000 白
窓の外を見ていた。小中ではほとんど見なかったが、高校になると一定数親に学校まで送って貰えるヤツがいるらしい、というのが、最近の発見だ。どこの高校でもそうなのかは知らないが。……去年もそうだったのだろうが、気付いたのは最近なのだ。
「黒野くん」
自分を呼ぶ声が聞こえたため振り返ると、白い髪の女子がこちらを向いていた。その女子には、もちろん白い髪もそうだが、特徴的な部分があった。春だというのにまだマフラーを巻いているのだ。
……この学校の校則はどうなっているのだろう。よくよく見てみれば、教室内にいる他の生徒もすごい服装やら容姿をしている。
「どした?」
「浜里先生が呼んでた、明日の行事……クラスマッチ? だっけ? それの準備、手伝えって」
「……なんで俺が?」
「ヒマそうだからって……まだ、部活入ってないから……じゃないかな?」
「いや、俺以外にもいくらでもいるだろうに……なんか今日運が向いてないなぁ」
「……いっしょにがんばろ?」
「ん?てことは……」
「私も、呼ばれた1人」
「「ってこと(か)」」
少し笑い合った2人は、呼ばれていることを思い出しすぐに動き出した。
「あ、そういえば……君、名前なんていうの?」
「……最初の、ロングホームルームの時、自己紹介……したよね?」
「いやー、覚える気もなかった上に聞いてなかったし、そもそも人の名前覚えるの苦手でさ……?」
「かいめつ、てき……」
「ぐ、自覚してるからマシな方だと思うんだけどな……」
言い訳じみたその小声は、窓から吹き込んだ風に気を取られた彼女の耳には届かなかったようで、こちらに向き直って微笑み、名前を告げた。
「わたしは────」
その名前を呼ぶことは、呼ばれることは、少なくともこの世界ではもう無いのだと。この時の2人には知る由もなかった。
そして、彼──黒野祐里含むとある高校のとあるクラスは、その行事を無事に終えた後にとんでもない事象に巻き込まれることになる。