表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
38/59

足踏み

少し、ほんの少し、冬の匂いを感じた時。


戦争は、不利な方へ舵を切る。


宝石物語大戦争編P1040より抜粋





キキョウ大尉の日誌より


少し肌寒くなったと感じる9月頃、我々ガーベラ大隊は、前進を続けていた。


回り込む攻撃、補給、回り込む、攻撃、補給の繰り返しだ。


装甲師団が、前線と言う腹を食い破らんと、前進を続けていた。


だが、複雑な地形と補給の面で、師団は当初の予定を大きくずらす、こととなった。


逸見中佐は、補給品にワインがある内は、まだ大丈夫だと言っていた。


作戦開始から2ヶ月たった現在、我々は、選択を迫られている。


侵攻ルート上に、人口5万ばかりの町があり、 迂回か制圧かの、どちらかを強いられていた。


短期決戦が目標の鷲軍上層部は、当然これを回避しようとしたが、ここに制圧と言う選択肢が、浮き出るのには、当然訳があった。


それは、鉄道である。


長くそして、細くなった補給線を、強固にするには、この町を制圧する他ない。


スロム(萸国首都)へ農作物を運ぶこの町が、今や我々に勝利を運ぶかもしれないのだ。


そして、その任を授かったのは、軍で最も市街地の経験がある我々になった。





シテイにて


戦争で忙しくなったこの町は、平時とは違う活気に包まれていた。


町からは、出兵する若者が多くなり、軍人相手の商売も盛んに行われ、戦争を一種のお祭りと捉える者も、少なくなかった。


町への砲撃は、住民達に新たな喧騒を与えた。


突然の砲撃に驚き、家財道具を、持ち出し逃げる者や、徹底抗戦の姿勢を、見せる者様々である。


しかし、逃げ出した者は、直ぐ町に引き返した。


何故なら既に町は、包囲されていたからだ。


抗戦を試みる者は、直ぐに絶望を見た。


子供の頃母親から、読み聞かされていた本では、剣や弓を使い、勇敢に戦う話ばかりで、砲弾の破片と、銃弾に怯える話は、聴いていなかったからだ。


皆思い知ったのだ、普段何気無く、目にしていたバスやラジオが、機銃を付け、降伏勧告を垂れ流す、恐ろしい化け物に凶変する事に。


近代兵器の恐ろしさを。


「警察署も消防署も教会も吹き飛ばせ、遠慮はいらん」


榴弾砲が、次々に火を吹き、巨人の足音のように、音が響く。


「ガルマニア製の211mm砲だ、30年前の代物

だが、威力は申し分ない」


「砲撃が済んだら、町へ踏み込むぞ」


「了解しました、大隊長殿」




シテイ町役場にて


「被害報告!町全体で火災発生!各部隊との連絡が取れません!」


「ぶ、分散しろ!砲撃でやられてしまう!」


「それでは、反撃が出来ません!」


「反撃など出来るものか!」


そう言うと、高級将校は、大慌てで逃げてしまった。


「くそぉ、腰抜け共め!」


その後結果的に、特に抵抗も無く、町を制圧したのだが、市街地戦の真の脅威とは、立て籠る敵兵ではなく、軍服を着ない民間人なのだ。


砲撃によって、日常を奪われた住民は、やがて人混みに紛れて、攻撃を仕掛けるゲリラへと、変化する。


だから、その前に手をうっておくのだ。


部隊が町へ進入する際に、抵抗した者を、広場に集めると、一斉に歌を歌い始めた。


「はいそこの坊や!家に戻っていいよ」


住民は、拍子抜けした、広場に集められたかと思えば、歌を歌わされたのだ。


「おじさんそれじゃあ駄目だ下手くそ過ぎるよ」


「罰として腕立て30回ね、そっちの人は、頭にこの被り物してね」


抵抗した者の処罰が、あまりにも軽く、更に


「砲撃に当たった家は修繕する、あと税金は取らない」


と、言ってのけたのだ。


人は奪われれば、それを取り戻そうとするが、逆に与えれば、それを守ろうと行動するのだ。


どうしても反抗がしたいと言う人には、交通事故や心不全に、あって貰う。


この方法が、毎度上手く行くとは限らないが、これによって、ゲリラの出現を最低限に食い止めたのだ。





「アンネ中尉」


「なんですか」


上官に対して、敬意もへったくれもない返事をするアンネに、もしかしたらこの先、デレることも、あるんじゃないだろうか、という想像をすると、アンネへ願い事をしてみた。


「こんな奴好きになる筈ないから!って、言ってみてくれ、出来れば慌てながら」


「はあ?死ねよ」


やっぱりないな。


「冗談はこのくらいにしてだな」


「ここから少し離れた所に、女子限定の学校、いわゆるお嬢様学校が、あるんだが、そこを偵察して貰いたい」


「私達だけですか?」


「そうは言ってない、他の中隊も偵察に行く」


「この町で、補給部隊が来るのを待つ間に、装甲師団の為に、情報を集めておくんだ」


アンネは、地図と毒物のカプセルを持たせられた。


「地図に、見たもの全部を書き込め、兵士の数、武装、陣地に地雷原の位置、全部だ」


「カプセルは、肌身離さず持っておけ、女の捕虜がどうなるかは、想像がつくだろ」


アンネは、しばらく考えた後、自身の豊満な胸へ毒を隠した。






学校にて


鉄の門を前に、第3中隊は、立ち止まっていた。


「錠前が外れない、誰かピッキング出来ない?」


ガタンガタンと、第1中隊のリズの胸ぐらいデカい錠前を、揺らしていると、「ちょっと下がって」と、アンネが言う。


「へ?」


ドシャン!!!


その音と共に錠前は、ねじ切れる。


「ちょっと!いきなり、対戦車ライフル撃ち込まないでよ!びっくりしたんだから! 」


アンナは、ワーワー言いながら、アンネに文句を言う。


それに笑いながら、「ごめんごめん」と、笑った。


学校へ入ると、美しい庭園が広がっていた。


石造りの塔や橋、トピアリーと言った、庭園に詳しくない人でも、知ってるものが、立ち並んでいる。


そして、とても美しい。


だが、悠長に眺めている暇はない。


この見晴らしの良い庭では、敵の良い的になるからだ。


疲れているのか、目がぼんやりしてくる。


そのせいか、花壇に咲くテイカカズラが、何だか妙に弱々しく見えた。


庭を抜け、学校内部へ侵入する為、短機関銃をアンナから、借りようとした。


アンナの方へ目をやると、庭園をぐるぐると見渡し、独り言を言っていた。


「ハハーか、と言うことは、イギリ…」


「アンナ…アンナ」


声に気付いたのか、こちらに向いて、「何?」と答える。


「短機関銃貸して」


「あ、うん」


持っていた、G43ライフルとMP40を交換すると、扉の蝶番へ4,5発撃ち込み、ドアを蹴破った。


乱暴に入ったはいいが、誰1人学校には、居なかった。


「骨折り損だわ」


悪態をつく、アンネの後ろで、アンナが言う。


「中に誰もいませんよってね」


「何それ誰の台詞?」


「さぁ」


アンネは、居合わせた隊員と一緒に、首を傾げた。


「それにしても、誰もいないねぇ」


「いた方が良かった?」


「いやぁ…」


「まぁ、確かにぃ、アンネは女の子が大好きだからぁ、1人2人ぐらい、つまみ食いしそうだけどぉ」


言い聞かせるように、語尾を伸ばすアンナに、アンネが、弁解しようとすると。


「いや、そんなことは」


「うっそだー」


「私と初めて合った時の事、忘れたとは言わせないよ」


すると今度は、別の女性隊員へ、向かって話続ける。


「寝てる時に、ベッドへ入り込んで、子猫を襲う猛獣って知ってる?って、聴いてきて誰のことですかって返事したら」


「私のこと、って言ってきたんだよ」


「えぇーーーーーー」


若干引いてる隊員達の、視線を浴びアンネは、顔から火が出る程、恥ずかしくなった。


「いや、違うから!アンナも結構乗り気だったし!」


「いやーやっぱつくづく思うんだけど、アンネって性欲強いよねー」


「毎晩一人で処理してて辛いよね、今晩二人で久し振りにやる?」


指を二本咥えて、アンネを誘惑するアンナ。


それを、見ていた隊員は、「俺達この百合劇場を、いつまで見させられるんだ?」と嘆いた。


「だから、違うってーーーーー!!!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ