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歴史の分かれ道

萸国首都スロムにて


「畜生め!!!」


ペンを投げ捨て、大声で怒鳴り散らすのは、首都防衛を任されたハワード元帥である。


「貴様らは役立たずだ!王室に媚びを売るだけしか脳がない、薄汚いドブネズミめ!」


3人の将校と1人の広報官が、怒鳴り付けられていた。


貴族出身の高級将校と大将、そしてスコット中将が、怒りの矛先を向けられている。


「死守命令を出した奴は何処に行った!浮気がバレた男みたいに大慌てで逃げ出しやがって!」


「なんだと!王族への侮辱だ撤回しろ!さもなくば、不敬罪で絞首刑にぞ!」


「やってみろこの野郎!この街には誰もお前らの味方は居ないぞ!」


元帥が将校に飛び掛かり、結果地下壕の中で乱闘が起こる。


スコットと広報官は、倒された机の影に隠れ、互いに顔を見合せた。


「毎回こうなのか?」


「いいえ、毎回と言う訳では1カ月に10回程度です」


「呆れるな」




スロムまで10kmにて


「あのマンションを砲撃しろ!」


マンションに砲撃が直撃し、外壁がガラガラと崩れる。


土煙の中へ向かって、機関銃の制圧射撃が加えられ、空から悪魔のサイレンを鳴らしながら、急降下するシュトーカが爆撃する。


衝撃波が、近くにあったぼろテントを吹き飛ばす。


「突撃砲前へ!」


進むに連れ激しくなる敵の抵抗、波のように襲い掛かる鉄猪の群れ、それをせき止める急降下爆撃機と砲兵。


我々は、強襲浸透の名前を有する特殊部隊である。


しかし、今では戦術による優位性を放棄した部隊となっている。


もし、制空権を獲得出来ていたなら、敵の後方へ空挺降下を仕掛けて、戦線へ穴を開けることも出来ただろう。


開いた穴から装甲部隊が流れ込み、スロムを包囲出来ただろう。


考え出せば切りがない。


さっきのシュトーカだって、敵の支配空域の中を危険を省みず来てくれた。


砲兵は、大戦前によくシリア関連のニュースで見た、ヘルキャノンに似た砲まで、自作している。


装甲部隊は、動かなくなった戦車から燃料と部品を抜き、共食い整備をしながら、やりくりしていた。


全ての人間が一丸となって、目的を達成しようと努力している。


だが、いくら頑張ったところで、腹は膨れないし、弾薬も燃料も湧いて来ない。


我々に一番必要なのは、補給なのだ。




萸軍地下壕にて


乱闘が終わった後、スコットはハワードへ反撃をするように要請していた。


「むりだよ、どうせ年功序列で元帥になったような人間だよ、何十か前の戦争だってニック大将が生きてたら、彼が元帥だった筈だし」


「あれほど女遊びはやめとけって言ってたのに、ヤりすぎで死ぬなんて!神の大馬鹿野郎!」


酒と蜂蜜の入った小樽を抱え、涙目になりながら愚痴を溢している元帥を前に、スコットは何でこんなのが元帥やってるんだろうか?と不思議に思った。


「なぁスコット君」


「降伏か抗戦、どちらが歴史に名を残すかな」


「降伏して英断だったとされる例は、少なからずありますが、私個人としては、勝ち戦の方が記憶に残ります」


「そうか…そうなのか……それじゃあ、君の歴史に名を残すとするか」


「地図を持ってきてくれ」


スコットとハワードは、倒れた机を起き上がらせると、地図に無数の線を引いた。


因みに余談だが、この地図は、1984年に40万ドロルで、歴史家のサボット氏に落札され、ボリシェ士官学校に寄贈された。


「現在第1近衛師団が、都市の正面に展開しており、また側面を義勇兵師団が防御しております」


「まずは歩兵部隊が防御し、その際防御に失敗した或いは、突出してきた敵を、戦車師団が攻撃します」


「そして、都市を防衛してる師団とは別の師団に、敵の補給線を分断するよう攻撃します」


「待て、そんな兵力が何処にある?」


「実は、死守命令が出されていた各部隊から、兵を引き抜いたんです」


「あのまま律儀に命令を守っていたら、多くの犠牲が出たでしょうから」


その報告に思わずハワードは、「変な配置転換が多いと思ったら、お前だったのか!」と言った。




スロムまであと5km


「スロムまでもう少しだ!」


前進を続ける鷲軍は、息切れ間近だった。


戦線を食い破る為の戦車は、残されておらず、歩兵による機関銃陣地への突撃が、繰り返された。


森の中に陣を構え、コンクリート製のトーチカに立て籠る敵を、攻撃するのは困難を極めた。


更に敵は、新しい兵器を投入してきた。


「来るぞ!」


4km離れた場所から、火の玉が近付いて来ると、第4師団唯一の戦車が吹き飛んだ。


「クソ!何で連中ミサイルなんか持ってるんだ!シビライなんちゃらのゲームじゃねえんだぞ!」


「また来るぞ!」


シュッバン!今度は野戦砲に直撃する。


すると3号戦車が、突然陣地を飛び出し、突撃を掛ける。


「あれはヴァイアーの戦車だ」


飛んでくる砲弾を、すんでのところで避けると、行進間射撃を実行。


ミサイルが設置されているトーチカへ砲撃を行う。


砲撃は外れ、次にミサイルのお返しが来る。


「誘導砲弾、装填完了!」


「よし撃てーーー!」


ヴァイアーは、砲撃で盛り下がった地面へ入り込み、躱す。


ミサイルは車長用機銃を吹き飛ばし、納屋を貫通して、地面に突き刺さる。


今度は止まって撃ち込む。


しかし、また外れる。


敵は、慌てながらミサイルのカバーを取り外し、レールに載せて、安全ピンを外す。


「「急げ!敵のより早く撃て!」」


それぞれの砲手が、スコープに顔を近づけて、狙いを定める。


先に撃ち込んだのは、戦車だった。


しかしまたしても、コンクリート製のトーチカに阻まれる。


ミサイルが装填する間に、戦車は3発撃てる。


「照準修正、フォイヤー!」


砲身の熱膨張を計算して、射撃する。


砲弾はトーチカへ吸い込まれ、弾薬に直撃。


大爆発を起こす。


「お見事命中!」


ガキン!と嫌な音がした。


別の敵が、対戦車砲で戦車の履帯を切ったのだ。


ハンドルを回して砲を向けると、有らん限りの火力を持って、銃撃する。


砲撃と同軸機銃のコンビで、防盾ごと砲の射手を撃ち抜く。


落ち着く暇もなく今度は、操縦手が「歩兵だ!」

と、叫ぶ。


対戦車擲弾発射器を構えた、歩兵が1人タコツボに隠れていたのだ。


操縦手が機銃で、歩兵を射撃すると、仰け反った敵兵は、その衝撃でランチャーの引き金を引き、空に放たれた砲弾が、山を描きながらエンジンへ直撃。


某ピタゴラスな教育番組もびっくりな形で、ヴァイアーの乗る戦車は、撃破された。


脅威が去った今突撃して、戦線を突破するチャンスだと思ったその時だった。


樹木を薙ぎ倒しながら、50両の戦車が飛び出てきた。


「あぁ!?!?!?」


「逃げろーーー!」


戦う力を失っていた第4師団は、敗北した。


この何処からともなく現れた戦車部隊によって、各戦線で、鷲軍は次々と敗走した。


スコットが用意した予備兵力が、群をなして現れたのだ。


「撤退だと!」


収容陣地まで退却した逸見を待っていたのは、撤退と言う、軍人に取ってもっとも聴きたくない言葉だった。


「もうひと押しなんだぞ!」


「勝機を逃がすつもりなのか?」


アルノルト少将へ詰め掛けるが、答えは変わらなかった。


「逸見中佐、君が一番わかってるんじゃないか」


「蜘蛛の糸のような補給線が、我々の命綱だ」


「とても30万の人員を賄うことは不可能だ」


「このままでは、補給線を分断され、包囲される危険がある」


「この作戦は失敗したんだ」


こうして、6カ月に及ぶ帝国回廊への道作戦は、終わりを告げた。


この作戦によって、鷲軍は8万の犠牲を払い、10万の捕虜を捕らえ、100kmの距離を走破した。


だが、作戦目標であるスロム制圧を達成出来ず、戦略的敗北となった。


一方、萸軍側の損害も凄まじく、初期対応の失敗もあり、捕虜になった数も合わせると、実質的に30万の兵力を喪失した。


鷲国では、戦争に対する不信感が積もり、左翼政党による反戦活動が活発化した。


萸国では、退避していた王族がまた舞い戻り、首都防衛に参加した者へ軍民問わず、勲章を授与すると誓った。


だが萸国民は、国王の言うことを、決して快く思っていなかった。


民を見捨て、スロムから逃げ出した王族の言葉を、誰が信用すると言うのだろうか?


王室の権威は、煮えたぎる国民の感情によって揺らぎつつあり、それに比例して軍の忠誠心も揺らぎつつあった。

どなたか存じませんが、小説を読んでくれてありがとう。

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