね、私も支援よりは攻撃と防御の方が得意だし」
バレンタイン達の会話からは、大金を消費したことに関する感情の動きが感じられない。彼女達にとっては、この値段の買い物は特別なことでは無いのだろう。
「それで、これはそのまま目につけるの? それとも魔力を通しながら?」
「そのままでいいけど、目をスキルかなんかで保護してるなら解除しないとダメだな。取り外す時は、目に魔力を流して頭の中で外したいって思えばいいから」
「…………これ、さすがにちょっと怖いわね。目に何か入れるのって初めてだから仕方ないんでしょうけど……」
「……おお、一体化したな。……これはすごいな、魔力を流さない状態でも視覚補助があるのか」
「さっき言ったスキルの発動は、起句がいる。発声でも思念でもいいけど、思念で発動するのはちょっと慣れがいるよ」
「ほう。『魔力視』起動……ッ!?…………チッ、失敗だったな。“寒波” の魔力が異常すぎて目が潰れるかと思ったよ」
モアが目を抑えながら首を振って、視界を元に戻そうとする。
自動で働く視覚補助によって、『魔力視』だろうが『神眼』による遠視だろうが、目が潰れる事態にはならない。少し放っておけば済むはずだ。
そうして、凍土の端を視認できる者が3人に増えた。だが、それもあまり意味が無いかもしれない。
遠く離れたここからでも、“寒波” による凍土内の吹雪が見えているから。
「……そーいや、『神眼』の遠視と看破で “寒波” の正体も見れるんじゃね?」
「んだよ、それができるんならさっさと頼むぜ」
「さすが皇帝殿、人使いが荒い。『神眼』起動」
かつて、『千里眼』の持ち主が “凍土” を観察したという文献が残っていた。だが、深度3──凍土の中心近くで起こったことが辛うじて見える程度だったという。
だが、似たスキルである『神眼』は、『千里眼』のような転移能力は持たない代わりに、看破能力が極めて高い。……だから、見えた。
「…………亀?」
「亀だな」
「デカい亀ね」
はた迷惑なヒエヒエ野郎の正体は、死ぬほどデカい亀だった。
曇り空や凍土内の吹雪によってその正体を隠し続けてきた “寒波” は、今、その姿を初めて人前に晒したのだった。
評価お願いします。
話のタイトルと内容に繋がりが感じられないかもですが、察せる人はなんとなく察せるかもです。
私からはまだ明言しないでおきますね。
クラスメイトの話を挟んで、その次にはいよいよ“寒波”戦です。この前「ここで3章折り返しです」とか言ってたのに、後半の文量2倍くらいになりそうな気が……おっと誰か来たようだ
それでは。