ラミラアルド海の風
ファリカーナ大陸沿岸部にて
「敵機来襲、3時の方向、対空戦闘用意」
「海面の反射で精度が落ちてる!」
レーダー上を高速で移動する物体は、レシプロ機ではない。
「こいつが噂に聞くジェットか」
その直後、巡洋艦アレールは、2発の爆弾を受けて大炎上した。
ブリタニカ海軍は大混乱に陥っていた。
東の猿共が住む場所だと思っていた国が、誰も手を出さないと思っていた植民地まで攻め込んできたのだ。
「敵機急速接近」
「駆逐艦ヨレークアクター被弾!」
「くそ猿共め、大人しく島に籠ってればいいものを」
「敵雷撃機、10時の方向から接近」
双発機が凄まじい速度で接近してくる。
「雷撃コースを見極めろ、操舵が遅れれば海の底だ!」
双発機は、雷撃するのに少し離れた場所から、爆弾倉を開いた。
「なんだ?東亜国お手製のロングランス(酸素魚雷)か?」
投下された物体は、ロケットブースターを点火し、光のごとき速さで接近してくる。
「なんだあのロケッ」
音を置き去りにしながら推進するミサイルは、艦のバイタルパートを貫徹し、大爆発を起こした。
旗艦クイーン・セラーナは海底に没した。
この瞬間ラミラアルド海は、ブリタニカだけの物ではなくなった。
東亜帝国海軍 旗艦 航空母艦 品濃にて
作戦室の黒板に次々と戦果報告が上げられて行く。
駆逐艦3隻撃沈
巡洋艦2隻撃沈
戦艦1隻撃沈
空母大破1隻
空中艦艇1小破隻
史上稀にみる戦果に、東亜海軍では祝賀ムードとなった。
「ご協力に感謝しますイザベラ・シラー夫人」
「礼には及びません、この結果はあなた方の実力ですから」
東亜国軍は快進撃を続けていた。
ブリタニカ極東艦隊を壊滅させ、植民地を逆占領し、ついにはブリタニカの裏庭まで進出した。
「貴女の持つ諜報部隊は優秀です」
「正確な航路、艦の艤装、哨戒機の飛行ルートまで、特定したのですから」
「有能な部下を持つと、色々もて余してしまいますから大変なんですよ」
喉を鳴らして笑うイザベラは、歪んだ目で堀田中将を見つめた。
小型艇で陸地に戻るイザベラを、堀田は見送っている。
「情報との交換に求める物が、潜水艦一隻とは贅沢な女だ」
隣にいる杉田艦長へ言い聞かせるように、堀田は話す。
「陸戦隊が鹵獲したS級潜水艦を、まるごと差し上げましたか」
「何に使う気だろうかな?」
双発機がカタパルトから発進する。
アングルデッキを取り入れた品濃は、発艦と着艦をスムーズに行えた。
飛行甲板も長く、陸上基地でしか運用出来なかった機体も運用できた。
「杉田艦長詮索はするな、我々の目的はあくまでも、ブリタニカ海軍の弱体化だ」
「来るべき決戦に向けて、敵の戦力を削ぐのだ」
「は!」
マダッド南部にて
街では沿岸部から、逃げ出そうとする人だかりで、ごった返していた。
逸見はベンチに置かれていた新聞を見ると、記事の一面に、東亜軍機空襲の見出しが、写真と共に掲載されていた。
「カメラマンいい腕してるな、建物と合わせて撮ってあるから、一目で低空飛行だと分かる」
「感心してる場合か、ブリタニカの兵隊がわんさかくるぞ」
「早いとこ、この街から離れよう」
落ち着かない様子のモーガンを宥めると、逸見は新聞の広告を見るように言った。
「電話番号19141939にお電話ください?なんだこりゃ」
「嫁と決めた相互確認番号だ」
「ただ掛けても繋がらないが」
と言って逸見は、手頃な店に入って店主に電話を借りると、19181945と入力した。
「ロッキード事件をご存知ですか」
「いいえ記憶にございません」
逸見は口元をにやつかせ、状況を知らせろと言った。
5分後、電話を終えた逸見は、モーガンへ耳打ちする。
「東亜海軍がブリタニカの軍港を襲ったらしい」
「で、海上警察が引っ込んで、別の大陸への移動がやり易くなった」
モーガンは、逸見の物言いに違和感を覚え、質問する。
「やり易くなったってことは、まだ何か障害があるんだな」
「鋭いなモーガンそのとおりだ」
逸見は慌ただしく、街の中を動く水兵達に目をやる。
「生き残った艦が反撃の為に準備してる」
「ブリタニカ海軍以外の海上に出ている船は、全て撃沈するって話だ」
これ以上の植民地損失を許さないブリタニカは、ラミラアルド海を航行する船舶は、全て東亜軍の偵察部隊と判断し、見つけ次第撃沈すると宣言した。
これによって、別の大陸に向かって高飛びするのは、少々難しい話となった。
「どうする?モタモタしてると、あの変な剣を持った連中が追い付いてくるぞ」
「船を見つける、どうせ皆街から出てるんだから盗み放題だ」
そう言うと、街の外へ出ようとする群衆の流れに逆らって、歩き始めた。
両手や背中に大量の荷物抱え、汗を流しながら歩く人の群れ。
時折見掛ける馬車や車は、人の波に飲み込まれ、立ち往生している。
彼らが背を向けて歩く海は、青く透き通っていて、地中海を思い出すような海だった。
大通りの端に並ぶ土産屋やレストランには、ドロル貨幣使用可能、観光客歓迎と言った看板が立ち並び、観光業で成り立っていることが容易に想像できた。
この避難民達は、何処へ行くのだろうか?親戚の家?実家?それとも行く宛てがない?どちらにせよ彼ら彼女達には、多くの困難が待ち受けているに違いない。
フロラリダ大陸にて
S級潜水艦 基準排水量812トン 乗員49人
533mm魚雷発射管6門に、4インチ砲を搭載した潜水艦だ。
東亜軍が鹵獲したブリタニカ製潜水艦を、まるごと譲って貰った物だ。
「この潜水艦どうやって運用するんですか?」
アデリーナはイザベラへ質問する。
「世の中にはスリルや冒険を求める人間が、意外といるのよ」
そう言うと、イザベラは潜水艦へ乗船する男達に目をやる。
20〜40代の男性で構成され、口調や歩き方から見るに、元軍人や民間船に属していたのだろう。
「貴方達に与える任務は1つ、私の夫を連れ帰ってくること、ただそれだけよ」
「了解いたしました姫様」
無粋な発言も典型的な船乗りだった。
「S級か前に乗ってた奴とは少し違うな、改良型だ」
「時間がないようだから、目的地に着くまでに勘を取り戻せ」
「1時間以内に出港するぞ!」
イザベラは白いドレスのような服を翻し、後ろで待機する復活を遂げたガーベラ大隊約300名へ命令を出した。
「貴方達の隊長が帰って来るまでに、アルアカド派と協力して、この国を安定化させなさい」
「手段は問わない」
マダッド国南部の沿岸にて
「逃げるな!」
眩い光が視界を覆ったかと思えば、次の場面では、煉瓦造りの倉庫が消し炭になる。
「ならその光るやつ捨てろバーカ!」
逸見は拳銃で応射しながら逃げ回る。
案の定勇者集団に見つかった逸見とモーガンは、海軍の倉庫区を、ぐるぐると逃げ回っていた。
北からはビームを放つ剣、右からは銃弾を弾き返しながら接近する女、左からは魔法の杖でレーザーを放つ神官服着た奴、そして南には
直後、鉄矢が足元の近くに突き刺さる。
「こんな物で撃ってきたのか!?ファンタジー被れ共め!」
少し離れた場所から、まだ挫折を知らない青年がクロスボウを構えて、逸見達を狙撃する。
自身の強化された目と盲目的な信仰の力によって発射される矢は、1000を越える距離を見透し、煉瓦の壁を容易く貫通させた。
「どうする逸見」
「連中、勝ったと思っていやがる」
「クソだ!皆クソだ!」
逸見は激昂し、怒り爆発させた。
「剣もレーザーも弓矢も皆クソだ!」
「私の戦争はまだ終わらない!」
「祖国に核が落ちた時から終わってない!」
「全員殺してやる!劣等種族共は惨たらしく死ね!」
自信と正義を持ち合わせた剣士、アリスルドベギアの真正面から対峙すると、襲い掛かる全ての刃を避け、工場勤務の最中に製作した粗製ナイフで視界の外から刺し込む。
脇腹に備え付けられた神経を刺激させてると、アリスは甲高い悲鳴を上げる。
返しの付いた刃が、内臓筋肉脂肪を体外へ引きずり出す。
「アリス!」
叫ぶ、勇者の声は悲痛なものだった。
アリスの体を盾にしながら、勇者へ発砲しながら近付く。
このマリーゴールドの称号持ちの男は、考えることが苦手らしく、行動までに時間が掛かる。
だからこそ逸見は、考える暇を与えなかった。
仲間を盾にされ、なんとか助け出す方法はないかと模索している中、銃弾を避けたり弾いたりするのに必死で、考えが纏まらないのだ。
そうして近付いた逸見は、肉の盾を捨て、足付け根付近にある太い血管を切断する。
血液が吹き出し、小便を漏らしたみたいに服を赤く染め上げる。
首をホールドすると、鎧の隙間へ何度も刃を突き立て、人皮をズタボロにした。
ナイフの切れ味は落ち、ただ力と厚さ3mmの鉄板だけが肉を刻む。
「テメェの仲間をやったときの悲鳴を、聞かせてやりたかったぜ!」
何処かの警官が言ってたセリフを口にしながら、限りない暴力、そして痛みが勇者へ迫りくる。
混乱した勇者は、剣を振るい光を放つ。
「その剣ちょっと貸せ」
剣を持つ腕の関節へナイフを差し込み、剣の先端を南へ向け、弓使いのアルフレッドが居ると思われる場所へ放つ。
港は破壊され、貨物用大型クレーンが真っ二つに切れる。
「ご苦労様死ね!」
勇者の後頭部へ向けて8発の弾丸が飛び出し、頭蓋骨を砕く。
手術道具を使わずに脳味噌をロボトミー手術するのは、私が世界初だろう。
「お前らのようなのを殺すのは気分がいいな!」
アリスの頭へ銃口を向け、射撃。
綺麗な顔に綺麗な穴が空いた。
「口だけは達者な役立たずめ……」
神官は今蘇生するのは危険と判断し、撤退した。
「モーガン!仕留めたぞ」
瓦礫の山に隠れていたモーガンが、恐る恐る出てくる。
「終わったのか?」
「まだ終わっちゃいない」
「金の入ったバックは持ってるな」
「あぁ」
「よし、この国から逃げろお別れだ」
モーガンは、悲しそうな顔をしていた。
「連中はまたやって来る」
「あんたは今から起こる激動に堪えられない」
「さぁ行け、行くんだ!」
モーガンは「今度は塀の中ではない所で会おう」と言って走りだした。
たった数週間の縁だったが、互いに別れを惜しんだ。
逸見もモーガンとは別の方向へ走りだした。
釣り船を拝借して、陸地から離れて行く。
オールでゆっくり確実に漕ぐ。
近海を警備している軍の哨戒艦艇に見つからないか不安だったが、何とか指定されたポイントへたどり着けた。
街は灯火管制が敷かれて沈黙し、海は波音を立て小さな船を揺らす。
本当に来るのだろうか?本当にここであってたのだろうか?という不安を抱えること7分、遂にそれはやってきた。
水中から音を立てて、浮上してくる大きな物体が現れた。
「潜水艦か!」
揺れる海の中、ボートがいる位置に狂いなく浮上して、潜水艦の甲板へ直接招待された。
ハッチが開き中から人が出迎える。
「どうもお会い出来て嬉しいですミスターイツミ」
「こちらこそ名前は何と呼べば?」
「ヘンリーとお呼び下さい!」
「奥様がお待ちですよ」
梯子を登り、ハッチから艦内へ乗り込む。
「ようこそアイリス号へ!彼女も歓迎してますよ!」
そう言うと、ヘンリー艦長は船体を叩いた。
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