ユニークチートの使い手
とりあえずここは何処だろう。何かピカピカした装飾の中世ヨーロッパのお城よろしく普段見慣れない作りをしている事だけはわかる。
辺りを見渡してみると見知ったクラスメイトの姿が見えた。みんなキョロキョロとして、状況がわかっていないようだ。まぁ俺も人のことは言えないのだが…
「よくぞ参られた勇者殿!」
唐突に芝居掛かったセリフが聞こえたのでそちらを見てみるとその辺のアイドルが裸足で逃げ出すレベルの金髪美少女がいた。どうやら今のセリフはあの美少女が言ったらしい。
「突然の召喚で混乱されていると思いますが、どうか私の話を聞いて下さい。」
ざわめくクラスメイト達だったが、男子生徒はその少女の見た目のおかげでピタリと動きを止めた。
まぁ気持ちはわかるが、こんな意味不明の状況でよくそんな気になれるなとは思う。
女子生徒達はその美貌に見惚れるもの、訝しげな表情で見つめるもの、現状把握に努めようと油断せず辺りを見回すものと様々だ。
「あなた方はこの世界を救うために私が異世界から召喚させて頂きました。あなた方にはそれぞれ勇者としての素晴らしい力が宿っているはずです!」
その言葉と同時に目の前にゲームのウインドウのようなものが点滅した。
「疑心刀が魅了に抵抗しました。」
は?
疑心刀?魅了?なんじゃそら。
「貴方達にはこれからこの国の為に勇者として魔王軍と戦って頂きます。もちろん魔王軍を滅ぼせば皆様は元の世界にお帰り頂けます。」
いきなり、異世界だとか魔王軍とか意味がわからないが、何より何故俺達が戦わなければならないのか。
これで「俺、戦います!!」なんていうやつはただの阿呆だろぅ。
「俺、戦います!」
「私も戦うわ!」
は?うちのクラスメイト達は常軌を逸した阿呆の集まりだっただろうか?
ほとんどのクラスメイトがこんな状況にもかかわらず盛り上がっている。……何かが、おかしい。
その証拠に俺の幼なじみである木下桃花は周りの盛り上がりっぷりに取り残されている。
これはもしかしてさっきの魅了とかいうのが影響しているのか?
「皆様にはこれからどの様な力を授かったのか、神官達に計測してもらいます。神官が持つスクロールに手を触れて頂くと、その力とランクが表示されます。」
さっき出ていたウインドウの疑心刀とやらはその力なのだろうか。
なんて考えていたら、クラスメイト達は続々と測定を受け終えているようだった。
時折、「まさかこれは!?」とか、「こんなスキルは今まで見たことがない!?」とか、神官達が賑やかに騒ぎ立てている。
中でもクラスのカースト上位である神城結城なんかは、「スキルが二つ!!ランクもSランクだと!?」
とか騒がれていた。
「まぁ、異世界だろうがなんだろうが俺様の存在は輝いてるってことだな。」
神城は確かに能力も高いのだが、この無駄に高い自意識のおかげで男子からの人気はイマイチだ。
「さすが神城くん。」「好き!結婚して!」
「今夜私あけてるから!」
このように女子からの人気はとても高い。高身長、顔はイケメン、実家は大きな会社を3つも経営しているとなればそれはモテるだろう。
別に羨ましくなんかはない………ないったらないのだ。
どうやら桃花と神城の2人のランクはSランクらしい。後のクラスメイトはAランクとBランクのやつが半々といったところ。
そう考えると桃花すげえな。ちなみに、桃花もファンクラブができる程度には人気がある。
なんでこんなカースト底辺の俺の幼なじみに生まれたのやら。そこだけが桃花の人生において失敗したところなのかもしれない。
とかなんとか考えてたら最後に俺の順番が回ってきた。
まぁ普通に考えてBクラスの使えねえ奴って感じなんだろうなぁ。
「次、成瀬優」
そう、俺の名前は優とついてはいるが1つも優といったところがない。まぁ、小学校から現在の高校生まで続けてきた剣道だけはそこそこだが、いくらでも上には上がいる。
「へ〜い」
神官達に促され、俺も他のやつ同様にスクロールとやらに触れてみる。内心これで俺もSランクとか出たら人生変わるかな?っとか思ったのは許してほしい。
………え?
「こっ、これは?」
神官達も驚いているようだ。なにせ今までのどのクラスメイト達からも出なかったランクが出たのだから。
「カミラ様。この者のランクなのですが…」
あの金髪の美少女の名前はカミラというらしい。神官達の話し方からしても偉い人なのだろう。
魅了とかいうスキルが使われていた事といい、何か俺は気に入らないのだが。
「どうしました?まさかS Sランクの救世主でも出ましたか?」
ニコニコとした笑顔でカミラは俺と神官達の元までやってきた。そしてスクロールを覗き驚愕を露わにする。
「ランク………D?」
そう、俺のランクはまさかのランクDとなっていた。
他のクラスメイトの最低でもBだった事を考えるととてもじゃないがよくはないのだろう。
はぁ、結局異世界だろうが何だろうが扱いは変わらないらしい。
「この、刀召喚というスキルは何なのですか?」
カミラが神官達に尋ねる。
「どうも勇者様達の世界には、刀なる武器が存在し、それを召喚できるようです。」
「それは普通に剣で戦うよりも有利なの?」
「いえ、特に大きく違いは出ないと思われます。」
そう、俺のスクロールにはランクD、スキル刀召喚と書かれていた。
どうも今聞いていた限りでは珍しくはあるが特別優れていない使えないスキルらしい。
「ちっ、ハズレか。」
今、カミラが先ほどまでとは違う、全てを見下すような目で俺の事を見ていた。
他の連中は、そんなカミラの様子を見ても特段おかしさを覚えないようで、これも魅了とやらの効果なのかもしれない。
すると突然カミラはニッコリと笑いみんなに聞こえるような大きな声で話し出した。
「皆さま、この方はこの世界の人間でもほとんど存在しないランクDの勇者様です。つまり、一般の人間以下の能力しか持たず、皆さまの足を引っ張ってしまう可能性が非常に高いのです。なので、この方にはレベルを上げて皆さまに迷惑をかけないよう、魔物の討伐を先に行ってもらうことにします。」
いやいやちょっと待て。一般人以下だと自分で言っているにも関わらずそんな奴が1人で魔物退治?
コイツ俺を殺す気か!?
「もしこの方が残念な事に魔物に殺されてしまっても皆さまにはお荷物が減るだけで、デメリットはありませんので安心した下さい。」
ニコニコしながらカミラはそうクラスメイトに告げる。……どうやら殺す気らしい。
クラスメイト達も元々そんなに人付き合いの得意な方ではなかった俺の事などどうでもいいのか特に何も言わない。ただ、桃花だけがそんな中で俺に味方してくれた。
「カミラさん。優君は私の大事な幼なじみで.とっても剣道が強いの。ランクだかなんだか知らないけど、そんなものじゃ測れないと思うわ!」
その桃花の発言を聞いて、他のクラスメイト達の反応はとても冷ややかなものだった。主に俺に対してのみだが。確かに俺は学校での剣道にはあまり興味がなく、いつも適当に流していた。なので、このクラスメイト達の反応は当然といえば当然である。
礼に始まり、礼に終わる。剣道という「道」の世界には俺は馴染めず、より実践的な剣術に重きを置いていた。そして、そんなものは学校で教えてもらえるわけもなく、1人で研鑽を積んでいた。
周りから見れば、頭のおかしい奴が幼なじみというだけで、庇ってもらっているとしか映らなかっただろう。
「木下。カミラさんも困っている。落ちこぼれの成瀬をどう庇おうと、俺や木下のような人間とは住むべき場所が違うんだよ」
神城はここぞとばかりに俺と桃花を引き離しにかかるつもりのようだ。コイツは選民思考の塊のような奴だから、さぞ桃花に庇われる俺を見てイライラしたことだろう。
男子からも女子からも好かれる桃花は神城からすれば良き自分のパートナーだとでも思っているのかもしれない。
「そんな事ない!優君は昔から私の事を守ってくれるヒーローなんだから!」
いったいいつの話をしてるのやら。確かに、昔はよく可愛いが故にいじめられていた桃花を助けたりした事なんかもあった気がするが、それはせいぜい小学校程度までの話だ。今は只の人気者と落ちこぼれの関係だというのに。
「桃花さん。成瀬さんは別に死んでしまうわけではありませんよ?皆さんに追いつくべく、レベルを上げて頂くだけなのですから。」
カミラが優しく桃花に話かける。それでも桃花は少し迷っている様子だったが、俺のために桃花まで立場を悪くする事はない。
それに、カミラは自分の発言に逆らった桃花を訝しげに見ていたのを俺は見逃していなかった。
このまま押し問答を続ければ桃花まで危険な場所に放り込まれるかもしれない。
なので俺は、
「レベルアップすれば、俺もここに帰って来てもいいんですか?」
そう前向きな発言をする事にした。
「もちろんです。貴方が成長して、皆さんの助けになる事を期待して送り出すのですから。」
先程の発言と矛盾しているが、この女はとにかく俺が気に入らないようだ。プライドも高そうだから、俺みたいなランクDの人間を召喚した事が許せないのかもしれない。
「では、神官の方々、この方を王都の外れのダンジョンに連れて行って下さい。」
「はっ、畏まりましたカミラ様!」
「優君、絶対帰って来てね!!」
桃花に手を上げて応えながら、俺は神官達に連れられていく。去り際に見えたカミラの口は歪に笑っていた。