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私は成し遂げた

「世界中が臨戦態勢にある」


「誰かが、1発でも核を発射すれば、核戦争の始まりだ」


「喜ばしい事に、その兵器は私の手元にある!」


「この忌々しい兵器は、我々のイデオロギーを実現する唯一の手段なのだ!」


「私はこの演説に、聖書を引用するつもりも、遠回しな言葉を使うつもりもない」


「破壊せよ!この世界へ地獄から悪魔を呼び、石器時代に逆戻りさせてやれ!!!」


退化作戦ヲ開始セヨ


これを合図に、世界各地に散らばった核を持つ細胞達が、一斉に目覚め、各国の主要都市へ歩行を開始した。


「…船を頼む予定通りだ」


イザベラと共に、荷物をまとめ船に積み込んだ。


港で待機していると、大隊の戦友達が最後の別れにやって来た。


「見送りはいいと言った筈だが」


「お前が寂しがると思っただけさ」


ヴァイアーはそう言うと、戦車部隊のワッペンを手渡した。


「さよならだ、我が戦友よ」


「戦友か、いい響きだ」


互いに敬礼を交わし、今度はリズが前に出る。


「えーと、貴方の事は良く憶えてないんだけど、何だか助けて貰ったみたいだし、ありがとうございます」


リズは、そう言うと花束を渡した。


「そうか、お前が戻ってくれて良かったよ」


逸見は少し、悲しい気持ちになりながら、アンネとアンナの二人に話掛ける。


「体の調子はどうだ?」


「えぇ、7発以上弾が体内に残ってたけど、ピンピンしてます」


車椅子に座るアンネは、優しく微笑み、今のアンナとの生活を謳歌していた。


「これからは、アンナと離れ離れになることはない」


「よく、やってくれた」


「はい、隊長殿」


その様子を見ていたアンナは、顔を膨らませながら、間に割って入る。


「なにいい雰囲気になってんの!男が百合の間に入るのは駄目なんだよ」


「嫁さん大事にしろよ」


「そっちこそ」


笑いあう二人の声は、明るく希望に満ちていた。


「隊長、あっちの世界で、生活の足しにして下さい」


そう言ってアンナは、ダイヤモンドや金の入った袋を手渡す。


「すまないな」


「良いんですよ、どうせこの世界じゃガラクタになる物ですから」


「それともう1つ、性欲が強いのと一緒だと苦労しますから、お身体をお大事に」


「「聞こえてるよ」」


アンネとイザベラが同時に突っ込み、その様子に笑いながら、最後の別れを果たす。


「では諸君、ありがとう」


全員が直立不動で敬礼し、船が見えなくなるまで手を下ろさなかった。


「我々も行こう」


戦友達は、忘却の島へ向かう。


世界の崩壊を見届ける為に。


小さな船は、港を離れある場所へ進んだ。


「………やっとだ」


ようやくここまで来た。


ガーベラを殺してからずっと、「患者の根絶」

ただそれだけを頼りに戦ってきた。


この世界の住人は、患者を殺す事を差別だと言って非難した。


自分達も、心の中で軽蔑し、差別している癖に、善人ぶって差別は駄目だと、声高らかに主張してくる。


それが堪らなく嫌で、それが堪らなく辛かった。


「着いたわよ」


着いた場所は、薄い霧が立ち込み、草の間から岩が剥き出した土地だった。


大小様々な塔が並び、その全てがコンクリート製で、塔からは奇妙な視線を感じた。


まるで、私達を監視するかのような、そんな視線だった。


「歩きましょ」


私の手を握り、導くように手を引く、彼女はとても美しく、いとおしかった。


緩やかな斜面を下り、起伏の穏やかな道を歩いてゆく。


イザベラの右手の義手が歩く度に、カタカタと音を立てる。


「その義手、そんなに音鳴ったか?」


「そんなに気になる?」


「いや、別に」


「なら気にしないの」


イザベラの歩く姿に見とれていた。


小さくも綺麗な歩幅、歩く仕草に慎ましさを感じる。


「お前は綺麗だな」


「急にどうしたの?」


「何でもないさ」


「お相手しましょうか?」


「今はいいよ」


そんなやり取りをこの後も続け、5回程たった時だった。


「お前は本当に」


「わかった…わかったから」


「どうした?少し顔が赤いな」


「ん〜」


顔を隠し唸るイザベラを、眼に焼き付けていると目と鼻の先に、道中見た塔の中でも、一際巨大な塔がそびえ立っていた。


「あれが目的地だ」


「……………」


「どうした?」


「足音がする」


耳をすますと、確かに足音が聴こえてくる。


今までの経験からして、こういう時に来るのは大抵ろくでもないのが来ると、思った逸見は、肩に掛けていたstgを構える。


「塔まで走れ!」


逸見の声にイザベラは全力で塔に駆け、逸見は足音に向かって銃撃した。


立ち込める濃霧に向かって、点射で撃ち込みながら、塔まで進む。


塔の中は、螺旋階段になっていて、イザベラは遥か先まで登っていた。


階段を少し登ってから、下から追いかけてくる人影に向かって、銃撃の限りを尽くす。


弾倉を素早く交換し、更に塔の上を目指す。


足を階段に押し付け登る度に、疲れからくる痛みに襲われる。


それでもなお、駆け上がる事を止めなかった。


螺旋の階段は、無限に続くかのように思えたが、その先には太陽の光がキラキラと輝き、とても焦れったく感じた。


上下の感覚があやふやになり、登っているのか?下っているのか?上がっているのか?落ちているか?そんなことすらも、あやふやになる。


ゲシュタルト崩壊した階段の群れ達が、今にも崩れそうな感覚に陥った。


それでも、あの頭上にある忌々しい光を目指し階段を駆け上がる。


ただひたすら登る。


と、その時頭に星が散った。


天井にたどり着いたのだ。


「なんだこりゃ?」


奇妙な形の天井は、どの位置・距離から見ても光の強さが変わらず、狐に化かされた、そんな気分にさせられた。


天井に付いた鎖を引っ張ると、屋根裏の折り畳み階段の要領で、木製の階段が姿を表す。


「また階段か…」


もう、何度目かも分からない階段を登ると、とても大きな部屋に出た。


そこには、ステンドグラスが壁一面に張り巡らされ、壁際に置かれた鏡に向かって、石像が向かいあっていた。


石像は、自らの姿に恍惚する個体もあれば、鏡に写る姿に落胆し、絶望する個体もみられた。


イザベラは、体育座りのような格好で、部屋の真ん中に座っていた。


「足が疲れた」


「お前はインドア派だからな」


逸見は、部屋をぐるっと見渡すと、イザベラが見つめている天井の絵を見た。


「これは天使か女神か?」


「いいえ、邪神よ」


天井の絵には、右手に鏡、左手には分厚い本を抱えた女が、鏡を覗き込んで微笑んでいた。


「この絵に描かれてるのは、理想の神アテネって言うの」


「現実に苦しんでいる人間を選んで、別の世界に引きずり込むって言う迷惑な神」


「邪神には見えないな」


「でもこの絵違和感があるでしょ」


そう言われてみれば、確かに変な感じも、しなくはなかった。


意図的に何かをずらしているような、本来そこにある筈の無い物が、描写されているような。


そんな気がするのだ。


「なぁ、どうしてこの場所なんだ?」


「この場所で何をしようって言うんだ?」


イザベラへ、その理由を問い詰めようとした。


だが、床の階段が再び動き出し、足音が聞こえてきた。


「くそったれ」


ライフルを構え、先程からストーキングしてくる

不逞の輩を迎え撃つ。


顔を見せたのは、蛮勇の者だった。


「またお前か、そんなに私が憎いのか」


呆れる程の執着心で、追ってくる勇者に、照準をあわせる。


「皆死んでしまったんだ!お前のせいだ!」


「自らの考えによって招いた結果に、今更何を」


「お前が殺した人達は、信仰深く真面目で良い人達だった!」


「そうか、それでその目で確かめたか?」


「なんだと!」


「何故、見たことも会ったこともない連中の擁護をする?」


蛮勇の者は狼狽えた。


どうやら図星のようだ。


「患者の面倒を見たことはあるか?」


「患者が起こしたことの、尻拭いをしたことはあるか?」


「何も知らない連中が、やれ差別は駄目だとか、暴力は駄目だと外野から口うるさくほざく」


「ならどうすれば良かったんだ?」


「監禁すれば良かったのか?」

「笑い者にすれば良かったのか?」

「諦めれば良かったのか?」


「社会から異常者だと罵られ、家族からは金を浪費する厄介者として嫌われ、後ろ指を指されていることすらも気付かずに、永遠と妄想を続ける」


「惨めだ!哀れだ!痛々し過ぎる!」


「アレと1か月過ごしてみろよ」


「皆殺しにしたくなるぞ」


激しい怒りを吐き出し、静寂が訪れる。


その静寂の中で、自称勇者は考える事を放棄した。


「俺は、患者とか差別とか、そう言うのはよくわからねぇんだけどよぉ」


「お前を倒さなきゃいけないって事は、よくわかった」


蛮勇の者は、逸見の言っている事を理解出来ず、やっと捻り出した答えがそれだった。


「何も分からないなら口出しするな!」


「この馬鹿が!!!」


ライフルを連射し、無数の弾丸を弾き飛ばす。


自称勇者は、それを避けれる筈だった。


だが、30発のクルツ弾は、勇者の体を貫いた


「なんで…いつもかわしてるのに……」


吐血して膝をつく。


「そりゃ神は死んだからね」


イザベラは、拳銃を構え、愚か者に銃口を向ける。


直後、勇者の背後にあるステンドグラスが、煌々光と輝く。


「核は無事に起爆したようだな」


世界中に分散し、自らのイデオロギーに忠を尽す狂信者の手によって、無数の核が爆発する。


「神を信じる人の大多数が、死んじゃったしね」


「そりゃ、神の力も弱まるよ」


夫婦は、拳銃を構え、ステンドグラス越しに光る強烈な光を見た。








「「これが最後だ!」」








45ACP弾が、勇者の腹目掛け回転する。

命中


380ACP弾が、勇者の肩を砕く。

命中


45ACP弾が、勇者の指を吹き飛ばす。

命中


380ACP弾が、勇者の頬を貫通する。

命中


45ACP弾が、勇者の足の皿にヒビを入れる。

命中


380ACP弾が、勇者の耳を弾き飛ばす。

命中


45ACP弾が、勇者の歯を粉々にする。

命中


命中!命中!命中!命中!命中!命中!命中!


持ち合わせる全ての弾丸を、勇者へ叩き込む。


勇者は銃撃により、ステンドグラスを突き破って、塔から落ちた。




終わった……


終わったのだ。


ガーベラとの約束を果たした。


邪魔をする奴は全員死んだ。


これからこの世界は、生産性と合理性を重視した世界に生まれ変わる。


その過程で、患者は非生産的な対象として、処分されるだろう。


この世界に居る意味は、もう何処にもない。


その瞬間、違和感を感じた。


吸い出されるような感覚、肉体が浮かび、辺りが真っ白になる。


その時、微かな感触が私の手元にあった。


金属の肌触りと、イザベラの手の感触だ。


「一緒に行こう、あのどうしようもない素晴らしい世界へ」









日本国東京にて


気が付いた時、ビルの上で寝転がっていた。


全身に伝わるのは、肌に突き刺さるような寒さだ。


直ぐに起き上がり、辺りを見渡す。


隣では、塔に持ってきた荷物と共に、イザベラがすやすやと眠っていた。


立ち上がり、ビルの上から周りを眺める。


焼け野原となり、コンクリートというコンクリートが、捻れて粉々になっている。


「こんなにやられていたのか……」


頭を過る絶望、だがそれも一瞬の出来事だった。


轟音と共に、無数のヘリが頭上を通過する。


「国防軍だな」


朝日が街を照らし初め、眩い光が視界いっぱいに広がる。


目前、そこには、人の動く姿があった。


この荒廃振りにも関わらず、復興という目的の元に、一致団結している祖国の姿が、そこにはあった。


「皇居が残っている」


「スカイツリーも健在」


「信号機が点滅してる、電気は通っているみたいだな」


手のひらに、熱い感情が込み上げてくる。


「いける、いけるぞ!」


「やってやる!あいつらに壊されたこの国を、建て直すんだ!スクラップアンドビルドだ!」


「もう、寝起きからうるさいわよ」


イザベラが、目を覚ましたようだ。


「ここが、貴方の故郷?ちょっと焼けてるわね」


「いいさ、この国は焼かれて続けて、強くなって来たんだからな」


「私、貴方に一緒憑いていくから…」


「だから疲れて、壊れて、もげて、私に依存してね」


頬を朱色に染め、微笑みながら話すその姿は、とても美しかった。


「あぁ、例え俺が死んでも、地獄からお前を引きずり込んで絶対離さない」


二人は、互いに向き合い、熱が気持ち悪いぐらい込み上げてくる情熱的な愛を誓う。


一生、そして永遠に


熱くて堪らないほどに

ここまで読んで頂き、ありがとうございます。


また新しいシリーズを書いたら、読んで見て下さい。

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