ランクDの新たな力と新たな出会い
その後も何度かスライム達と遭遇し、その度に同士討ちをさせながら討伐していった。そろそろ次の層で出口を探そうかと思っていたところに唐突にウインドウにメッセージが届く。
「次の刀が召喚できるようになりました」
??次の刀?
俺はウインドウの疑心刀の横のスペースに文字が浮かんでいるのに気がついた。
「これはなんて読むんだ?飛刀・ひとう。で合ってるのか?」
俺が声を出した瞬間、手の中から疑心刀が消えて細身の居合刀のような刀が腰に収まっていた。
「飛刀っていうぐらいだから、斬撃が飛ぶのか?」
試しに居合抜きの要領で離れた壁に向かって刀を振るってみた。
「ガキン!!」
でかい音と共に壁に一文字の切り傷ができていた。
「この刀すげぇ使えるんだけど!!」
俺は大喜びしながら何度かその刀の性能を確かめる。
飛距離は10メートル程だが、威力は居合で斬りつけるのと大きく差はないようだ。
普通の学生服でダンジョンに潜らされている身としては、遠距離からの攻撃手段ができたのは本当に有難い。
これでまた少し生還できる可能性があがった。
飛刀を手に入れた事で少し心に余裕ができた俺は次の階層へと進む階段へと足を踏み入れた。
そこは先程までの階層と大きく違うようには思えなかったが、暗闇の奥からやってくる魔物を見てそのちがいを知る事となる。
「ゴブリン…かな?」
緑色の皮膚に小さなナイフを持った人型の魔物がこちらに対し威嚇してきている。
先手必勝とばかりに飛刀を繰り出すと、ゴブリンは真っ二つになり、地面に消えていった。
「さっきのスライムには斬撃はあまり効かなかったけど、ゴブリンには効くみたいだな。」
この階層もゴブリンばかりなら油断さえしなければ出口探しも簡単に行えそうだ。
と、そこへ、
「キシャー!!」
ゴブリンのものと思われる威嚇の声が随分奥の方から聞こえてきた。
「俺以外にもゴブリンに威嚇されるような生物がここにいるのか?」
不思議に思いながらもゆっくりと声のした方へと近づいていく。
そこには何故か、ゴブリン数匹に囲まれる大きなネズミのような生き物がいた。
「あれって……カピバラじゃね?」
昔両親が健在だった頃に連れて行ってもらった動物園で見かけた世界最大のげっ歯類がちょうど今目の前にいるような生きものだったはずだ。
「キュー、キュルキュル、きゅう。」
カピバラ?はゴブリン達に襲われて震えているようだ。何故こんなところにカピバラがいるのかは不明だが、少なくとも俺はゴブリンよりはよっぽどあのげっ歯類の方が好感が持てる。
と、いうわけでさっくりとゴブリン達には退場してもらいますか。
「飛刀」
カピバラを傷つけないように気をつけながら、ゴブリン達を両断していく。ほんの10秒ほどでゴブリンはダンジョンのシミとなっていた。
「お〜い大丈夫か?」
見た感じだと怪我等は見当たらないものの、カピバラは震えていてこちらにまだ気がついていないようだ。
近くに寄っていくと急にカピバラは俺に向かって噛み付いてきた。
「グッ!!」
確か怒っている時に出る鳴き声だったか。ギリギリのところで噛みつきを回避して、俺は身振り手振りでカピバラに敵意がないことを伝えようとした。
「待て待て、俺はできれば普通の動物には攻撃したくない。まぁ魔物なのかもしれないが、ゴブリンに狙われてたぐらいなんだから違うんだろう?」
俺の言葉が伝わったのかはわからないが、カピバラはおとなしくなり、辺りをキョロキョロと見渡した。
「ん?さっきのゴブリンならやっつけたぞ?」
そう言うとカピバラは鼻先をこちらに擦り付けながらあまえるような仕草をしてきた。
「まるで俺の言葉がわかっているみたいだな。」
なんかほっこりとしながらそう言うとカピバラは首を上下に2回動かした。
「ん?まさか俺の言葉がわかるのか?」
よりはっきりとカピバラは首を上下にブンブンと動かす。
「すごいな!まさかカピバラと意思疎通ができるとは思わなかった!」
俺が心底驚きながらそう言うと、更に驚く事が起きる。
「さっきはありがとです。助かりましたもしゅ。」
え?
このカピバラ喋ってるんだが……