117 読み手
短いです。
「師さま、何かあったんです? めっちゃ雰囲気変ですけど」
「……いやなに。ちょうど、この時間だろう。“寒波” 攻略戦は」
「ああ……そういえばそうですね」
「……やっぱルコセンの敬語違和感パネっすわ。キショいっす」
「メアちょ殴られたいガンボーあったとか知らなかったわ。待ってなこれ運び終わったらぶっ飛ばしてやっから」
私の返答を軽く流して突如喧嘩を始めた2人の女性。私を師として付き従うこいつらは、いつもこんな調子であった。真面目な講義にもこんな雰囲気で臨むものだから、講義を途中で打ち切った事も少なくない。
妹分であるメアは、ズバズバと思った事を言う。喧嘩の発端になるのは大体コイツだ。相方を先輩と呼ぶ割に、尊敬の念は全くないようだ。あと巨乳。
もう1人の名はルコ。喧嘩っぱやい性格で、すぐ手を出そうとする。悪気のないメアの言葉にも突っかかり、メアの撒いた火種を大きくするのがコイツだ。あと虚乳。
2人には、共通する身体的特徴がある。それが、頭から伸びる細く鋭いツノだ。特殊な魔力機関として働くそれは、2人の能力全てを著しく向上させている。スキルも、身体能力も、神気も、覇気も、精神力も。あまねく全てだ。
もちろん、悪い面も持ち合わせているが、本人達は受け入れているようなので私がとやかく言うことは止めている。
2人が冒険者へと身を落とせば、Aランクまではすぐに到達できるだろう。……冒険者などという恥も外聞もない職業であっても、強さの指標としては役に立つ。
まあ、冒険者である私がそんな事を言っても意味は無いだろうが。
「そういや師さま、“寒波” の正体ってなんなんです? 寒いダジャレばっか言ってるおっさんとか?」
「……この世界には、“帝級” と呼ばれていた魔物がいる。〈鋼帝〉、〈炎帝〉、〈水帝〉、他にも数種。それらは、通常の魔物とは一線を画す存在だ。発生する要因も様々。そこに名を連ねるのが “寒波”、〈氷帝〉だ」
「……で、その正体は?」
「亀だよ。もっと詳しく言えば、ジュエル・タートルの亜種、フローズン・ジュエルタートルがさらに変異したものだ。氷石亀、と呼ぶ者もいたらしい。……この本に色々と書いてあるから、興味があるなら読むといい」
「師さまあざー!」
私が何も無い空間から取り出した本を受け取ったルコが、その本をくるくると回しながら整理中の荷物の上に乗せた。
〈本の行列〉。私のSランク冒険者としての2つ名であり、私の特質を示している。単に〈賢者〉と呼ぶ者もいるが、通りが良いのは前者だ。
過去・現在・未来に存在する遍く書物を読む権限を持ち、それらの書物を自在に取り出すことができる。それが私、〈賢者〉ペンウィグニア・ラッベットラの持つオリジンスキルの効果である。
私の知り得た “寒波” に関する「未来」は、もうすぐ「現在」へと移行する。それはつまり、新たな帝の誕生であり、同時に災厄が近付いた事を示す。
「……時間が足りんな。仮説検証だけでこれほど時間が食われるとは……」
私のその呟きは2人の弟子にすら届かず、重く積み重ねられた本の海に消えた。
短いし新キャラだしで「評価お願いします」とか言えるレベルじゃないですねこれ。
はい。新キャラです。メガネ(貧乳)万能賢者と、長身ツノ持ち巨乳と虚乳の義姉妹です。
次話は匂わせとか焦らしとか無く本編を進行し始めます。お待たせしました。
……張っておきたい伏線が多くて困る。
それでは。