開戦前日
「アンネ起きてよ」
愛しのアンナに、ベッドで起こされ目が覚めた。
「今日は何もないでしょ」
「違うよ、今日はニュース映画と演劇をみる日だよ」
「私は朝が弱いの」
アンネはそう言うと、シーツを顔まで被った。
「そう言っていっつも時間ギリギリで、会場に着くじゃない」
頬を膨らせ、ぶーぶーと文句を言った。
業を煮やしたアンナはシーツを無理矢理剥がし、無理にでも起こそうとしたが、今度はベッドカバーにくるまった。
「もお〜ほら起きて、起きて」
すると、アンネは突然アンナをベッドに引きずりこみ、朝から胸やけするぐらいの、濃厚な口づけをした。
「うるさいまだ1時間もある」
「昨日あんなにしたのにまだやるの!?」
アンネは魅惑の身体に舌を伸ばし、あらんかぎりの快楽をアンナの体に教えこんだ。
「では、諸君我らが英雄オイゲン・ミツマタに!」
「「「「乾杯」」」」
グラスのウォッカを飲み干した。
「なあ、ミツマタ教えてくれよ」
「どうして刑務所に入ったお前が、今度は国防軍に居るのかを」
「それは……軍規につき詳細は教えられない」
「またそのジョークか」
「まあ、お前が帰って来て良かった」
「あの強盗グループを、皆殺しにしてくれたお陰で、裁判所からは嫌われたが、お隣さんからは移民に対する考え方が変わったと言われた」
「本当に俺達の英雄だよ」
グラスを口に寄せ、もう一度酒を飲み干した。
「当たるの?」
「当てて見せるさ」
ドーンと、大きな音が響き、鳥がバタバタと飛んでゆく。
「外したわね」
「この銃バレル曲がってんじゃね」
そう、逸見は言い訳をした。
アガナでの作戦から1週間がたった。
それぞれが休息を楽しむ中、私はイザベラと狩り、ハンティングに来ていた。
「次外したら貴方の事を教えて」
「なんだ?藪から棒に」
「藪から棒にってどういう意味?」
この世界に来てから自分には、言語の壁が存在しないことに早くから気付いていた。
誰かが、言葉を勝手に翻訳してくれているのだ。
母国語で喋ると、どんな人種、国籍とでも会話が出来た。
基地の近くにある、移民が経営してたレストランに行ったことで、この特性が判明した。
試しに、ロシア語を話してみたら言葉が通じなくなった。
母国語以外なら、彼ら異世界人にとって、理解出来ない言葉になる。
しかし、たまに母国語でも翻訳してくれない言葉がある。
そういう時は、
「友人から金の頼み事って意味」
という風に、別のことわざを使って補足した。
「ペットが居るぞ、でっかい翼竜だ」
「そういう話じゃない」
少し考えていると、黄色い鳥が舞い降りてきた。
「それじゃあ、彼処にいる黄色い鳥がいるだろ」
「あれに当たったら教える。当たらなかったら教えない。どうだ?」
「私が不利な気がするんだけど」
「まあ、そう言うな」
逸見は再びライフルを構えると、一発だけ弾を装填した。
狙いを済まし、引き金を優しく引いた。
弾丸が頭部に命中し、黄色の鳥がバタリと倒れた。
「あぁ……あの鳥頭が一番美味しいのに」
イザベラが残念そうに呟いた。
「賭けは俺の勝ちだな」
イザベラへにんまり笑いかけ、獲物を回収しに行く。
草を掻き分け、黄色い鳥を探しているとガーベラが居た。
ガーベラが居た。
ガーベラが居た。
ガーベラが居た。
ガーベラが居た。
ガーベラが居た。
「馬鹿な」
拳銃を取り出し、ガーベラへ向けて撃ち込んだ。
すると、いつの間にかガーベラが黄色い鳥に変わっていた。
「こんなの映画で観たな」
鳥を回収して、イザベラの所へ戻った。
空中艦艇 リロイ級駆逐艦 ジェンキンスにて
「いいか?今回の目的はあくまでも偵察だ」
「間違ってもアドラー国国境に侵入するんじゃないぞ」
「「「了解艦長」」」
クルーが艦長からの話を聴いていると、ベンが遅れてやって来た。
「遅いぞ!何をやってたんだ?」
「ニワトリの様子を見に行ってたんだ、チキンにするのはまだかなって」
「あーもういい誰かそいつにさっき言った事を教えてやれ」
しかしこの時、誰かがやってくれるだろうと言う集団心理が働き、
「アルマがやってくれるだろな」
「フレディがやってくれるだろな」
「カビランがやってくれるだろな」
という、理由で全員がベンに任務の内容を伝える事をせず、結果として大惨事を招いた。
「よおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉしぃぃぃ!!!」
「行くぞぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」
1人指示を聴いて居なかった操舵手担当のベンが、攻撃の為に行くと勘違いし、アドラー国国境へ舵をきったのである。




