105 優しさ
「討ち取ったり」
「がぁっ!?」
突如俺の真横に出現した男。そいつが放った正体不明の攻撃に直撃した俺は、壁まで好き飛ばされてしまった。壁に衝突し、ドサリと地面に落ちる。
地面が赤く染まっていくのが視界の下の方に見えた。痛覚が麻痺しているのかアドレナリンかは知らないが、俺は出血しているらしい。
なんとか体を起こして自分の体を見てみれば、わき腹が切られて内蔵がこんにちはしている。余裕ぶってる場合じゃないなこれは。
「『魔力創造主』……ふぅ」
「……仕留めきれなかったか。これは恥ずかしいな、今度はきっちりとどめを刺そう」
「いや、この戦い殺し合いじゃないから。そこ大事だから。忘れないで?」
「なにを興ざめな! 戦いとはいかな場合でも真剣であるべきだ! 例え約束を反故にしようともね!」
そんなとんでもないことを口にする目の前の男は、口では激情を表現してはいるものの、冷静にエリクサーで完全に回復した俺の様子を窺っている。
だからといって、無闇に攻めるのもリスクが高い。さっき受けた攻撃の詳細が分からない以上、同じことを繰り返す可能性が高いからな。……いや、逆か? 同じことをしてくれるなら、対処できるはずだ。
「『創武器術』・【迅】」
「……ほう?」
これは、箔刀を片手で持ちながら、もう片方の手で創造した武器を扱い、攻める技。イメージだけはしてたけど、ぶっつけ本番の新技だ。『マルチタスク』のおかげで、同時に何かをするのには補正がつく。勝算はあるはずだ。
「いくぞ」
右手に箔刀を保持したまま、左手で鉄杭を2本創造し振り上げるように投擲する。そのまま、手を下ろす動きで1本の短槍を投擲。
それに対し、やはり男は回避を選ばない。そして、俺の投擲した鉄杭が命中した次の瞬間。
「『魔力創造主』・【生成】」
背後を覆うように土壁を創造する。地面を素材として使用し、壁の外側が凹むようにした。相手が行うであろう反撃の、様々な可能性を同時に潰す一手……の、つもりだったが。
「フッ」
「ッ!?」
真上から攻撃が飛んできた。身を投げ出して避けると、その攻撃が刺突であると分かった。地面がえぐれているからだ。しかし、男はやはり武器を持っていない。一体どうやって?
──しかし、今相手は空中。好機だ。俺は右手に持っていた箔刀をその場所のまま左手に持ち替え、抜刀術のように鋭く切り上げた。
避けようの無い攻撃に男は為す術もなく、そのまま諦めるように斬撃を受け入れた。
これは殺し合いじゃない。だから、当然、体を真っ二つにするようには切っていなかった。とはいえ、箔刀は強度を犠牲に切れ味を上げた刀だ。男の胸部をたやすく切り裂き、出血せしめた。
俺はすぐにポーションを創造し、男にかけようと1本踏み出す──
「心遣い感謝するよ。だが、残念ながらそれは無用だ。なにせ、私は怪我など負っていないのでね」
「……はぁ、やっぱそうか」
土壁の外から聞こえてきた声に、驚愕を覚えることは無かった。反撃に対処しようが、鉄杭の攻撃を無効化した事実は変わらない。相手のスキルで、俺の攻撃は無効化されるはずなのだ。
つまり、反撃してきた男は偽物。スキルで生み出されたモノで、本物は最初の場所から動いていないのだろう。いや、動いてないかは分からんけど。
違和感は、最初からあったのだ。死角からの攻撃なんて、常時発動の『気配察知』の前では意味が無い。それをかいくぐってきたという事は、気配が無いモノか、『隠者』レベルの隠蔽を持ってるかのどっちかくらいだろう。
土壁を解除し、地面も元の形に戻す。すぐに、腕を組んだ姿勢の男の姿が目に入ってきた。しかし、変わっている点が1つ。彼の周囲に浮かんでいた赤い玉が、1つ消えている。
「……無効化&反撃できる回数……いや、受け流せるダメージ量に限りがあるのか。玉が3個割れたら攻撃が通るのかな?」
「その通り。ただし、玉が割れた速度に応じて、私自身が強化されるがね。しかも、3個目の玉が割れた瞬間、それまでに受けたダメージを全てお返しする仕様付きだ」
「なんだよ急に。もう終わりか?」
「いかにも。キミがSランクたる所以は、その “物を制限なく瞬時に召喚する” スキルだね? 非常に素晴らしいのは戦った身としても保証するが、残念ながら私たちの求めるものでは無いのだよ。それとも、他にオリジンを隠しているかい? 」
「……いや、ないな」
投擲の補助として、無意識に『四季風』を使っていた。確かに、ギフトスキルもオリジンスキルも見せたな。
「そうだろう、バレンタインが無いと言っているからな。無いのは分かるのだよ、詳細が分からんだけで。それもこれも、とある魔道具のおかげなのだが……おっと、喋りすぎたな」
どうやら、これで戦闘は終了のようだ。ただ、1つだけ言っておかなければ。勘違いしてるみたいだし。
「あー、と、俺の使ってたスキルなんだけどさ。召喚じゃなくて創るんだよ。一応、そこだけ訂正しておくよ」
コイツらがどんなスキルを探しているのか知らないが、こういう無茶をするくらいには手間取ってるんだろう。ステータス開示を拒否った引け目がある分、協力するのには肯定的な気分である。
……ごちゃごちゃ言ったが、結局なんか可哀想だから優しくしてるだけだ。シグ達にも今度会った時は優しくしよう。……あれ、アイツらも何か探してたんだっけ?
「作る……? エリクサーや武器を、あれほどの速度で、魔力切れもせず……? いや、確かに強力だが、俺たちの目的に使えるかというと……」
「ちょっとモア、何話してるの? さっきダメだったって合図してたじゃない」
「いや、俺が読み違えていた。どうやら、召喚ではなく創造のスキルらしい。なあ、使えると思うか」
「…………オリジンレベルなら……そうね、魔道具として出力できる可能性はあるかもしれない」
戦いが終わって結界から出てきたバレンタインやウィズィもこちらにやってきた。そして、話は急激に展開していく。
「あのー、バレンタインさん達ってシグって男知ってます? 銃使う人なんですけど」
「え、シグと会ってたの? じゃあ、アンティって女の子とは会った? 何か言ってなかったかしら」
「えー、と、一応シグと戦って、お眼鏡にかなわなかったみたいなんですけど……」
「あら、それじゃあ……いや、でも…………うん、よし! ねぇユーリ、ちょっと私たちと一緒に来てくれないかしら!?」
「え、はぁ、良いですけど……どこに行くんです? 」
「純華聖王国にいる、私たちの──救世七星のリーダーのところよ!」
「……いや国外やないかーい」
どうやらかなりの面倒事に巻き込まれてしまったようだと、目を逸らしていた現実に気付いてしまった。気まぐれな優しさはやはり不必要だった、優しさも哀れみも世界に必要ないのだ、などと恨み言を呟いてももう遅い。
こりゃ転生モノの主人公が平穏を望む気持ちも分かるわ、と1人黄昏れるユーリであった。
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ユーリ は バレンタイン の 仲間にされた!(強制)(ててててーてーてーてっててー)
主人公はノリと気分で生きてるので、たまに優しくなります。でも、それで後悔することが多いです。基本的に運が無いので。