093 幽霊?
~クラスメイトSide~
「本当にごめんなさい、千彩さん。私なんかを拾わせてしまって」
「いつまでそれ言ってんのよ、るこちー。ウチも1人空いてたから丁度良かったんだって!」
王城での生活を辞退し、クラスメイト達がそれぞれ自分の力で進み始めてから2週間が経とうとしていた。
戦いの道を続けるメンバーは、パーティという最大5人のグループに分かれて活動することになった。
実は私は最初、幽崎兄妹のパーティに誘われていた。幽崎兄妹とは、謎の妖精のいる部屋に私を連れ込んだ人達である。盾として連れ込んだと謝られたので、当然、許しはしなかった。
そして、そんな人達からの誘いを受けるはずもない。
結局、入れてくれるほど仲のいい人物がいるパーティは無く、浮いてしまった私を千彩さんが拾ってくれたのだ。
「あ、こっひと蛍戻ってきたね。いづるんは見当たらないけど……」
「千彩さん、瑠子さん。ただ今戻りました。依鶴さんは、お花を積みに……」
「報酬、上乗せしてくれたよ。状態が良かったから」
「お、いーじゃん! こっひの装備、もーちょいで新しくできそうだね~」
彼女達の会話に出てきた「依鶴」とは、私の元ルームメイトの滝田依鶴その人だ。
彼女は明るい口調で話すのだが、容赦のなさが言葉の端々に現れている。そのせいか、あまり仲のいい友達がいないようだった。私も、ルームメイトとして多少話はしたが、仲良くなった実感は全くない。それが何の因果か、同じパーティとして活動することになるとは。
「あ、いづるん戻ってきた。おーい、こっちこっち!」
「……待たせちゃったね、ごめんみんな」
「だいじょぶ、問題ナシ! それより、この後どうする? みんなでご飯でも行く?」
「……ね、その前にちょっといい?」
「ん? どしたんいづるん?」
「さっき……見かけたんだよね。思わずトイレって嘘ついて追いかけちゃったんだけど……」
「んー? マニでも見かけたの?」
「いや……悪道。死んだはずの悪道がいたんだよね~……」
「…………はい?」
༅
依鶴さんの言によれば、それは見間違いなどではなく、しっかり会話をして当人に直接確認まで取ったらしい。ならここに連れてくれば良かったのに、とも思ったが、どうしても外せない用があると言って断られたそうだ。
「んー……異世界だからって、そんな事ある? 生き返らせるスキルを誰かが使ったんかなぁ? ウチらよりずっと強い先輩とかがさぁ?」
「死ぬ場面に直面でもしないと、それは現実的では無さそうですが……どちらかと言えば、幽霊なんかである可能性の方が高いのでは?」
「ちょ、ヤなこと言わないでよこっひ。女の幽霊って基本メイクしてないから嫌いなんよね……」
「いやそこ? ……じゃなくて~。私が見た悪道は、見た目一緒だし足もちゃんと付いてたし、ちゃんと会話も成立してたよ~! 私としては、生き返ったって方がしっくりくるかな……」
「その辺は本人に聞けなかった感じ?」
「うん。すご~く急いでて、私との会話も最低限って感じだった」
「「「う~ん」」」
結局、情報を整理しようが考察を重ねようが、現状では結論を出すことはできなかった。当然だけれどね。
そしてそのまま、事実の確認のしようも無い私達は、モヤモヤした気持ちを抱え込んだまま、しばらく過ごすことになる。
༅
「せっかく久しぶりに見知った顔と会ったのに……再会を喜ぶ時間も無いとか、酷すぎるなぁ。後で時間取れるかどうかも分かんないし……っと、ヤバいな本格的に遅刻する」
人混みを抜け、特定の場所で路地裏に入り込む。猫やどこから向けられているか分からない視線の中更に進むと、ようやく目的地に到着した。
「悪い、待たせた!」
「遅いぞ〈愚者〉。俺を待たせるとはいい度胸だな?」
「……7秒の遅刻でそこまで怒れるのも、ある種の才能なんじゃないかって最近思い始めたよ」
「どれだけ遅刻したかではない。遅刻したかどうかが論点なのだよ。そこをズラすとは、まさに言い逃れのしようも無い程に〈愚者〉だな?」
「悪かった、ごめん、俺が悪かったよ。だから話を進めないか、〈魔術師〉」
謝罪のポーズを取って、なんとか目の前の偉そうな男に許しを請う。5秒ほどの沈黙の後、どうやら許しを頂けたようで男が話し始めた。
「フン……良かろう。まず、結論からいこうか。最初の目的地が決定した。グラン帝国だ。そこの皇帝はタロットホルダー。奴に次の行先を占ってもらう。帝国は隣国だ、そう長い旅にはならんだろう。俺の魔術で転移してもいいが、俺はそろそろ逆位置が近い。なるべく取りたく無い選択肢だ」
「逆位置……タロットの力を使いすぎた時に起こる反動だっけか。俺はまだなった事がないから実感が湧かないなぁ……」
「逆位置は千差万別。実質的に無い者もあれば、命を差し出す者もいる。貴様はどうだろうな?」
「怖いこと言うなよ……」
「フン。出発は明日だ。この国には当分戻らんだろうからな。準備を怠るなよ」
「了解了解、じゃあ俺はもう行くぞ?」
「構わん。勝手にゆくがよい」
終始偉そうな態度を崩さなかった男は、シッシッと払うようなジェスチャーをし、俺を家から追い出した。
これから始まる旅がどれだけ続くのか分からないが、あの男とずっと一緒だと思うと否が応でも気分が下がる。だが、反抗する気にもならない。奴と真っ向から戦えば、何が起きているのかも分からず一瞬のうちに消し飛ばされてしまうだろう。
強さ、知識、人脈、経験。どれをとっても、これからの旅には必要不可欠な存在だ。……これで、外見がキレイなお姉さんだったらまた違うんだけどなぁ……
胸の前で空間を掴むような動きをすれば、次の瞬間、その手には1枚のカードが──〈愚者〉のタロットカードが収まっている。俺が仮の命で生きることを許された原因であり、根源に絡みついた呪いでもある。
「はぁ……とりあえず、象徴って奴を探しに行くか。……ホントにどっかに売ってんのかなぁ、冠……」
物語は、各地で進みゆく。
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正直に言いますと、タロットって種類多すぎてまだ3分の1くらいしか設定完成してないんですよね。
この物語はいろいろ盛り込んでますけど、やっぱりタロットだけ、星の要素だけ、とか、魔術だけ、魔法だけ、みたいに絞った方が書きやすいし分かりやすいんだろうなぁ、と思います。
でもこの物語は、やっぱり今のいろいろ盛り込んでる若干カオスな現状が正しい有り様なので(いろんな意味で)、このまま進めるのです。それでは。