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眼下の脅威は国民感情と共に

セルンビア国にて


「この絵どう思う?」


イザベラは、露店に立ち並ぶ絵を見て、感想を求めてくる。


「これは…なんだ?何で木が逆さまに植えられてるんだ?」


逸見が見た絵は、赤い空の下に、樹木が逆さまに植えられ根っこが露出した、奇妙な絵だった。


周りと同じような絵を描きたくなくて、あえて逆さまに書いた感じにしか見えない、という感想は黙っておくことにした。


ここセルンビアでは、数百年前に起きた宗教戦争の慰霊祭に、ブリタニカ皇太子が訪れるとだけあって、お祝いムードとなっていた。


建物と建物の間に、色とりどりな旗が掲げられ、店先には、皇太子の似顔絵が飾られている。


「皇太子様歓迎ムードだな」


「えぇ、そうね」


軍楽隊が通りでパレード行進を行い、賑やかな賑やかな雰囲気に包まれる。


その音楽に引き寄せられ、群衆は列を作り、音楽に歩調を合わせる。


「お腹すいた」


パレードを見飽きたイザベラは、食欲を満たそうと、遠回しに食事を所望した。


「しょうがないな、何が食べたい?」


「ここの名物は貝料理らしいわよ」


「そうか」


観光客で賑わう大通りから離れ、貝を扱う店を探し、店内へ入る。


「いらっしゃい!何人ですか?」


「二人だ」


「奥のテーブルへどうぞ!」


慌ただしく動く店員のばあさんは、まるで伝令兵のように息を切らしながら、客からの注文を聴いている。


「ご注文は!」


「クレカ貝のパスタを2つ」


「はい!ごゆっくり」


昼時の為か、店内はそこそこの客が集まっており、その慌てようからするに、普段は客がここまで来ないのだろう。


するとドアが開き、子供が入ってくる。


「母ちゃんレベッカ連れてきたよ!」


「ごめんなさい!遅くなりました」


「非番なのにすまないね!人手が足りなくて」


どうやら、非番のバイトまで呼んできたようで、すぐに仕事着に着替え、ニコニコしながら接客する。


「料理が来るのはまだ先かな」


「そうみたいね」


「…………」


「…………」


イザベラと話すこともなく、料理が来るのをひたすら待つ。


そういえば、イザベラと会う時はいつも、お茶を片手に本を読むか、一方的に喋るかのどちらかだったなと、今更ながら思い出した。


こうやって過ごすのも久しぶりだった。


「まだアドラーにいた頃、覚えてるか?」


「…ええ」


「何処にいても、やることは変わらない」


「ライフル片手に敵の形をした物を撃つ」


「生産的な活動をする訳でもなく、ただ戦友達に武器を持たせて引き金を引けと命令するだけだ」


「なぁ…もしかして私はこの世界に・・・」


そう言いかけた直後、テーブルの下から金属を擦る音が聞こえる。


「それ以上言えば、これが夫婦最後の晩餐になるわ」


「………………………………………………………………………」


「はいお待ちどうさま!」


テーブルの上にパスタが運ばれ、1200と数字の書かれた注文書と共に置かれる。


「頂こうか」


「そうね」


二人はパスタに手を付け始めた。


「このクレカ貝って言うのは、ムール貝に似てるな」


「悪くはないけど、トマトソースに何で葡萄を入れるんだろ?」


昼食を食べ、チップを多めに払うと店を出た。


そのまま路地裏を適当にふらついていると、直ぐに地元ギャングに囲まれた。


「王子様か何か知らんが、観光でここに来てるならとっとと帰りな」


武器を持った5人の男達が、逸見達を囲んだ。


「実を言うと、ここには観光で来たのが半分で、もう半分は別の事をやりに来たんだ」


がらの悪い男が、こちらを睨み付けながら迫ってくる。


「なに訳のわからないこといってんだ!

ああ!?」


逸見は、次のように言った。


「ジョン・○ィックって知ってるか?」


その言葉と共に、ギャング5人を目にも留まらぬ早業で始末する。


「よし。決まった!」


イザベラはPPKを取り出し、腹を抱えて呻いていたギャングに止めを刺す。


「まだ残ってた」


「あぁ、そりゃすまんな」


ガバメントをホルスターにしまうと、ギャングの1人が持っていたベレッタM1918を拝借する。


「変な形の銃」


イザベラは、上にマガジンが付いた奇妙な形の短機関銃に不満を言う。


銃を新聞紙で、くるんでいると、教会の鐘が鳴り出す。


「時間だ、教会へ急ぐぞ」


足早にその場を去ると、丘の上の教会へ足を進めた。




教会にて


神父は、がら空きの礼拝所を見てため息をついた。


世界の信仰が薄れて、今や誰も教会に寄付をせず、葬式の時だけは頼ってくる人々に、あきれ果てていたのだ。


「う〜ん、悩ましいですなぁ」


独り言を言ったいると、礼拝所の一番前の席に、1人だけ男が座っていたのだ。


「どうかなさいました?」


声を掛けたその男は、こう呟いた。


「祈っていました」


「神の存在を」


その時、教会のドアを蹴破り、1人の女が入ってくる。


「やり残したことは、終わったか?」


セチアは、目玉を女神像へ向かって放り投げると、腕に装着したレーザーを起動する。


続いて逸見も、新聞紙を被せたまま短機関銃を、セチアに向ける。


「貴様の企みは分かっている」


「降伏しろ、そしてどこか田舎に引っ込め」


「断る、もう後戻りは出来ない!」


「あんたの裁判記録を読んだ、あの怪物は教会と国が造った物なんだ」


「そんなことは知っている!いちいち質問しやがって、アンケート用紙にでもなったのか!」


「ならなぜ、戦争を巻き起こそうとする!」


「あの戦車が何かは知らないけど、あれには絶対何か良くない物が載ってる」


「ほう!神のお告げでも来たのか?」


「そうじゃない、神はもう捨てた」


「誓ったんだ、この世界を滅ぼせと」


「誓った…?」


「それに私は軍人だ、そして上から与えられた最後の命令は・・・」


「皇國の四方を守るべし………これだけだ」


覆い被せてた新聞紙を剥がすと、引き金を引き、セチア目掛けて銃撃する。


向かってきた銃弾を、セチアは繊細な動きで避けると、レーザーで牽制する。


レーザーが逸見の頬を掠めた。


「さっさと逃げろ神父!」


セチアは、神父を逃がすと、驚異的な速さで教会の壁や天井を駆け回った。


高速移動するセチアを撃ち落とさんと、短機関銃を腰だめで乱射する。


セチアは、指揮棒でも振るかのような手捌きで、レーザーを放つ。


セチアは、これまで培ってきた火力主義的な戦い方を捨て、精密射撃型の攻撃方法に変更した。


その結果、最小限のエネルギーで、効率よく敵を倒すことに成功したのだ。


レーザーは、窓から差す光のように一直線の時もあれば、時に糸のように曲射して照射されることもあった。


正に工芸品のように繊細で、芸術的な攻撃だ。


「クソ!動きが読みにくい」


光の糸は、まとわりつくように攻撃し、こちらを細切れにしようとしてくる。


「何か変だ」


レーザーを曲げるには、相当な手間と労力が掛かり、いずれも戦闘で使用するには不向きだ。


なのにあの女は、まるで鞭でも打つかのように、レーザーを操っていた。


「やはり最後に頼るのはこれか」


短機関銃を放棄し、拳銃とナイフを取り出す。


「格闘戦は苦手なんだがな」


発煙弾を教会内で焚くと、そこら中に転がした。


たった2つで、辺り一面が煙に包まれる。


「煙幕っ!」


セチアはこれまでの戦術からして、逸見が格闘戦を仕掛けてくると読み、煙の中で全方向に向かってレーザーを照射する。


しかし逸見は、レーザーをものともせず突進してくる。


煙でレーザーの威力が減少しているのを利用して、防弾チョッキに入っていたアーマープレートを盾に接戦したのだ。


「物理舐めんなぁ!」


プレートを投げつけ、セチアの顔面にクリティカルヒットする。


鼻血を出しながらも、両手に備え付けられたワイヤーで、防御体制をとった。


レーザーワイヤーが、横薙ぎに飛び、逸見の頭をはね飛ばそうとするが、スライディングでかわすと、拳銃で足を銃撃した。


体勢を崩しながらも、セチアは直射レーザーを使って、反撃に出る。


レーザーは皮膚を切り裂き、傷口を焼け焦がした。


その痛みに耐えながら、仰向けに倒れたセチアの横腹へ、ナイフを突き立てる。


続けて膝の裏を切り、両手の指を切断する。


完全に動きを封じられたセチアは、敗北を悟った。


「本気で世界を滅ぼせると思っているのか!」


戦う術を失ったセチアは、また動く口によって最後の抵抗を試みる。


「皇太子を殺せば、世界は同盟国を守る名目で戦争を始める」


「ブリタニカはセルビアンに宣戦布告し、セルビアンと同盟関係にある白衛帝国は、セルビアン防衛戦争を始める」


「そしてブリタニカと同盟関係のレギオンも戦争に参加し、がら空きになった東大陸で、東亜軍が活発化するだろうな」


「そう上手く行くとでも!公にはされてないが、この世界は新しい抑止力を見つけたんだ」


「世界中がその抑止力で戦争を躊躇っているんだ!」


恐らく、核兵器のことを言っているのだろうなと思った逸見は、瀕死のセチアに絶望を叩きつけた。


「良いことを教えてやる」


「私もそれを持ってるしかも21発」


セチアは愕然とした。


そして、悟ったもう止められないと。


「どうして……どうしてそんな目をしているの」


「つかれた……」


セチアは出血によって命を落とした。


「わざわざ止めに来てくれて感謝するよ」


そう亡骸に言葉を残し、ドアを開けて、その場を立ち去ろうとすると、神秘的な光景が目に写った。


ドアを開けたことによって煙が外へ流れだし、窓から差す光が彼女の亡骸を照らし、あたかも天使が天界へセチアを導いてるような気がしたのだった。



「あの女がこれを置いて行った」


教会の外で待っていたイザベラが、普通の10倍サイズのUSBメモリを見せた。


「中の記憶を復元してくれ、だそうよ」


こんな物に人の記憶が入るとは未だに信じられないな、と思いつつ、その最後の望みを叶えてやることにした。


「見ろ、ここなら、歴史の変わる瞬間を特等席で見れるぞ」


教会の立てられた丘は、双眼鏡を使えば、皇太子の顔まではっきり、見ることが出来た。


「テレビカメラが、パレードを撮影していたわね」


「それじゃあ、初めてカメラの前で暗殺された人間になるな」


「なんだか不名誉ね」


「あぁ、そうだな」


双眼鏡を覗いていると、皇太子の車列を銃撃する集団が現れた。


「おお、地獄崇拝者の連中だ、この後自爆する手筈だが…」


直後、黒い煙が巻き起こると、そのまま上へ上へと煙が昇ってゆく。


「成功だ」


「呆気ないものね」


「そんなもんさ、さぁ観光は終わりだ帰るぞ」





その日、全世界は衝撃と恐怖に包まれた。


1つの国で起こった暗殺事件は、ブリタニカ王室を激怒させ、国民感情を報復へ転換させた。


新聞の一面には、過激な文言と共に皇太子の暗殺を繰り返し報じ、ニュース映画は暗殺の瞬間を、国民へむざむざと見せつけた。


そしてそれは、左右の隔たりすら無くし、日和見主義者の尻を蹴りあげた。


そして国は、国民が振り上げた拳を、手っ取り早く分かりやすい方向へ向けた。


皇太子暗殺から程なくして、セルンビアへ、ブリタニカ軍が侵攻。


その報復と言わんばかりに、白衛帝国がユニコッドに軍を進め、数ヶ月の間に2つに国が滅んだ。


戦火は戦火を呼び、新しい戦争を燻らせた。


その結果、各国は、互いの首都に向かって核兵器を差し向ける事となった。


世界大戦一歩手前まで迫ったのである。

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