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姫よ安らかに

月明かりもない夜闇の中を銃剣を磨き、東の働き者達が作った薬を飲み、静かに待つ兵士達がいた。


煙草・ワイン・ビール・チョコレート・興奮剤が支給され、気の早い者は魅惑の品々に直ぐ手をつけた。


鉄の猛獣は息を潜め、代わりに大鳥達が声を挙げる。


「全機発進せよ!」


百を超える鳥達が一斉に空へ飛ぶ、頭上からの死を届けに。







空中艦艇「タング」にて


先の戦闘で、撃破された駆逐艦ジェンキンスを修理及び改修して、戦車2台トラック4台兵員300名の輸送を可能にした。


「本作戦の目標は敵飛行場、通称「姫」を強襲し、敵の迎撃機を一機でも多く飛び立たせない事である」


「萸軍に偽装し、飛行場へ侵入、戦闘機、滑走路、燃料タンクを攻撃した後、敵支配地域へ浸透せよ」


「特殊監査強襲浸透部隊の名の通り、やっこさんのお姫様を監査してやろうじゃないか」


敵の防空網を迂回する為にアガナ領空を侵犯しながら、ユニコッドへ侵入する。


レーダーを避ける為にかなり低空を飛んだ。


空中艦艇はホバリング能力を備えているので、この時代のレーダーではまず発見困難であった。


陸軍航空基地「姫」から10km地点にて


赤い非常灯を頼りに、車両を固定していた金具を取り外し、タラップから慎重に下ろした。


照明の一つさえつけずに、声を潜めながら作業を進める。


作業は終わったものの、一つ問題があった。


元から、車両の数が不足していて、4台のトラックに300名の人員を乗せることは難しかった。


そこで、我々ガーベラ隊がとった策は


敵兵の首にナイフを突き刺すか、M1911にサプレッサーを装着して、亜音速弾を脳天に叩き込み、補給所に来る車両を奪う事だった。







ユニコッド軍司令部にて


「国王が定めた絶対防衛ラインを死守せよ」


「もし、突破されれば、怠慢罪で処刑か名前からソン(貴族の称号)が消えることになる」


萸軍の上級将校に伝達された内容はそれだけだった。


この脅迫紛いの内容に、多くの将校が震え上がり、撤退命令を出さなかったのは言うまでもなかった。


スコットは、この電報を受けとる前から秘密裏に行動を始めていた。


街の悪所で書類偽装屋に偽の命令書を作らせ、それを末端の部隊へ直接渡し、死地へ赴くはずだった兵士達を連れ戻すことが出来たのだ。


更に、白衛帝国や同盟国から派遣された義勇兵の乗った鉄道や船を、あれこれ理由を付けて、到着を遅らせたりして、なんとか軍団を編成出来るだけの人員が整ったのである。





「今日ここに増援が来るなんて聴いてないぞ」


「いやここに届けろって言われてるんだ」


基地のゲート前で、立ち往生する何台もの車両を尻目に苛つく男とそれに抗議する男が居た。


「だからそんな話は聴いてない!」


「ならもう一度確認してみろ!間抜け!」


「クソ、間抜けはどっちだ」


後ろを振り向き、書類を持って来ようとしたその時。


監視塔の上に、さっきまで居た兵士が居ない事に気付いた。


そのまま首を締め、もがく中年の彼を締め落とした。


「間抜けはどっちだ?」


「リズ1等兵、無線連絡を、怪我のお陰で階級が上がったんだからその分しっかりやれよ」


「了解です大隊長殿」


無線の横に付いたハンドルを回し、第3中隊へ呼び掛ける。


「G1からG3へ陽動を開始せよ、送れ」


「G3了解」


少し経ってから、迫撃砲と狙撃銃の音が散発的に聞こえてくる。


「さあ諸君、戦火を巻き起こすぞ」


肩にライフル、ポーチに手榴弾、首にはドックタグ、完璧だ。


これが兵士の姿だ。


馬鹿デカいコンピューターを身体中に張り付け、ドローンを飛ばしながらミサイルを担ぎ、赤外線を飛ばしてくる戦車や無人機を相手に、戦争をやるのはもう沢山なのだ。


「展開しろ!敵を飛び立たせるな!」


四輪車で滑走路を爆走し、たった今離陸しようとしたカーチスに手榴弾を投げつけて爆破すると、機体は火だるまになりながら、駐留していた飛行機目掛けて突っ込み誘爆する。


誰が持ち込んだかは知らないが、車の荷台から火炎放射器で、綺麗に並んだ戦闘機達へ、日曜日に家で車を洗うみたいに炎のシャワーを浴びせる。


燃料の温度が発火点まで跳ね上がり、ゴオゴオと燃え上がった。


「凄いぞ、何処をみても真っ赤だ!」


キキョウ大尉が声を上げると、パンツァーファウストを、着陸しようとしていた双発機へ発射する。


すると爆発した機体から、黒い塊が出て来て車輪に絡まり、車が動けなくなってしまった。


「降りろ!降りろ!」


車を盾にしながら、格納庫の中に居る3人の敵兵を射殺すると、黄色服を着た集団を見つけた。


「見ろ!敵の消火班だ!」


弾倉を素早く交換、そして射撃。


この一瞬にして消火班は消滅した。


「隊長!装甲車です!」


機関銃弾が頭上をヒュンヒュンと掠める。


直後、砲弾が直撃し、装甲車が炎上する。


弾薬が車内でパチパチと弾け飛ぶ。


「大丈夫か!」


ヴァイアー曹長の乗った戦車が此方へ向かってくる。


逸見は、砲塔の後ろへ乗り、備え付けてあった機関銃で格納庫へ向かって撃ちまくった。


「オイゲン中尉に連絡しろ!トラックを滑走路に置け、爆破しろ!」


「敵の増援がもうすぐやってくる筈だ」


「集合地点まで退避せよ、もうすぐ爆撃が始まる」





アドラー軍航空軍団にて


「読み上げます、本日の天気は曇り後晴れ」


「了解、作戦開始!」


「総員回せ!!!」


アドラー軍全ての航空機が、たった今離陸した。


当然萸軍側も迎撃に向かうが、鷲軍の想定した数より少なかった。


この時、ガーベラ大隊の攻撃で、姫から発進する筈だった航空機およそ200あまりが、地上で足止めを食らっていた。


姫では消火班が全滅した事により、代わりにパイロットや整備士が消火作業に当たっていた。


しかし、漏れだした燃料を泡で消火する筈が、水で消火した為、燃料が更に広がり、被害が更に拡大した。


萸軍の航空機事情は切迫しており、上層部が工業地区と首都防衛に多くの戦闘機を割いていた為、頭数が足りず、厳しい戦いを強いられていた。


萸軍航空部隊は、過密なスケジュールで疲弊していた所に、鷲軍の大規模攻勢が始まってしまった。


結果として、萸軍側は主力航空部隊の喪失と、疲労困憊の状態で戦う事となるのだ。

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