戦略的な虐殺
もうもうと土煙を上げながら、砂漠を爆走するのは、第1中隊、コールサイン盗賊である。
「ヒャッホウ!居たぞ!3時の方向、敵の輸送部隊だ!」
こちらの接近に気が付き、慌てて反撃しようとしているが、既に無反動砲の射程内だった。
「後方ヨシ!ファイオー!」
ジープの荷台に取り付けられた106mm砲が、車列の先頭を行く輸送トラックを吹き飛ばした。
逸見はジープから下車すると、レギオン合衆国製のM1ライフルを持ち出した。
低倍率スコープを取り付けたM1ライフルは、必然的に交戦距離が伸びる、砂漠での仕様を想定したカスタムを行っており、その結果。
逸見は、トラックのドアに隠れる敵兵を、ドア越しに撃ち抜く。
簡易的な措置にしては、良好な結果を納めている。
MG42とM2重機関銃のコンビが、トラックを穴だらけにし、炎上させる。
車列の前方と後方を潰し、身動きが取れなくなったところを、機関銃と砲の火力で粉砕した。
トラックの半分近くを破壊すると、投降する兵がちらほら現れ始めた。
投降した捕虜には、武装解除だけ行い自力で捕虜収容所まで向かうように告げた。
その際、地獄信者達が、皆殺しにすべきだと主張したが、逸見は「地獄にだって秩序はあるさ」といい放ち、逸見の評判を聞いていた新参連中は、首を傾げた。
人を食ったり、村を幾つも焼いた人間として、報道されていたからだ。
アルシャナ第1機甲連隊 特別教導官ヴァイアーにて
復古派と共和派、双方の戦車が移動と砲撃を繰り返しながら、装甲に砂をこびりつかせていた。
アドラー軍時代に持ち出した、5号戦車パンターの砲撃が敵戦車を撃破する。
「軽戦車だらけだ、どこでも抜けるぞ!」
アルシャナ軍の装甲戦力は非力で、対戦車ライフルを積んだ豆戦車や偵察装甲車などの、対戦車戦闘には不向きな物が多かった。
対する復古派は、ブリタニカから購入したFTやクルセイダー戦車で構成された戦車部隊だった。
装甲戦力で優位に立っていた復古派だったが、彼らには大きな誤算があった。
「思ったより数が少ない」
「盗賊部隊が輸送隊を攻撃してるんだよ」
第1中隊の活躍によって、敵は車両を動かすのに必要な燃料を喪失し、その充足率を大幅に減少させていた。
そして、補給のままならない部隊は、車両を放棄し、その数を減らしていった。
砂漠での戦いは、補給によって決まるのだ。
「装填!」
「ファイオー!」
こうして、アルシャナ軍は砂漠を越え、敵の都市へと迫りつつあった。
1時間後…
市街へ突入した戦車隊は、猛烈な攻撃を受けて立ち往生していた。
これまで戦ってきた連中とは格が違う。
M1バズーカでこちらを攻撃すると、直ぐに陣地転換を始め、予め用意されていた攻撃ポイントに移動するのだ。
兵士一人ひとりが、選抜射手並みの技量を持ち、煙幕と手榴弾と組み合わせたワイヤートラップを駆使して、退却と反撃を繰り返す。
逸見はこのままでは埒が明かないと思い、戦車のキューポラを叩き、ヴァイアーを呼び出す。
「やぁ戦友」
「萩、敵の攻撃が激しすぎるぞ」
「奴らただ、移民先を守る為だけに銃を取っただけの連中じゃないな」
「落下傘部隊か、精鋭だぞどうする?」
「砲兵隊の到着を待て、それから4個歩兵大隊を引き抜いてくる」
「俺はどうする?」
「ビールでも飲んでな」
戦車隊は、都市への攻撃を一旦停止すると、補給を受けに行く。
補給所となっている警察署では、ヴァイアーやハールマンそれにアンナの面々が揃っていた。
壁に残る弾痕が、ここで戦闘が起きたことを物語っている。
署長室と思われる場所で、3名は机を椅子代わりにして、食事をとり始める。
「また芋と豆、こんな物ばっかりだな」
愚痴を溢すヴァイアーへアンナは、レーションよりはよっぽどいいと言う。
窓の外では、アルシャナ兵が敵の死体を引きずって、簡易墓地行きのトラックへ運んでいた。
ハールマンがその死体を、どうにか食べられないだろうか、という目で死体を見つめる。
「やるなよ、隊長に処刑される」
仲間の食人行為を防ぐ為に忠告する。
暫く沈黙が続き、唐突にアンナが切り出してきた。
「私異世界から来たんだよね」
「?」「?」
二人の頭上に?の文字が浮かぶ。
「いや本当だよ、日本って国から」
「いやまてまて、突然何を言い出すんだ?」
ヴァイアーは、一瞬アンナの精神状態を疑ったが、ヴァイアーにはアンナの主張を全否定出来ない理由があった。
それは、逸見と何気ない世間話をしている時だ。
ある新聞が若返りが出来る飲み物として、合衆国製の放射能入り飲料水を取り上げたのだが、逸見はこれを絶対買うなよ、と忠告し、新聞社へわざわざ戦場から手紙で抗議したのだ。
結局、4人が死亡する事態となり、逸見の言っていることは当たっていたのだ。
他にも、敵の誘導砲弾をミサイルという呼び名で読んだり、時々聞いたこともない地名を口にしたりと。
ひょっとしたら逸見は、別の世界から来たんじゃないか、そう薄々思っていた所だったのだ。
「いやまてよ…まさか本当に?」
アンナは鉄のカップに水を注ぐと、壁にもたれ掛かると、。
「それじゃあ、何から話せばいい?」
砲撃の振動で建物が揺れる中、この世界の歪みについて問い掛け、聞かされた。
マダッド国ラリルトエ教会にて
「申し訳ございません!」
教会は布教の為に、多くの地域に教会を建てていいる。
それ以外の用途としては、教会所属監視員の支援である。
「貴女は子供3人の面倒さえ見られないのですか?」
「弁解の余地もございません!」
全力で床に這いつくばって謝罪する神官セチアは、教会が指名した勇者を恨んだ。
勇者連中の1人、アリスが勝手にアルシャナへ向かったのだ。
「貴女の役目は、あの愚かな連中を制御することですよ」
「信仰の弱まりは神の力が弱まると言うことは、神の力が弱まるれば、我々の魔法力も弱まる」
「それを理解していながら何故、たった1人の異世界人を捕まえることが出来ないのか!」
セチアは足蹴りにされながらも、なんとか勇気を振り絞り発言する。
「そ、それは勇者達の武装が、現行の科学力に追い付いていな」
と言いかけた時、セチアは眼球をえぐり出されるような痛みに襲われる。
「世界の魔法力は弱まりましたが、貴女を殺すことは造作もありませんよ」
血管が揺れ動き、眼球の裏で人の手が蠢く。
「誓いなさい、私は必ずや異世界の不届きものを捕らえ、教会の信仰と権威を回復させると」
「ち、ちかぃます」
「よろしい、では神からの罰を受け入れなさい」
「えっ?」
その日、教会から出たゴミを漁る野良猫のメリーが食べる餌に、目玉が追加された。
アルシャナ復古派臨時首都にて
3時間に及ぶ砲撃の後、街を包囲する作戦に出たは良いものの、植民地時代に建てられた建造物は思いの外頑丈で、1000発以上の砲撃に耐えていた。
何故300年前の物がこれ程耐えうるのか?その答えは、砲撃で外壁が剥がれた時に分かった。
「鉄筋コンクリートか…また誰かが技術を教えたな」
この世界では、最近(100年前)になって広まった技術であるが、何処かの技術屋が教えたようだった。
「どうします?空挺兵団と正面からやり合うならお供しますよ」
頼もしいことを言ってくれるアンナに逸見は、「正攻法はユニコッドで懲りた」と言う。
「戦車に随伴歩兵を、弾の許す限り隠れられる場所全てに撃ち込め」
そこから先は、火力と火力のぶつかり合いだった。
簡易的ながらも強固な陣地を形成する空挺部隊と、その火点を擲弾発射器で徹底的に叩き潰す独立大隊。
八九式重擲弾筒は素晴らしい兵器で、流石米軍に恐れられただけはあると感じた。
ある隊員は、このランチャーと拳銃一丁で戦場へ赴き、弾薬ベルトのように榴弾を肩にぶら下げ、
手当たり次第に撃ち込んでいた。
それでも根を上げない頑固な敵には、戦車砲の強力な砲撃がお見舞いされた。
「キキョウ大い…」
もう既に、この世にいない人間の名前を口にしてしまった。
「くそ、何をやってるんだこの野郎」
自らへ叱咤の言葉を口にすると、新たな副官であるアラムを呼んだ。
「今から日本国防軍式の制圧法を教えてやるよ」
「はい?ニホン?」
「言ってもわからんさ」
ドアを蹴破り、手榴弾を投げ入れ突入、室内へ入る定番の方法であり基本である。
5m内での近接戦闘が始まり、けたましい銃声と多様な言語が入り交じる。
30発入りの弾倉を直ぐに撃ち尽くし、代わりに拳銃を構える。
45ACP弾12発が、敵に永遠の安息を与えんとする。
突入班が2名の敵兵を射殺し、再装填を行おうと、マガジンポーチに手を伸ばしたその時。
上の階から、 クリップが付いた弾薬が落ちてくる。
その場に居た全員が、天井に向かって撃ちまくった。
急いで2階に上がり、恐る恐る部屋を覗くが、誰も居なかった。
「こうも連戦続きだと参るな」
「ちょっとしたことでこの様だ」
少々疲れ気味な逸見を見て、隊員達は愛想笑いをした。
十字路にて
イザベラは十字路のど真ん中で椅子に座り、本を読んでいた。
そこへ満身創痍のアリスがやってくる。
鎧は穴だらけで、皮膚は焼け爛れていた。
「い、いざべらしらー、あなたを教会のなのもとに断ざいします」
爆発でズタボロになったアリスは、最後の力でイザベラを抹殺しようと、剣に光を込める。
「なんでそこまでするの?」
「何を言うか!お前達がやった非道な行いを断罪する為に、神が私を選んだからだ!」
「神ねぇ…」
「あいつら結構意地悪いよ」
自らが信じる神を侮辱されたアリスは、体中に血液が巡り、この女を必ず殺すと決め、剣に光を宿し、消し炭にしようと剣を振った。
だが、剣はその力を発揮せず、そしてアリス自身の力も消え失せた。
「クレームが上に届いたそうですよ」
「クレー・・・ム?」
イザベラはPPKを取り出すと、「おすわり」と言って、アリスの足を撃ち抜いた。
「い゛い゛い゛ぃ゛ぃ」
奇妙な叫び声を上げて、アリスは倒れる。
「貴女と雇用関係にあった神様は、本日をもって貴女を解雇するそうです」
「え?え?え?え?え?」
何を言ってるんだ?理解出来ない?そんなアリスの疑問に答えるかのように、イザベラは話す。
「貴女があんまりにも使えないから、神の方が契約切ったそうよ」
「信仰力だけは一流だってさ」
「あ!契約切ったってのは少し語弊があるかな」
「正しくは私が契約を切ったの、私の神と相談して、貴女の神に権利侵害してるってクレーム入れて貰ったの」
「そういう訳だから、貴女は今何の力も持たないかわいいかわいい18歳の女の子」
「私の夫を攻撃してなかったら、食べちゃいたいぐらい!勿論性的な意味で」
機関銃並みのトークで愉しげに話すイザベラに、アリスはひたすら恐怖していた。
「断罪の時間ですよ」
椅子をどかし、倒れたアリスの髪の毛を掴んで、十字路の中心に引きずり出した。
パンター戦車の履帯が、アリスの下半身をプチプチ踏み潰しながら進む。
「嫌だぁ!!!!!助けて!!!ごめんなさい!!!」
重量45tもの戦車は、柔らかい肉を何の抵抗も無く、ささみを噛み千切るよりも容易く、踏み潰す。
「もう正義にも冒険にも憧れませんから!!!」
「助けて!!たすけて!!!タスケテ!!!!」
迫りくるミートマッシャーの魔の手から、必死に逃れようともがく。
「暴れたらだーめ」
遂には心臓へとたどり着き絶命、その後は順番に肩首頭の順にアリスを踏み潰した。
返り血を浴びるイザベラは、恍惚とした目で砕かれた肉片を見つめた。
ヴァイアーが戦車から降りて、イザベラに問い掛けた。
「さっきの神の話あれは本当なんですか?」
イザベラは、何時ものように微笑んで答える。
「どうでしょうね」
ブリタニカ王国にて
その日、ブリタニカ国内は騒然としていた。
固まった血液と写真そして名前の貼られた小瓶が、各省庁に送り付けられた。
あまりの趣味の悪さに、ブリタニカ国民は気分を害した。
だがそれよりも恐ろしかったのは、四肢を切断され、ダルマ状態のまま議事堂の前に放置させられたアルシャナ移民約10名だった。
送付された手紙には、こんなことが書かれていた。
やぁ諸君、プレゼントは気に入って貰えたかな?その小瓶は君達が武器を与えた連中によって殺された人間の血が入った小瓶だ。
ちゃんと誰の血か名簿もあるから読んでくれ。
諸君らのような肌色が薄い連中は、知らないだろうが、人間の血液は皆赤いんだ。
肌色が黒かろうが黄色かろうがね。
これから毎日一定の人数を加工する。
それが君達と同じ肌の人間か、それとも忌み嫌う有色人種の人間かは、君達の優秀な研究員が調べてくれるだろう。
君達がアルシャナから身を引けば、工場は生産を停止する。
選べ30万の命か国の威厳か




