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009 兎

 歩き初めてから、本当に何事もなく1時間が過ぎた。俺はその間、ずっと魔力操作の練習をしていた。


 俺が『魔力創造主』を使う時、毎回魔力が流れ出る感覚があった。おそらく、俺は今魔力の操作がガバガバで、毎回全ての魔力を注ぎ込んでしまっているんだろう。だからいつもMP0になって回復待ちの時間が長くなるんだ。ほぼ確信している。


 だが、初めて使った、失敗した時の『魔力創造主』はMPを10残していた。あの時は、流れ出る魔力(なにか)に驚いて、途中で供給を止めてしまったんだと思う。うろ覚えだから確信はないけど。感覚の話だしあやふやになっちゃうなー。


 まあつまり、魔力はある程度コントロールできるかもしれないってことだ。


 という訳で、効率が上がる可能性も少しだけ期待しつつ、歩きながらトレーニングしていたのだ。


 もちろん、周囲の警戒は怠っていない。


 自分の内側に意識を向けながら周囲の警戒をする。更にはスキルなどについての考察もしている。

 この3つの同時進行をなし得ているのは、手に入れたスキル『マルチタスク』によるところが大きい。もう1つなにか同時にできそうなくらい、余裕を持てている。


 地球にいた頃に、音楽を聞きながらテレビを見て、Youtuboを見つつ読書をしていたことがあった。あの時より遥かにそれぞれの物事に集中できていることが自覚できる。

 スキル1つがとんでもない力を持っているのに、特に何をするでもなく手に入った。この世界……思っていたよりカオスかもしれないな。



 ༅



  さらに10分ほど歩いたところで、ひとまず休憩を入れることにする。


(この後も歩き続けることになるだろうし、1時間くらいで休憩入れたほうがいいよな)


 と思ったからだ。そこで、休憩ついでに、歩きながら考えていた()()()()()を試すことにする。

 

「よし、レッツ瞑想」


 ……そう、瞑想である。俺のうっす〜いラノベ知識に、魔力を鍛える時は瞑想する、というよく分からない理論があったからだ。


 木になんとかよじ登って背を預け、もたれながら、そして目を閉じて、意識を自身の内側に向ける。

 数分ほどそうしていたが、歩きながら練習しているのと何も変わらないことに気付き、すぐにやめてしまった。


(ま、休憩はできたからおっけーおっけー)


 実は、この瞑想という方法は、この世界でもよく用いられている。ただそれは、自分の中の「魔力」というエネルギーを知覚するため。その段階をギフトスキルで飛ばした祐里には、ほぼ意味がないのであった。


 《スキル『瞑想』を獲得しました。》


 ────────────────


『瞑想』


 ・分類:ベーススキル


 ・効果:瞑想することで体力とMPの回復が少しだけ早まる。


 ────────────────



 ༅



「さて」


 と、小さい呟きが漏れる。新しい世界に来て、森に1人のこの状況に、不安でも感じているのだろうか。独り言が多くなっている。


 とにもかくにも、休憩は終わりだ。鑑定で出るマップを一応見ながら、更に進んでいく。




 再び歩き始めてから30分ほど経った時。右の草むらから、パキッと、小枝が折れた音が聞こえてきた。


 すぐさま音の鳴った方に槍先を向け、警戒のレベルを上げる。続けて、ガサガサと草むらで何かが動く音。一角兎の突進を警戒して、草むらから距離を取る。その瞬間、草むらから長い角がはみ出した。


(クソっ、やっぱりまだ気付かれてなかったっ!ビビって距離取ったせいで不意打ちできねぇっ!)


  後悔の念が浮かぶが、それは結果論だ。安全策としては、これ以上ないほど正しい判断と動きだったといえるだろう。祐里自身もそのことを理解しているから、すぐに気を切り替え、集中する。


(切り替えろ! 今から近付いて気付かれる前に倒すのは無理だ。イメトレ通り、突進された後の隙を刺すしかない!)


 そう動きを決めたところで、ついに一角兎が完全に顔を出し、こちらを認識した。


「キュイッ!?」


 と一声、驚いたように小さくジャンプする兎。それを認めた祐里だが、無理に突っ込むことはしない。突進に備え、足を動かす。左右に動き、的を絞らせない。


(やけに驚いてたな、もしかして昨日追いかけてきたあの兎か? まあそんなことはどうでもいい、この距離なら突進は届きはするが避けれもする、はず。多分。さあ来い、来い!)


 驚いてジャンプした直後、兎のまとう空気が明らかに変わる。それは昨日追われた時に感じたものと同じもの。それを突進の予兆だと判断した祐里は大きく右に跳んだ。


 それとほぼ同時に行われた兎の突進は、祐里が先程まで立っていた場所を通過し、そのまま(つの)が木の幹に突き刺さった。


 それは祐里の狙ったものだった。


「ふぅ…まさか上手くいくとはな。木を背にするのは咄嗟(とっさ)の思い付きだったけど……これなら殺さずに済むし、狙える時は狙っていいかもな」


 祐里は木に角が深く刺さってジタバタしている、少し滑稽な姿の兎の頭を1度撫で、


「俺にはお前を殺す理由が無い。飯なら自前で用意できるもんでな……自力で脱出できるのを願ってるよ」


 そう声をかけて再び歩き出した。


 優しさと意味不明さが混同した行動は、誰かが見ていればツッコむ所が多いものだったが、彼の中では筋が通ったものだった。


 やはり、「寄せ集め」クラスに入れられるくらいには変人のようだ。

まだ変人レベルで収まってる。多分。

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