足踏み
少し、ほんの少し、冬の匂いを感じた時。
戦争は、不利な方へ舵を切る。
宝石物語大戦争編P1040より抜粋
キキョウ大尉の日誌より
少し肌寒くなったと感じる9月頃、我々ガーベラ大隊は、前進を続けていた。
回り込む攻撃、補給、回り込む、攻撃、補給の繰り返しだ。
装甲師団が、前線と言う腹を食い破らんと、前進を続けていた。
だが、複雑な地形と補給の面で、師団は当初の予定を大きくずらす、こととなった。
逸見中佐は、補給品にワインがある内は、まだ大丈夫だと言っていた。
作戦開始から2ヶ月たった現在、我々は、選択を迫られている。
侵攻ルート上に、人口5万ばかりの町があり、 迂回か制圧かの、どちらかを強いられていた。
短期決戦が目標の鷲軍上層部は、当然これを回避しようとしたが、ここに制圧と言う選択肢が、浮き出るのには、当然訳があった。
それは、鉄道である。
長くそして、細くなった補給線を、強固にするには、この町を制圧する他ない。
スロム(萸国首都)へ農作物を運ぶこの町が、今や我々に勝利を運ぶかもしれないのだ。
そして、その任を授かったのは、軍で最も市街地の経験がある我々になった。
シテイにて
戦争で忙しくなったこの町は、平時とは違う活気に包まれていた。
町からは、出兵する若者が多くなり、軍人相手の商売も盛んに行われ、戦争を一種のお祭りと捉える者も、少なくなかった。
町への砲撃は、住民達に新たな喧騒を与えた。
突然の砲撃に驚き、家財道具を、持ち出し逃げる者や、徹底抗戦の姿勢を、見せる者様々である。
しかし、逃げ出した者は、直ぐ町に引き返した。
何故なら既に町は、包囲されていたからだ。
抗戦を試みる者は、直ぐに絶望を見た。
子供の頃母親から、読み聞かされていた本では、剣や弓を使い、勇敢に戦う話ばかりで、砲弾の破片と、銃弾に怯える話は、聴いていなかったからだ。
皆思い知ったのだ、普段何気無く、目にしていたバスやラジオが、機銃を付け、降伏勧告を垂れ流す、恐ろしい化け物に凶変する事に。
近代兵器の恐ろしさを。
「警察署も消防署も教会も吹き飛ばせ、遠慮はいらん」
榴弾砲が、次々に火を吹き、巨人の足音のように、音が響く。
「ガルマニア製の211mm砲だ、30年前の代物
だが、威力は申し分ない」
「砲撃が済んだら、町へ踏み込むぞ」
「了解しました、大隊長殿」
シテイ町役場にて
「被害報告!町全体で火災発生!各部隊との連絡が取れません!」
「ぶ、分散しろ!砲撃でやられてしまう!」
「それでは、反撃が出来ません!」
「反撃など出来るものか!」
そう言うと、高級将校は、大慌てで逃げてしまった。
「くそぉ、腰抜け共め!」
その後結果的に、特に抵抗も無く、町を制圧したのだが、市街地戦の真の脅威とは、立て籠る敵兵ではなく、軍服を着ない民間人なのだ。
砲撃によって、日常を奪われた住民は、やがて人混みに紛れて、攻撃を仕掛けるゲリラへと、変化する。
だから、その前に手をうっておくのだ。
部隊が町へ進入する際に、抵抗した者を、広場に集めると、一斉に歌を歌い始めた。
「はいそこの坊や!家に戻っていいよ」
住民は、拍子抜けした、広場に集められたかと思えば、歌を歌わされたのだ。
「おじさんそれじゃあ駄目だ下手くそ過ぎるよ」
「罰として腕立て30回ね、そっちの人は、頭にこの被り物してね」
抵抗した者の処罰が、あまりにも軽く、更に
「砲撃に当たった家は修繕する、あと税金は取らない」
と、言ってのけたのだ。
人は奪われれば、それを取り戻そうとするが、逆に与えれば、それを守ろうと行動するのだ。
どうしても反抗がしたいと言う人には、交通事故や心不全に、あって貰う。
この方法が、毎度上手く行くとは限らないが、これによって、ゲリラの出現を最低限に食い止めたのだ。
「アンネ中尉」
「なんですか」
上官に対して、敬意もへったくれもない返事をするアンネに、もしかしたらこの先、デレることも、あるんじゃないだろうか、という想像をすると、アンネへ願い事をしてみた。
「こんな奴好きになる筈ないから!って、言ってみてくれ、出来れば慌てながら」
「はあ?死ねよ」
やっぱりないな。
「冗談はこのくらいにしてだな」
「ここから少し離れた所に、女子限定の学校、いわゆるお嬢様学校が、あるんだが、そこを偵察して貰いたい」
「私達だけですか?」
「そうは言ってない、他の中隊も偵察に行く」
「この町で、補給部隊が来るのを待つ間に、装甲師団の為に、情報を集めておくんだ」
アンネは、地図と毒物のカプセルを持たせられた。
「地図に、見たもの全部を書き込め、兵士の数、武装、陣地に地雷原の位置、全部だ」
「カプセルは、肌身離さず持っておけ、女の捕虜がどうなるかは、想像がつくだろ」
アンネは、しばらく考えた後、自身の豊満な胸へ毒を隠した。
学校にて
鉄の門を前に、第3中隊は、立ち止まっていた。
「錠前が外れない、誰かピッキング出来ない?」
ガタンガタンと、第1中隊のリズの胸ぐらいデカい錠前を、揺らしていると、「ちょっと下がって」と、アンネが言う。
「へ?」
ドシャン!!!
その音と共に錠前は、ねじ切れる。
「ちょっと!いきなり、対戦車ライフル撃ち込まないでよ!びっくりしたんだから! 」
アンナは、ワーワー言いながら、アンネに文句を言う。
それに笑いながら、「ごめんごめん」と、笑った。
学校へ入ると、美しい庭園が広がっていた。
石造りの塔や橋、トピアリーと言った、庭園に詳しくない人でも、知ってるものが、立ち並んでいる。
そして、とても美しい。
だが、悠長に眺めている暇はない。
この見晴らしの良い庭では、敵の良い的になるからだ。
疲れているのか、目がぼんやりしてくる。
そのせいか、花壇に咲くテイカカズラが、何だか妙に弱々しく見えた。
庭を抜け、学校内部へ侵入する為、短機関銃をアンナから、借りようとした。
アンナの方へ目をやると、庭園をぐるぐると見渡し、独り言を言っていた。
「ハハーか、と言うことは、イギリ…」
「アンナ…アンナ」
声に気付いたのか、こちらに向いて、「何?」と答える。
「短機関銃貸して」
「あ、うん」
持っていた、G43ライフルとMP40を交換すると、扉の蝶番へ4,5発撃ち込み、ドアを蹴破った。
乱暴に入ったはいいが、誰1人学校には、居なかった。
「骨折り損だわ」
悪態をつく、アンネの後ろで、アンナが言う。
「中に誰もいませんよってね」
「何それ誰の台詞?」
「さぁ」
アンネは、居合わせた隊員と一緒に、首を傾げた。
「それにしても、誰もいないねぇ」
「いた方が良かった?」
「いやぁ…」
「まぁ、確かにぃ、アンネは女の子が大好きだからぁ、1人2人ぐらい、つまみ食いしそうだけどぉ」
言い聞かせるように、語尾を伸ばすアンナに、アンネが、弁解しようとすると。
「いや、そんなことは」
「うっそだー」
「私と初めて合った時の事、忘れたとは言わせないよ」
すると今度は、別の女性隊員へ、向かって話続ける。
「寝てる時に、ベッドへ入り込んで、子猫を襲う猛獣って知ってる?って、聴いてきて誰のことですかって返事したら」
「私のこと、って言ってきたんだよ」
「えぇーーーーーー」
若干引いてる隊員達の、視線を浴びアンネは、顔から火が出る程、恥ずかしくなった。
「いや、違うから!アンナも結構乗り気だったし!」
「いやーやっぱつくづく思うんだけど、アンネって性欲強いよねー」
「毎晩一人で処理してて辛いよね、今晩二人で久し振りにやる?」
指を二本咥えて、アンネを誘惑するアンナ。
それを、見ていた隊員は、「俺達この百合劇場を、いつまで見させられるんだ?」と嘆いた。
「だから、違うってーーーーー!!!」




