砦
「たった300名で、要塞を攻撃するとはな」
輸送機で揺らされること3時間、プルムトリア山上空までやって来た。
「エンジンカット、これより滑空状態に入る」
パイロットがそう言うと、機内に緊張が走った。
「もうすぐですね」
キキョウ大尉が呟いた。
「リズをこの作戦に連れて来られないのが残念です」
「仕方ないだろう、あばら骨が折れてたんだ。全治には1ヶ月掛かる」
ジャンプマスターが、降下用意の合図を出す。
最後の装備点検をして、ワイヤーにフックを掛けた。
「帰ったら、残った分の休暇を取らせてください」
「どうかな、戦傷名誉勲章か階級を二つ繰り上げれば、休めるぞ」
「どっちも御免です」
「降下!降下!降下!」
ジャンプマスターの合図で傘を開き、兵士達は輸送機から、ひらひらと降りてゆく。
「この山、河も敵の陣地てか!」
夜空に舞う落下傘は、空の神兵なり
フォレスタル要塞にて
「スコット中将!敵襲です」
「わかっている、警報が喧しくて敵わん」
寝床から目覚めたスコットは、まず状況の確認をした。
「被害は?」
「不明です!各ブロックで、連絡途絶!500〜1000人が、侵入したと思われます」
「馬鹿者!敵の主力は、4個師団と国境で睨みあってるんだぞ」
「山を補給無しで越えられはしない、ということは、航空機で運ばれて来たんだ」
外の様子を伺いながら、急いで服を着替えて帽子を被った。
「アドラーの保有している輸送機の数から、前線や後方で使う機体の数を差し引けば、敵の数は200〜300ってところだ」
「要塞の通信網を遮断して来ている、我々を分断するつもりだ」
「私の予測が正しければ、敵は要塞の占領では無く、要塞の何らかの機能を破壊するつもりだ」
「そうなんですか!そこまでお分かりになるとは」
「感心してる場合か!!!」
怒鳴られて、びっくりしている兵士を横目に話を続ける。
「守備隊から兵力を抽出しろ、要塞砲と対空砲の2つを重点的に防御せよ」
すると、報告に来た兵の視線に気付いた。
「スコット中将、中年男性の下着は目に良くないです」
下に目をやると、慌てていた為、ズボンのベルトを締め忘れていた。
そして、思わず「馬鹿者!」と叫んだのだ。
「さあ、進め進め!お国の為に死んでやろうじゃないか!」
対空陣地を破壊すべく挺身したガーベラ隊は、守備隊から猛烈なる攻撃を受けていた。
マキシィム機関銃の重厚な発射音が、断続して続いている。
「アンナ!狙撃出来る?」
「神の奇跡があれば」
kar98kに、徹甲弾を一発だけ装填すると、射手を防楯ごと撃ち抜いた。
その隙を突き、ミツマタ率いる第2分隊が塹壕へ突撃、MP40やstg44の連射を生かし、単発銃しか持たない萸兵(ユニコッド兵)を、武器練度において圧倒した。
すると、勝ち目がないと悟ったのか、守備隊が対空要員を置き去りにし、蜘蛛の子を散らす様に逃げたのである。
指揮官クラスの人間が進んで逃げ出すのを見ると、兵の質がそこまで高くないのがわかった。
ライフルを構え、敗走する萸兵の背中に、クルツとモーゼル弾を撃ち込んだ。
すると、突然奇妙な事が起きたのである。
対空陣地で、大きな爆発が起きたのだ。
対空陣地制圧を行っていたミツマタが手を向け、「敵の対空要員は立派ですよ」と言った。
対空砲を鹵獲されまいと、自分諸共、砲と一緒に自爆したのだ。
敵ながら立派である。
爆撃到達まで残り僅かのところ、にて
ブォーンという、昔見た宇宙戦争の映画で、宇宙人のトライポッドが放つ汽笛の様な音を耳にした。
雲の中から、巨大な鯨が出て来たかと思えば、横っ腹の部分から、無数の光が向かって来た。
「砲撃だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
塹壕に滑り込むと同時に、無数の砲弾が地面を抉る。
「修正射が来るぞ、反撃しろ」
「お言葉ですが大隊長、反撃しようにも、あそこまで届く兵器は持ち合わせておりません」
「さっき制圧した対空陣地を探せ!」
「爆破されたが、何門か砲が残ってる筈だ」
逸見の顔を見たキキョウは冗談でしょ、という顔を浮かべながら、砲を探しに向かった。
その間にも、12インチ砲と6インチ砲が、終わらぬ地獄と耳鳴りを引き起こしていた。
「奇妙だ」
「奇妙ですか?」
隣に居るミツマタに、解説するがごとく逸見は話す。
「爆発していない」
ミツマタが砲弾の着弾地点を見ると、確かに砲弾は爆発せず、地面に突き刺さっていた。
「これは訓練用の砲弾だ」
「なんたってそんなものを?」
「さぁ、実弾と間違えたんじゃないのか」
「まぁ、それはそれで好都合だ」
「G2とG3は爆撃の範囲外まで退却しろ」
「大隊長は?」
「私はやることがある」
「ほら早く運べ!もたもたしてると二階級特進コースだ!」
「キキョウ大尉殿、そうは言っても我々は砲兵隊ではありません。いや待てよ?対空砲の場合は、対空部隊の方が合ってるのでは……」
「どうでもいい!!!さっさと弾を込めろ!」
砲口が対空砲を捉え、今にも砲弾が発射されそうな時、空中艦艇に向かって無数の飛翔体が飛来した。
「ペリカン3からal(アンライトン管制)へ目標への着弾を確認、目標から黒煙が出ている」
「alからペリカン3へ了解、速やかに帰投せよ、後はドラゴン隊とウィッチャー隊が引き継ぐ」
「全機突入せよ!」
17機の戦闘機が、重力とエンジンの力を頼りに、急降下し205mm対艦ロケットを放った。




