大したことない
私の闘争はいつから始まっていたのだろうか?
私の祖国に赤旗が立てられそうになった時だろうか?
一機の爆撃機に載せられた。
小さくて大きな爆弾が落ちた日だろうか?
それとも、大きな怪物が思い人の前に立ち塞がり、私の最後の理性ごと、踏み潰した年だろうか?
時々思う事があるんだ。
故意だろうが、無意識だろうが、他者の権利を侵害してまで、社会で生きようとする奴らを、生かしておく必要があるのかと。
過去にそう考えた連中が居たこともある。
そして連中は、映画や小説で悪役として、引っ張りだことなってる。
連中は失敗した。
しかし、私は違う。
何故なら、私が排除するのは人間では無いからだ。
そうだろ人間達
目を大きく見開き、周囲を見渡した。
私に差す眩い光は、顔にまとわりつくかのごとき鬱陶しさで、思わず目をつむった。
「隊長起きてください、あと30分で戦車隊と合流します」
キキョウが、私を無理にでも起こそうとした。
まだ、春の訪れを感じさせぬ1月頃。
突如国境を越えた萸軍を撃退すべく、休暇返上で戦地へ赴いた。
待って居たのは、大小様々な歓迎弾である。
それを潜り抜けたと思えば、今度はこの地域で一番デカい橋を確保しろと、ダミアン大将から命令されたのである。
補給線を確保することが重要なのはわかっている。
かの有名なバルバロッサ作戦の時も、ドイツ軍はロシアの劣悪なインフラで物資の輸送が滞り、機械化されたドイツ軍団は苦しめたのだから。
しかし、部隊内に蔓延する疲労を感じたのだ。
思えば事前情報も無しに、作戦名も決まっていないプランで、要塞を攻撃したのだ。
負傷者29名を出したものの、戦死者を出さなかったのは幸運だった。
しかし喜ぶのもつかの間、予備戦力の第4中隊から兵員を抽出し、失った兵員を補充して再編成しなければならなかった。
そこで私は上に思い切って要望を出してみた。
「また空を飛んで花弁になれと?ご冗談を、我々は人であって上から落下するだけの、花びらではありません。車をください、なるべく頑丈な奴を」
そして、今に至る訳である。
この世界に飲み込まれて、まだ5年もたっていないという事実は、私に時の流れを感じ起こさせるような、気もするようなしないような……
ふと目にとまった運転手に尋ねてみた。
「君、元々の所属兵科は騎兵かい?」
「はい、そうであります中佐殿、何故分かったんだですか?」
「腰の辺りがどことなく寂しそうだったからだよ。サーベルを取り上げられたからからな」
「そうでありますか?」
「ああ、騎兵も竜騎兵も、皆車や飛行機に乗り替える時は、何か寂しそうなんだ」
その時、頭上を凄まじい勢いで飛んで来た、3機編隊の航空機がいた。
「おお!飛燕をもう実戦投入したのか!」
「ひえん?シュヴァルベじゃなくて?」
「そういやそうだったな」
「しっかりしてください、これから戦車小隊と合流して、橋の攻撃を行うんです」
「ああ、悪かったよ」
「第4装甲師団所属ヴァイアー曹長です」
「ご苦労、私は監査隊の逸見だ」
「それで、戦車が2両しかないがどうしたのだ?」
「1つは敵の攻撃機に、もう1つは機械的なトラブルで離脱しました」
両手を挙げ、お手上げ状態だと、ジェスチャーする。
「戦車は頑丈で脆いからな、仕方ないか」
戦車の正面装甲に地図を広げ、橋に印を付けた。
「橋を爆破される前に確保しなければならない」
「幸いにも、敵軍は残存する全ての部隊を、撤退させるに至っていない」
「これはチャンスだ橋を確保し、敵を分断するのだ」
大きな橋の近くの村にて
村で一冊しかない子供が読む絵本に、走り書きしているのは何故だろう?
最初は些細なことだった。
妻が突然、町で一番高い高級菓子を買ってきたのだ。
妻はこういうのは一度食べておかないと、と言っていた。
だが、それから毎日高級菓子を買って来て、村中に配るようになった。
そして、料理の味も変わった。
シチューに猫の肉が入ってた時は、とても驚いた。
子供を学校に行かせる為に、貯めておいた金まで使った時は、流石におかしいと思い、医者に見せた。
だが、医者は何処にも異常は無いと言い特に何もしなかった。
妻はどんどん変になって行った。
被害妄想を膨らませ、子供を良く殴るようになった。
だが、周りは特段何も言わなかった。
何故なら、周りも同じようになっていたからだ。
おかしくなった人は、特に大きなことは起こさない。
だが確実に他者へ伝染し、精神を蝕んでゆく。
私はもう沢山なのだ。
だけども、症状が軽くて誰も大事には思わない。
だが、私の心は蝕まれている。
この病気の恐ろしいところは、やることが普通ではなく周りに迷惑が掛かるのだが、人を殺したり、物を盗ったりするわけでも無いので、社会がそれほど問題視しないのが、恐ろしいところなのだ。
誰かこの村を消してくれ。
男は、絵本の空白にそう書くと、縄を首に掛け椅子を蹴った。




