116 直前・備
短いです。すみません。
Sランク2人を味方に引き込むことに成功した俺は、この事を伝えるため一旦城に戻ってきていた。
「……驚きましたな。我らが皇帝が補助に回るとは。私には分かりませんが、御仁達は相当な猛者らしい。この国の命運、任せましたぞ」
宰相の言葉も聞こえているかどうか分からない。呑気な表情と、他のことに気を取られた様子を見れば色々な気持ちが失せそうになる。
だが、コイツらは紛れもない強者。おそらく、タロットを使わなければまともに戦うことすら難しいだろう。それを知っていれば、一周まわって頼もしく感じるというもの。
彼らを見ていると、俺の視線に気付いたユーリという青年が声をかけてきた。
「あ、これ渡しときますね。『体温固定』と『低温耐性』の効果付けたんで持っといてください。ブレスレットなんで邪魔にもならないでしょう」
そうして渡されたのは、その無造作な挙動からは想像もつかない程品質の高い魔道具だった。使いどころが限られるのが難点だが、それでも優に白金貨は超えるだろう。
「正直助かる。必ず傷を付けずに返す」
「え、別にいーっすよ。返されても消すだけなんで、持っといてください。めんどいんで」
その短いやり取りだけで、相手の異常性を理解する。彼にとって、この程度の魔道具は使い捨ての低級ポーションのような感覚なのだろう。
「ちょっとー、それ私達にもちょうだいよー」
「当たり前だ、戦闘メンバーにはちゃんとした奴を渡すよ。はい、こっちが『体温固定』『低温耐性』『氷結耐性』のついたブレスレット、これが『視界補助』『移動補助』『温暖結界』のついたネックレス。命綱だぞ、無くすなよ? あとこっちも返却いらないから」
「……ありがと、貰うわね」
「すまんな、皇帝に防寒魔道具を借りようか考えていたんだ。助かる」
バレンタインという女性、モアという男性が、ユーリから魔道具を受け取る。俺が渡されたものより数段は上の物だ。
「……ハッ」
思わず苦笑がもれる。俺は一国のトップに立ち、最強と呼ばれ、そうなったつもりだった。だが、やはり所詮は小さな世界の王だった。外には──上には上がいるもんなんだな。
「観測班からの報告は?」
「この国にぶつかるのは、ちょうど今から1時間後だと予想が上がっていました。迎え撃つのならば、ここを出発するのにちょうど良い時間かと」
「そうか。……力を借りるぞ、お前ら」
「はいはい」
「いぇーい」
「は~い」
「ああ」
相変わらずやる気も何もない声と表情だが……もう返事をしてくれるだけマシか、と少しずつ思うようになっていた。
評価お願いします。
明日はいつもの長さでかけると思います。今日はキツかった。ごめんなさい。