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107 見・皇帝

「見えた」


百兄(びゃくにぃ)、もっと()鍛えたら?」


「ムズいこと言うなよ。訓練の仕方なんて分かんないって。……それに、その()を受け入れるのは……まだちょっとな。(しとね)に使わせておいてアレだけど」


「それはいーよ。私は見えすぎて慣れちゃっただけだもん。アイツらに殴られて地球(あっち)だとそれどころじゃなかったのも知ってるから」


「……ああ。ありがとう」


 (しとね)が俺の背中にしがみつく。この世界に来て自分達の全てを改めて受け入れようとはしたものの、そう簡単にはいかなかった。

 ……(しとね)は最初から、受け入れていたみたいだけど。俺の心が弱いのだろうか?


「『鑑定』」


 ────────────────────────

 〜ステータス〜


 名前:幽崎白夜(ゆうさきびゃくや)

 性別:男

 年齢:16

 種族:ヒューマン

 職業:付与術師

 レベル:37

 HP:260/260

 MP:316/316


 ・ベーススキル[P]

 『悪付き(-)』『*隠れ身(2)』『*魔力増強』

 ・ベーススキル[A]

 『小剣術(3)』『付与術(4)』『鑑定(3)』『物理攻撃軽減(3)』

 『*瞳術(5)』『*雷属性魔法(3)』『*魔法攻撃軽減(2)』

 ・ギフトスキル[P]

 無

 ・ギフトスキル[A]

 無

 ・オリジンスキル[P]

 『結付き(-)』

 ・オリジンスキル[A]

 無

 ・異能

 【縁魔(えんま)慧眼(えげん)】【不神(ふみ)鶴髪(かくはつ)


 称号

「異世界人」「虐げられし者」「異能力者」

 ────────────────────────



 ──異能。こちらの世界に来てから知った、俺たちが元々持っていた謎の力の正体。虐げられる要因だったこの白い髪と、赤い目が持つ、力の詳細。


 この力を使おうとすると、どうしても地球にいた頃の、殴られ、物を投げつけられ、飯を抜かれたあの日々がフラッシュバックしてしまう。

 (しとね)が能力を問題なく使えるのは、そういった実害を俺が庇って引き受けていたから、というのも少しはあるだろう。


「あれが……“寒波” の正体か」


「おっきいよね。逃げるしかないよ」


「だな。……ここもすぐに凍る。さっさと戻ろう」


「あの人たちにはなんて言うの?」


「何も。異能の事を言うつもりは無いし、スキルも開示しないよ。……いざとなれば、逃げるべきだとは言うかも」


「勝手に2人で逃げればいいのに」


「追いかけられたら面倒臭いだろ?」


「……そうかも」


 自分で言ってて思うが、改めて俺達は他人とのコミュニケーションに消極的だな。

 この世界で生きていくとすれば、最初に転移したノーランド王国に飼われるか、冒険者として出て行くかの2択だろう。後者を選ぶなら特にコミュニケーションは重要になってくるはずだ。……練習しないとな。


 拠点である宿の一室に戻れば、また食料問題でギスギスした空間に(さいな)まれる事になる。コミュニケーションが苦手という理由だけでなく、宿への足取りは重かった。




 ༅




「……まずい、か」


 顔を突き合わせた男たちが、低い声でなにやら話し合っている。誰も彼もがしかめっ面で、話す内容が重大であることを示していた。

 上座に座るのは、この国の主。最たる強者だと恐れられ、信頼されている皇帝ジンク。席を連ねるは家臣達である。


「ここまで来れば、さすがに現実逃避のしようがありませんな。……このままでは、“寒波” が直撃する、ですか。笑えませんなぁ」


「途中かなりズレたのに戻りやがったからな。まったく運が無い。……どうするか、国家規模の大結界では濃度(のうど)3の凍土には耐えられんぞ」


 今会話に出てきた「濃度」とは、“寒波” の周囲を侵食している凍土の強さを表現する言葉である。主に3段階に分けられるそれは、外から順に濃度1、濃度2、濃度3と呼ばれている。

 この世界では当然の認識だが、様々な現象の要因は全てが魔力である。そのため、魔力の濃さ──つまり濃度という表現が用いられるのだ。


「……あえて最初に案を出しておきましょうか。帝都のみに結界を集中させ、他の街々を切り捨てる、というのが最も簡単に実現可能な方法ですが、どうなさいますか?」


「別にそれでもいいんだがな。結局、守られねば生きられない、ってのは弱者の証明だ。……だが、俺は皇帝。この国を強いままで保つために、切り捨てる事はまだ選ばん」


「では、どうなさいますか」


「俺が出よう」


「…………はぁ。そう仰ると思っておりました」


「さすがだな、この俺の幼なじみなだけはある」


「談笑する余裕は、今の私にはありません。どうか察してくだされ。はぁ。皇帝が万が一敗北するような事があれば、この国は終わりですぞ。結界も保てず、四分割構造の恩恵も無くなり、()()()()が保てない可能性すらあります」


「理解している。だが、俺が出なくても全部が全部氷漬けになって終わりだろう? 最も可能性があって、行動に移しやすく、成功時のリターンが最も大きい。ただ、上手くいく可能性が死ぬほど低いってだけだ。何も問題はない」


 皇帝の言葉はよく聞けばめちゃくちゃな理論だが、周囲の者たちは納得を示しているようだ。……いや、どちらかというと説得を諦めているみたいだった。これがいつもの事なのだと察せられる。

 皇帝の幼なじみらしい官僚が、あごひげをさすりながら遠い目をしている。口をモゴモゴさせて、次に出す言葉を練っているようだ。


「……はぁ。そうですな、分かりました。皇帝の出陣を決定として、周りを固めましょう。出陣自体についての議論は時間の無駄になるでしょうからな」


「おい、嫌味っぽいぞ。ちょっとは抑えろよ」


「おや、これは失敬。内心の呆れが漏れてしまったようですな……それはともかく。皇帝、出陣なさるのならお供をつけてくだされ。最低3人、多くても3人。それが条件です」


「……確かにそれなら、多少はマシだが。着いてこれる奴がいるか?」


「それを探せと言っておるのです。……もし、最後まで人数が足りなければ。……私が参りましょう」


「……分かったよ。じゃ、今回の会議はここまで。俺は着いてこれる奴を自分で探してみるから、お前らは適当にお触れを出して自薦する奴を集めててくれ。そうだな、明日の朝でいいだろ」


「かしこまりました。はぁ。行ってらっしゃいませ」


「おう」


 皇帝が真っ先に部屋から大股で出て行くと、官僚達は一斉に大小様々なため息をついた。


 寒波の影響はまだ出ていないため、そのため息達は白くはなかったが、なぜかどこか濁っているようだった。

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異能というワードやっと出せました。長かった。現在ベテルで異能を持ってるのは、幽崎兄妹だけです。この言い方で、勘の超いい方は察したでしょう。お楽しみに。


皇帝ジンクのことを本人に向かって「皇帝」と呼ぶのは、幼なじみのおっさんだけです。他の人は、「ジンク皇帝殿」とか「皇帝閣下」とか「そこな〈皇帝〉」という風に呼びます。


それでは。

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