プラン4444
「ねぇハギ、知ってる?」
「昔この世界には、色んな種族が居たんだけど」
「ある時ふと、その種族が住んでいた村を訪ねると、誰も居なかったんだって」
声の主に目をやると、その女は笑っていた。
私は女を押し倒すと拳銃を抜き、柔らかい腹目掛けて撃ち込んだ。
「しつこいぞガーベラ、お前は何時になったら消えてくれるんだ」
これは悪夢だ。
覚めてくれない悪夢だ。
悪夢から逃げろ。
「バグダッド市街へ突入せよ!」
「目標は第二首都、第二首都だ!」
戦え!闘え!最後の一兵になるまで戦うのだ!
両手両足が、失くなろうとも万歳!万歳!
万歳!!!!!!!!!
目を覚ますと、酷い頭痛と倦怠感が私を襲った。
先に起きていたイザベラが、寝床に朽ちた私に水を掛けた。
比喩表現的な意味で。
「おはよう」
「あぁ……おはよう」
徹夜明けのような気分の中、ラジオは喧しく、政府のプロパガンダ放送と戦果報告を流している。
それは、朝食の最中にも聞こえてくるのだ。
「我が方、敵航空機250を撃墜せしめり」
「我が方の損害軽微なり」
「国防省からのお知らせでした」
「戦時内需省からのお知らせです、砂糖・小麦粉・珈琲豆が現在不足しております、各家庭は物資の備蓄を〜」
皿のスープが空になると、台所に居るメイドのテレーシアが、継ぎ足してくれた。
「スープはまだ沢山ありますから、どうぞお申し付け下さい」
にこやかに笑うメイドは、何処か紛い物のような雰囲気を纏っている。
すると固定電話が、ジリジリと音を立て、受話器を取ってくれる相手を探す為の求愛行動をとり始めた。
「私が出る」
受話器を取るなり、告げられた言葉は、最寄りの駐屯地まで出頭せよだった。
荒れ地に設営された大きな飛行場と、木で出来た偽の飛行機。
明らかに訓練施設だった。
そして、鹵獲されたBT戦車と軍服に装備。
何をするかは、容易に想像がついた。
「これは、指揮官の君だけに伝える事だが、君達にやって貰うのは航空基地の破壊だ」
手渡された写真に写っていたのは、アホみたいに巨大な滑走路と、およそ500は存在するであろう飛行機群が、写し出されていた。
戦闘機はI15,I16やハリケーン戦闘機といった、支援国の戦闘機で固められ、il2やランカスター爆撃機が100機以上駐留している。
「凄いな、カーチスにバッファローまで居るぞ」
「かーちす?ばっふぁろー?」
聞き慣れない単語を耳にした、他の士官達が首を傾げた。
「え?こっちじゃそう呼ばないのか?」
「呼ばないも何も、最近新しく出て来てやつだ」
「何処の国が作ったかもわからないし、誰が普及させてるかもわからない」
頭を抱える士官を横目に逸見は考えていた。
誰か、こっちの世界の人間が協力してるかもしれないな。
そう逸見は考えながら、誰も理解出来ないジョークを言った。
「きっと空飛ぶ虎がやったに違いない」
予想通り皆、首を傾げた。
「これより、敵基地攻撃訓練を開始する」
偽装戦車や車両で乗り付け、管制塔、燃料タンク、航空機、滑走路を手際よく破壊する。
訓練用のペイント弾が、鮮やかに建物を彩って行く。
対抗部隊は今回の戦争で、あまり出番が無い海軍の陸戦隊や、第4中隊が担当する。
「駄目だ遅すぎる!警備部隊制圧までに時間が掛かり過ぎだ」
「15分以内だ、制圧出来るようになるまで繰り返しやれ」
訓練は昼夜問わず行われ、検問を突破する為の偽装や、防諜部隊による、欺瞞情報の流布方法の研究が進められていた。
萸軍側は、レーダーと対空警戒要員を無数に配置し、飛行場に近づく攻撃隊を事前に探知し、迎撃機を送り込む戦術を取っていた為、奇襲は困難を極めた。
警戒網の合間を縫って突破する事が困難と考えた上層部は、要は、敵の迎撃さえなければ良いと考え、前線近くに配置された飛行場の中で、最も規模が大きいものを標的にした。
飛行場の運用能力を一時的に奪い、攻撃隊の支援をする事が目標なのだ。
飛行場を破壊し、プラン4444を実行する上での、不安要素を取り除く必要があったのだ。
航空機の数的優勢を保ちながら、機械化部隊による機動戦によって後方連絡線を断ち切り、突破・迂回・包囲を繰り返しながら、敵首都へ到達する。
正しく、電撃戦のようなコンセプトだった。
しかし、無線機や車両の不足等の多くの問題点が存在した。
この、博打のような作戦を、始めようとしていたのである。
「私だ、家を暫くの間空けることになった」
「何かあったら、テレーシアに言うといい」
電話を切るとため息をついた。
折角結婚したってのに離れ離れである。
残念な気持ちでいると、聞き覚えのある声を聞いた。
「お疲れ様です大隊長」
敬礼をしているのは、ついこの間まで入院していた、リズ・ニューサイランである。
「おおリズ1等兵!怪我の具合はどうだ?」
「はい、お陰様ですっかり元気です」
腕をブンブン回しながら答えていたが、腕をつってアイタタタと呻いていた。
「そうだ隊長、ご結婚おめでとうございます」
「式はいつ挙げるんですか?」
「そうだな、この戦争が終わってからにしようと思う」
「その時は招待状を下さい、私高いワインを浴びるように、飲んでみたいんです」
「なんだそりゃ図々しいぞ」
冗談を言いながら、笑いあった。
「それでは大隊長殿、また明日」
寝床へ向かう、リズの背中を見送っている最中、ふと気付いたのである。
あれ、今俺死亡フラグ立ってね?




