094 メイク
・前回までに出てきて今回も登場する人物の簡易紹介
黒木瑠子……るこ。平凡そうだがズレてる。
しの先生……悪道が死んで病んだ先生。責任感?
千彩……ギャル。女子に優しい。
ここみ……心海と書いてここみと読む。元気。
こっひ……古瀬ひららさん。舞踊家のお嬢さん。
ケイジ……セクハラ爽やかイケメン。
依鶴……るこの元ルームメイト。たきたいづる。
~クラスメイトSide/黒木瑠子視点~
「や~、みんな久しぶり! 1~2ヶ月くらいしか経ってないけど、すごく久しぶりに感じるなぁ!」
「なんか人少ないな……あえて直接的な表現をするけど……死んだのか?」
「いや。ダンジョンにこもってて連絡が着かないパーティがあったらしいから、足りないのはその5人分みたいだ」
「あー、そりゃしょーがないわ。ケータイ繋がんないしね~、この世界。ダンジョンの中ではぐれた時とか、けっこー焦るよね~」
「分かるなー、それ! 最低限の場所は備えられてるって言っても、あんなんじゃトイレもきっついよね~」
「や、ここみあんま大っきい声でトイレとか言うなし。こっちまで恥ずかしいわ!」
ノーランド王国、王城の来客用食堂にて。この国に転移してきた高校生達31名と担任教師である篠宮晴奈が、久方ぶりに集結していた。
クラスメイトは37人だが、集まっているのは行方不明の合格者5人と亡くなった悪道悠真を除いた31人だ。
冒険者として活動している人がほとんどだから、なんだかんだギルドで顔を合わせる人も多かった。しかし、あの日から1度も会わなかった人もそれなりに多い。
「にしても、なんの用で呼ばれたんだろ? 今まで1回もこーゆーの無かったよね?」
「そうですね~。要件は推測も着きませんが、どこか先生に呼び出されたような居心地の悪さを感じてしまいます……ふふ……」
「そこで笑いが出るのはなんだか変態っぽいよ、こっひ? ……てか、誰も要件聞いてないのん?」
「俺は聞いてなーい」
「私も!」
「ボクもだねえ」
「……私も聞いてないわ」
「ありゃ、しのセンセも聞いてないなら誰も聞かされてないか。んー、てことは、呼ばれるまで準備も何もない、かな? んじゃ、久しぶりに女子みんなメイクしたげる! メイクのためにわざわざウチらの宿に寄ってくれる子もいたけど、しっかりメイクするのは久しぶりだしね!」
千彩さんの言葉に、女子達が分かりやすく色めき立った。かく言う私は、メイクは生まれてこの方ノータッチで生きてきた女だ。興奮のしようもない。
千彩さんと同じパーティで過ごしていると、気を使ったのかたまにメイクをしようかと持ち掛けられることもあったが、その全てをやんわりと断っていた。
別にメイクが嫌いというわけでもないのだけれど、面倒くさいことは見て取れる。敬遠してしまう気持ちは、万民に理解されるものでしょう。
「るこちーは今日もメイク拒否? やー、素材がいいから弄ってみたいんだけどな~。でもま、メイクの必要ないくらいの美人だし、そもそもメイクなんて自己満足だし。嫌ならそれはそれでおっけ~」
千彩さんは女子にメイクを施しながらそう言うと、ニシシと笑ってみせた。私から言わせてもらえれば、メイクが要らないほどの美人とはまさに千彩さんのことだと思う。
そうして女子の大部分が固まってメイクをしている間、男子生徒はダンジョン攻略について話し合っている。議論ではなく、報告といった様子だ。
「8層がやっぱ鬼門だよな。魔物が少ない分トラップが多くて、専門職がいない俺たち全員、手を焼いちゃってる」
「だな。こっちのパーティだと、8層の為だけに臨時のパーティメンバーを入れて行ったんだけど……みんなみたいに5人パーティだとそれも難しいよな。俺たちは……悪道の枠が空いたまま、4人になっただけなんだけど……あの時、初めて有難みを感じたよ」
「なるほどね、そういうやり方もあるのか。こっちは、今進行形でギルド主催でやってるトラップ対処の講習受けてるとこだよ」
「マジ? あれ結構金かからないか? 」
「飯食うのもギリギリだけど、間違いなくその分タメになってるよ。オススメできる……けど、お金貯めてからの方がいいかもな。もっと金が貯められるんなら、『罠看破』とか『看破』のスキルオーブを買えば全部解決なんだけど……さすがにそれは夢見すぎだからな」
「あー、その2つ、値段調べた時めっちゃビビったわ。需要高すぎるって怖いんだなぁ。経済の授業でやったナントカ曲線、体感したのは初めてだよ」
どうやら、2番目に挑み始めたダンジョン〈テネポラの魔廟〉の8階層をどう攻略するかについて話しているようだ。
4等級ダンジョン〈テネポラの魔廟〉は、薄暗い洞窟が延々と続く陰気なダンジョンである。7階層までに出てくる魔物は、特筆すべきものはない。しかし、階を進むにつれて少しずつ増えてくる罠──トラップが問題だった。
当然だけれど、平和な日本で暮らしていた私たちに、ダンジョンに仕掛けられているトラップの知識があるはずもない。まきびしとバナナの皮がせいぜいね。段々と巧妙になっていくトラップに薄暗さも相まって、私たちでは成すすべが無くなかった。
そこから取れる手段はそう多くない。何を隠そう私たちのパーティも、男子の会話にでてきたトラップ対処講習を受けるため、お金を稼いでいる最中なのだ。
会話に混ざりたくて少しだけうずうずしている私に気付くはずもなく、男子の会話は続いていく。
「なあ、そういやあの噂知ってるか?」
「ん? 突然なんだよ」
「……いや。お前らにこんな事言うのはアレなんだけどさ。……悪道が生きてるって噂だよ。誰だか知らないけど、実際見て、話した奴がいるって」
「……は? なんだよそれ。冗談にしても笑えない。やめてくれ」
どこか身に覚えがある話に、思わずピクリと体を震わせて反応してしまう。が、それよりも大きく反応した男子に視線は集まっていて、こちらを気にする人はいなかった。
「……悪かった。軽率だったよ」
「え、待ってよ。その噂、僕も聞いたよ? 確か、千彩ちゃんのパーティが見たって」
「……あ、それ俺も聞いたわ。依鶴さんが見たってやつだろそれ」
「え、は? いや、みんな急に何言ってんだよ。そんな事あるわけないだろ?」
「……落ち着きなって、多々里。古田、御堂、空瀬も。噂を聞いた、ってだけだよ。僕達が悪道を見たワケじゃないんだから」
「でも……でもっ!」
「そんなに気になるんなら、本人に聞けばいい。依鶴さんが見たらしいしさ」
「っ……」
ケイジに唆され、タタリと呼ばれた男子がこちらに歩いてきた。しかめっ面で、とても女子に向けていい表情ではない。
「多々里、顔怖いって。今メイク中だから暴れたりすんなよ?」
「当たり前だ。……なあ、依鶴さん。悪道を見たってのは、本当か?」
「……うん。ホントにたまたまだけど、歩いてるとこを見かけたの。話したし、本人に確認も取ったよ。声も、顔も、一緒だったし、なにより本人も認めてた。自分は悪道悠真だって」
最近気付いたことだが、滝田依鶴はテンション高く喋る時は語尾を伸ばすクセがあるのが、低いトーンになると口調が崩れるのだ。多分、テンション高く喋る時は相当無理して作っていると思われる。
「そんな、そんな……馬鹿なことがあるか!? アイツは! 俺を庇って死んだんだぞ!? 俺の! 目の前で!!! 俺のせいで! 」
「お、おい、落ち着けよ向。悪いのはお前じゃない、俺たち全員だ。そうだろう? あの時、 話し合ってそう決めただろ?」
「道之……でも、でもやっぱり俺はっ!」
「失礼する! 国王陛下がお呼びである。異世界の客人よ、そして、我らが朋友……よ……すまない、取り込み中だったか?」
酷いタイミングで、兵士が部屋に入ってきた。多々里 向という名前が判明した男子は咄嗟に取り繕い、兵士にかしこまってみせる。
「失礼しました。こちらは問題ありません」
「……そうか。では、早速で悪いが着いてきてくれ。此度は、謁見室での公的な謁見ではない。事情が事情なので私的なものとなる。が、くれぐれも失礼のないように! ……いえ。客人に対する言い様ではありませんな。失礼致した」
国王がわざわざ時間を作って呼びつけて、私的に話すこととは一体何か。
結局部屋で一言しか話さなかったしの先生も、メイクがギリギリキリのいいところで終わった心海さんも、さっきまで錯乱していた多々里くんも、他の面々も……そして、私も。皆一様に、不安な顔を隠せずにいた。
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シリアスな場面で場違いな思考をしている瑠子。このクラスに入るだけの「ズレてる」部分です。
トイレについては、また今度詳しく書く機会があると思います。長くなるのでここではカットということにしました。
また、千彩がなんでメイクできるかはまだ明確に描写していませんが、後々出てきますのでお待ちください。
それでは。




