明かされるのは衝撃の事実とゲリラの拠点
ボームス街鷲軍駐屯地酒保にて
「じゃあ、よろしく」
逸見は、ウイスキーと鞄をアンナへ渡すと、その場を去って行く。
「よろしくったって…」
「いいじゃない久しぶりに、酒が飲めるんだから」
と、アンネが言う。
「アンネ殿、あまり酔いすぎないように」
「分かってる♪分かってる♪」
10分後…
「軍歌うたいまーす♪」
「よっ!中尉待ってました!」
「いいぞ!ねーちゃん!」
案の定アンネは、他の部隊と混ざって、どんちゃん騒ぎを起こしていた。
アンナとオイゲンは、酒をちびちびと飲んで、騒ぎを、何処か遠くの事のように眺めていた。
「何で酒なんか飲ませちゃったかなぁ」
「でも、アンネ楽しそう」
前は、男と酒を飲むこと事態、あり得ないことだったのだが、入隊してからとても柔らかくなった。
私が、この世界に来て、アンネに出会った時よりもずっと。
そしてアンナは、一冊の本を取り出すとページを捲ったその本の題名は、指輪物語。
そうアンナは、異世界転移者だったのだ。
魔法やドラゴンが好きで、よくファンタジー物の小説を読んでいたことを思い出していた。
ダムの近くの村で魔法の言い伝えを、間近でみた時は、気分が高揚し過ぎて、頭が痛くなった程だ。
元々は、園芸を趣味でやっていたのだが、庭造りもしてみたくて、英国式庭園を調べたりしていた。
だからあの、お嬢様学校で発見した庭も、チャールズブリッジマンの手法で造られた、ハハーだと直ぐに分かった。
そうこの世界は、元からあった存在を自分が居た世界の存在が、侵食しているのだ。
調べてみると、今から300年程前までは、魔法や亜人の存在が確認され、それを示す文献も数多く存在したのだが、ある時を境に、ぱったりと消えてしまったのだ。
誰かが、魔法や亜人の存在を良しとしなかったのだ。
そして、私が今まで見てきた光景は、つまらなかった歴史の授業で国営放送局が制作した、映像のなんたとか言う、DVDと同じであった。
アンナは、本の内容に集中出来ずにいた。
世界大戦と言う、どんなに歴史に興味がない人間でも知っている、悪夢のような出来事が、侵食して来ているのだから。
だが、どうすれば良いのかが、自分では分からず仕舞いだった。
しかし1人だけ、対処を知ってそうな人物に心当たりがある。
隊長、逸見萩である。
言い出そうにも、中々言い出せないでいた、なんだか自分の素性を知られるのが、怖いのだ。
「いつか隊長に、自分が転移者ですって、明かしてみようかな」
そんな独り言を言っていると、アンネが別の部隊の女性兵士を、ナンパし始めた。
「フフ、お嬢ちゃん綺麗ね、ちょっとよきことしない?」
そう言って、服を脱ぎ始めたので、慌てて止めに入った。
「ちょっとアンネ!駄目でしょ!ほらもう帰るよ」
オイゲンがまとめて、飲み食いした物の代金を、酒保の給仕係の女へ払うと、アンネの肩を2人で支え、出て行く。
「アンネ重いよぉ」
「俺も手伝うぞ」
「みんなまたねー♪」
居酒屋からで出てきたサラリーマンも、びっくりな千鳥足で、3人は進む。
街灯が少なくなり、人気のない場所まで進んだ所で、アンネは吐きそうになった。
「う゛う゛ぎもぢわるいぃ」
「運ぶのは無理そうだ、この時間じゃタクシーもいないだろうし、担架を持ってくる」
「分かりましたオイゲン中尉」
オイゲンが、担架を取りに行って、3分ぐらいたった時だった。
ガタンと、何かが倒れる音がする。
不審に思ったアンネは、音がする方向へ向かうと、バケツが転がっていただけだった。
「風なんか吹いてないのに」
と言ってそこにあった箒を取り、後ろを振り向くと、黒いナイフを持った男が、今正に襲い掛からんと振り上げていた。
箒でナイフを受け流すと、先をへし折り、槍のように使う。
すると、何処に隠れていたのか、フードを被ったもう1人の不審人物が現れて、アンナを挟み撃ちにする。
「やってやる!掛かってこい!」
「そいつは危険だ」
竹を割るような音と共に、ナイフを持った男が、倒れる。
「隊長、お疲れ様です」
そこには、サプレッサー付きの拳銃を持った、逸見がいた。
「私は労ってくれないの?」
背後からもう片方の、首を締め上げ拘束する。
「アンネは、酔ったフリして、女の子をナンパしたでしょ反省して」
「えー」
「隊長が、酔った演技しろって言うから、そうしたのに」
アンネが気絶したもう1人のフードを捲る。
襲撃者の正体は、給仕係の女だった。
「上に言って現地人を、軍の施設で雇わないように、徹底させないとな」
「オイゲン中尉もう良いぞ!」
万が一の時に備え、待機していたオイゲンが、屋根の上から下を覗きこむ。
逸見は、手錠と猿轡を襲撃者にはめて、倉庫の中へ連れて行った。
鷲軍駐屯地内倉庫跡地にて
「ここは古い倉庫跡地でな、でも電源は通ってるんだ」
アンナが鉄の棒に電気を流し、バチバチと威嚇する。
アンネは、タンクに水を入れて、水攻めの準備をしていた。
「なぁ、流血は嫌なんだよいい加減喋ってくれないか?」
「まさか、鷲兵4人も殺害しておいて、タダでは済むと思うまいな」
「………」
沈黙が続くが、何も喋らない。
「止めだ」
手に持っていたハンマーを、投げ捨てると、代わりに無線を取り出した。
「G1からラッヘ1へ攻撃体制に入れ」
「了解、G1」
女を縛り付けられた椅子ごと、窓際へ持っていって、外の景色を見せる。
「いい夜景だな、君の家は彼処かい?」
「ほら、この地図にテロリストの拠点の位置を示せ」
口にペンを咥えさせて、地図を突き出す。
女は、地図の鷲軍の駐屯地がある所に指した。
「我々がテロリストだと?よろしい」
「ラッヘ1やれ」
その合図と共に、一機の急降下爆撃機が空へ入り込むと、爆弾を落とした。
爆炎が上がり、黒い煙が月明かりを隠した。
「あ゛ぁ ぁ ぁ!」
今まで何も喋らなかった女が、悲鳴を上げたのだ。
「次は学校に落とす、お前の仲間は何処だ!」
ペンを、もう一度口に咥えさせ、地図を突き出す。
泣きながら、地図に印を付けた。
「国際医療連盟の施設か、名案だな」
「軍が、国際社会の目を気にして迂闊には、調べられない場所だ」
「だが我々は違う」
「大隊各員へ通達、完全武装の後、全力出撃!」
部屋を後にしようとした逸見が、振り返って女へ言う。
「因みにお前らが、奪おうとした鞄の中身は、空だ」
倉庫の外に出ると、リズがいた。
「どうしたリズ?」
「いえ、そのちょっと酷いなって」
「あぁ、あれか心配するな、あれは全部ミニチュアだ」
「え゛?」
「映画製作所に頼んで、映画撮影用の機材を借りたんだ」
「爆弾とかも、リアルだっただろ、そういうことだ気にするな」
首を傾げながら、襲撃の準備に掛かるリズの後ろ姿を、逸見は何かがおかしいと、疑念の眼差しを向けていた。
教会兼、国際医療連盟人道支援施設にて
「子供達は全員寝かしつけましたか?」
「はい神父様」
「では、休みなさい、もう疲れたでしょう」
シスターが、部屋を出て寝床に向かおうと廊下を歩いている時、10人程の銃を持った男達が、現れた。
「………」
「………」
シスターへ喋らないで、という事を、身振り手振りで伝えると、関係者以外立入禁止と描かれたドアにたどり着く。
ロックピックでドアを開けると、静かに侵入する。
「鉄球をくれ」
「火薬をもっと詰めろ」
地下へ侵入すると、不穏な話し声が、聞こえてくる。
「3,2,1突入」
地下にあるもう1つのドアを蹴破ると、大声で威圧しながら、「地面に伏せろ!」「手を上げろ!」と叫ぶ。
慌てて逃げようとしたり、銃を取った者は、拳銃弾を浴びた。
「警察だ!」
「いや軍だ!」
「どっちでもいい!」
地下は、蜂の巣をつついたように、大騒ぎとなり、抵抗しようとすれば、第2中隊の銃撃を受け、裏口から逃げようとすれば、第3中隊から狙撃される、彼らにとっては、四面楚歌の状態であった。
やがて、騒ぎに気付いた、連盟職員と神父が逸見に詰め寄った。
「これはどういう事なんだ!国際法違反だぞ」
逸見は、軽蔑の目を向けながら、「拘束しろ」といい放つ。
「子供に聴いたら、地下に神父様が出入りしてるって話したぞ」
「知ってて隠してやがったな!国際法違反はどっちだ!この件は正式に抗議させてもらうぞ」
結局地下で見つかったのは、140人のテロリストと120個の手製爆弾、400丁のブリタニカ製単機関銃に、拳銃40丁、ライフル100丁が見つかった。
ここが、反アドラー組織の拠点であり、武器庫だと言うことは、明らかだった。
中立国は、今回の一件を正しく伝えたが、アドラーの仮想敵国やユニコッドは、国際医療連盟の施設に不当な強制捜査したと報じた。
アンナが異世界転移者だということは、勘の良い人なら、物語の第38部分で分かると思います。




