躍動
私はゆっくりと狙いを定めて呼吸を整えた。
バン!と大きな音を響かせながら火薬の匂いと共に薬莢が排出され、地面に落ちる。
私は今まさに高揚そして興奮していた。
この世界で銃火器がどれ程普及しているかは知らないが、それでも銃という武器が戦場に置いて、どれ程のアドバンテージを示すか歴史が証明している。
数々の国が、槍や剣を銃に置き換えこれまでの戦術を変えてしまった。
漫画やアニメに出てくるアクロバットに動き周り、銃弾を避けながら、銃を持った男達の喉元をかっさばいてゆく少年少女達は、全てまやかしなのだ。
この武器こそ新時代を切り開く存在なのだ。
その銃を見つけた日から、私はこれを取り付かれた様に整備し始めた。
幸いにも、私は国防軍に自主志願者として入隊していた経験がある。
しかし1ヶ月しか訓練を受けておらず、銃の撃ち方と整備の仕方程度しか教わっていなかった。
もしあのまま戦争が続いていれば、私は今頃地中海辺りで魚の養分になっていたに違いないだろう。
だがその魚の養分になる事を私は望んでいた。
そして、私がこの島に来て10ヶ月が立とうとしていた時だ。
私の運命を変える出来事が起きた。
何故10ヶ月も先の話をしているのかは、置いておこう。
どうせ、取るに足りない話ばかりだ。
それに、あの充実した日々を思い出せば、私のやった事を否定される気がするのだ。
私が村で狩りの役割を与えられ、銃火器を使い他の人間より多くの獲物を狩っていた時、ガーベラと何時ものようにm1897散弾銃を背負って、狩りに出掛けた時にそいつは現れた。
草木に隠れ、我々を待ち伏せしていた。
四足歩行のそいつは、真っ黒な鱗に充血した人によく似た眼球で、こちらを凝視している。
下腹部には無数の人の腕が犇めき合い、その真ん中に大きな口があった。
そいつはガーベラに飛び付くと、その巨体でガーベラを腹の下で抑えつけた。
私はガーベラを助ける為にスラッグ弾を怪物に向け、叩きこんだ。
しかし怪物はびくともしない。
私はナイフを取り出すと、怪物の腹についている腕を切り落とした。
骨に刃が邪魔され、中々切り落とせずにいると、怪物はガーベラを腹についている口の中から吐き出すと、そのまま森の奥へ姿を消した。
今思うと、ここでガーベラを処分しなかったのは後悔すべき事であった。