回る歯車と巻き込まれる運命
100年前の五大宗教会議にて
緑色に怪しく光るランプを囲って、5人のローブを被った怪しげな者達が、歴史に残らない会議をしていた。
「前置きは無しにしよう」
「各宗派の最高位に値する者達に集まってもらったのは、他でもない」
「今、各地で起きている我々の世界の、外から来た存在がもたらした、災厄についてだ」
「なにゆえこのような事が起きておるのかが、儂には理解出来ぬ」
「決まっておろう!」
そう言って立ち上がったのは、集まった中では最も新しい宗教の教祖だった。
「あの大決戦の日!空から一筋の光が降り立ち、一瞬にして全てを無に還した!」
「あれは正に!神が我々に与えた天罰だ!」
「馬鹿を言うな!あれほどの地獄を作り出せるのは、悪夢だけだ!」
会議は難航した。
今まで緩やかに進行していた侵食が、少し前に起きた宗教大戦によって、爆発的な速度で、別の世界の技術や思想が侵食を始めたのだ。
今までは、魔女狩りや異端審問官を使って対処していたが、それも限界に近づいていた。
魔女狩りは、人道的行為から逸脱してると言われ、異端審問官は、先の戦争で暗殺によって数が減少した。
今では、密偵を各地へ送り込み、監視をするしか出来なくなった。
最近では、科学なるものが台頭し始め、魔法や魔術の類いは、常識から逸脱したものとして、定着し始めた。
こうやって、わざわざ敵対関係にある宗派同士で、会議をしているのも、減る一方の信者、共通の敵の存在、外から入ってきた存在に対抗すると言う、利害の一致から来ている。
「こうなっては致し方ない、また英雄を創ろう」
「フンッまた勇者なぞと言う、見せ掛け集団か」
「選ばれし者とはよく言えたものだ、これまでに選ばれた者達は全員、離反するか別の世界へ飲み込まれたではないか!」
「あれは世界に違和感を覚えたから、理想の神アテネに、飛ばされたんだ」
「次は、才能があって、何の疑問も持たずに、ただ盲目的に正義と神を信じ続ける人間を、選抜者にすればよい」
「そんな都合のいい人間が、居るわけないだろ!」
「いないなら造ればいい、赤子の頃から刷り込みをして、我々の操り人形になってもらおう」
こうして、勇者、選ばれし者と言われる者達は、誕生した。
ボームス市のとある地下にて
「もうすぐ萸軍の攻撃が始まる」
「我々はこの街で、鷲軍へ一斉攻撃を仕掛け、少しでも萸軍に向かう数を減らすんだ」
「正義の為に!皆で力を合わせ戦おう!」
声高らかに宣言するのは、自称勇者ことマリーゴールド、本名は明かしていない。
そして、その隣に居るのは、
剣士アリス・ルドベギア
弓使いのアルフレッド
神官マカポイン・セチア
の、3名だった。
アドラー国武器製造工場にて
ベルトコンベアに乗って、川のように流れていく銃弾を、10〜50代の女性達が一発つづ点検していた。
そこにいたイザベラは、白いドレスのような服を着て、工場内を見渡している。
はっきり言って場違いだった。
「イザベラ様!」
工場内の音が大きい為、こうやって大声で叫ばなければ、聴こえないのだ。
「どうぞこちらへ、お付きの方は外でお待ちを」
アデリーナは、緊張していた。
これまで、大きな動きを見せなかった女が、突如として、軍事工場に出向いたのだ。
アデリーナは、騒音の中必死に聞き耳を立てていた。
「イザベラ様我が工場は、国を顧客としておりまして、一般のお客様には、販売出来ない決まりとなっているんですよ」
「そんなことは分かっていますよ」
「だからこれは、私と工場長の個人的な話に、したいんですよ」
笑みを浮かべるイザベラに対し、工場長は、困り顔になった。
「賄賂の話ならお断りします」
「私は、お国の為に、堅実な仕事をしておりますので」
そう、胸を張って言っていたが、イザベラの一言で、顔が青白くなる。
「息子さんお元気?」
「持病で心臓が弱くて、兵役が出来ないそうね」
「でも、7人と交尾して妊娠させるぐらい、出来るんだから兵役しても平気よね」
イザベラは、病院の診断書を机に放り投げる。
「この前兵役逃れを助長した人が、銃殺されたらしいですよ〜怖いね〜」
更に工場長の顔が青白くなる。
「ところで、この書類にある不良弾薬の数って本当に正しく書いてあるの?」
「私には、この2の数字が5に見えるんだけど」
工場長の顔色が、ますます青くなる。
イザベラは、畳み掛けるチャンスだと思い、ここで、鞄から小切手を取り出し、その上に薄い紙を敷いた。
「これはただの紙切れ、でもこれに数字を書いたら、お金が入ってくる」
すると、この話をした途端に工場長の顔色が、劇的に改善していく。
「さあ選びなさい」
「金か銃弾か」
こうして工場長は、紙切れに数字を書き、イザベラの所有する外国籍の船に、毎日一台づつトラックがやって来るようになった。
「テレーシア、次は銃砲店へ行くわよ」
アデリーナは、自分の偽名に反応しつつ、まだ慣れないなと感じていた。
頼れるのはこれだけ!家庭の武器庫 銃砲店にて
初老の男が、拳銃やら散弾銃を、カウンターに並べながら、世間話を始める。
「奥方も護身用の武器をお求めに?」
「えぇ、まぁ」
「わかりますよ、最近物騒ですからねぇ」
「ご主人が留守の間に、強盗が押し掛けて来ないかって皆ビクビクしてる」
銃に弾が入っていないかを良く確認して、最後に引き金を引いてから置く。
「徴兵で男は皆、戦争に行っちまったからねぇ」
「そのうちストリップバーが倒産しちまうよ」
店主の発言に、アデリーナは、神妙な顔をする。
店主は、その視線に気付き、「おっと失礼」と謝罪した。
「45口径弾や7.62mmの売れ行きが下がって」
「今じゃ38口径や22LR弾が売れ筋商品さ」
奥とカウンターを行ったり来たりしながら、適当な銃と契約書類を持って来て、今度は愚痴を溢す。
「戦争が始まって1番面白いことは、銃反対派の連中がこぞって銃を買いにきたことだ」
「あいつら買うときに、何て言ったと思う?」
イザベラは手を見せて、首を横に振った。
「銃を買うのに身分証明書が要るんですか?」
二人は同時に吹き出した。
「さて、世間話はこれぐらいにして、商売の話にしよう」
「えーとまずはこれ、38口径の回転式拳銃、軽くて頑丈そして安い!」
「これに勝るキャッチフレーズは無いね」
「お次はこれ、ブリタニカに併合された国が造ってた奴だ」
「向こうの呼び名だとM1910だったかな」
「引き金を引けば弾が無くなるまで、撃ち続けられる」
「安全装置が3重で、服に引っ掛からない、正に護身に最適な銃だ」
イザベラは、グリップを握って狙いを付けてみたり、スライドを引いたりしているが、どうにもしっくり来ない様子だった。
それを見た店主は、これならどうかと言わんばかりに、一癖二癖もある銃を出した。
「上下二連式散弾銃を、切り詰められるだけ切り詰めた物だ」
「銃床も握るタイプ変更してある、だがそれでもデカいし、かさ張る」
「枕に敷いて寝るのはオススメしない、銃身を切り詰めても国が規制しないのは、そういうことなんだろう」
「最後はこれ、PPK拳銃何でそう呼ぶかは知らない」
「昔っからそうなんだが、よく誰が造ったのかわからない銃が出回る」
「ぶろーにんぐが造ったとか、わるさーってのが造ったとかそういう噂は耳にする」
「どっかの国が、いつの間にか制式採用されてたり、特許とって量産したりしてる」
イザベラは、少々話に付いて行けなくて、目が点になっていた。
それに気付いた店主が、「あぁ失礼」とまた謝罪する。
「この銃は、380ACP弾を使用するダブルアクションの銃だ」
「撃鉄を起こさなくても撃てる拳銃だ」
「白衛帝国のガルマニア警察が使ってる」
イザベラは、手に取って構えてみると、手に馴染むようで、満足げな表情を浮かべた。
店主はその様子を見て、これは買ったなと思った。
「ご主人が居なくて大変でしょう」
「どうです、家庭に防衛力を!ってね」
イザベラは、拳銃の書類にサインしながら、全部買うと言った。
「ハハ!今日は店じまいだな」
そして、次にライフルの書類にもサインし始めた。
「奥さん、それはライフルの書類だよ」
「えぇ、ライフルも買うわ」
「それならそうと、言って下さればいいのに、どれにします?」
「全部」
「全部?」
「ええ、全部」
「本当に店じまいになっちゃったよ」
斯くして、イザベラは372丁の銃と、毎日2千発の銃弾を手にいれる事に成功した。
工作員が転送した暗号化文章の解読が完了
定時報告
監視対象4293が、大量の銃弾と武器を調達している模様
公には出来ない何らかの作戦もしくは、私情による行動を計画してる可能性あり、現状の人数では、本任務遂行は不可能である。
人員の増員を要請する。
監視対象4293が、監視対象7449に宛てた手紙を入手
元気にしていますか?
私は、この前買い物に行った時、店長が料理で使うパウダーを私の足へ溢してしまい、靴の中がじゃりじゃりになってしまいました。
店長の慌てぶりを、貴方にも見せたかったわ。
お詫びに、真鍮製の調味料入れを貰ったの。
今はパウダーを入れて、使ってます。
そう言えば近所の白い家の子供が、私の家をたまに覗いて来るの、困った兄弟よね。
次来たときは、メイドのテレーシアが得意なソーセージとピロシキを振る舞って、驚かせてやりたいと思います。
戦争が早く終わって、貴方と旅行に行きたいです。
アドラーから愛を込めて
イザベラ・シラーより




