砂漠の屍
私の目に映ったのは、暗闇に落とされるイズだった。
「スナイパー(狙撃兵!)」
「リズが撃たれて下に落ちた!」
「今助けに行く!」
逸見が呼び掛け、イズを助けに下に降りようとした、その時キキョウが手を掴んできた。
「駄目です!中佐が今ここを離れたら、指揮はどうするおつもりですか!」
「リズが無線機を持ってるんだ!」
「この作戦は連携が取れなければ終わりだ!」
「指揮は一時貴官に託す、先に行け」
そう言うと、路地にスモークを焚き、暗闇に向かって発煙筒を投げ入れた。
「7〜8mってとこだな」
逸見は高さを確認し、壁の凹凸を利用して下に降りて行った。
残されたキキョウ達は、逸見が戻って来ることを願い進むしかなかった。
リズは自分の身に、何が起きたかさっぱり分からなかった。
とにかく、何処かに身を隠さなければならないと思った。
ズキズキと痛む右腕を抑えながら、目の前にある倉庫の中へと足を進める。
とても広い倉庫で、500人位は余裕で入れそうなスペースがあり、そこに保管されてる大きな箱に腰掛けた。
訓練で学んだ傷の処置方法をやろうと、医療ポーチへ手を伸ばすのだが、どうにも上手く頭が回らないのだ。
段々意識が薄れて行く中、誰かがやってきた。
「おや、これはこれは、何処ぞの厳つい軍人かと思ったのだが、可愛らしいお嬢さんじゃないか」
腰の拳銃を抜こうと手を伸ばしたのだが、「大人しくしてなさい」と子供をあやすが如く、拳銃を奪われてしまった。
傷の処置を施されて手足を縄で縛られ、連れ去られそうになったその時、一発の銃弾が飛んできた。
「動くな、この変態野郎!」
stgの銃口を向けた逸見の姿があった。
「そいつを降ろせ!」
すると老人はゆっくりとリズを降ろし、こちらを向いた。
逸見が瞬きをした瞬間、一瞬でホルスターから拳銃を抜き、老人は目にも止まらぬ速撃ちを見せた。
銃弾はヘルメットに当たり、弾は逸れたその刹那、逸見は凄まじい勢いでライフルを連射した。
老人は身を翻し、棚の隙間からリボルバーを正確に撃ち込んでくる。
逸見は遮蔽物に身を隠し、弾倉を交換、手榴弾のピンを抜きレバー外した状態で3秒待つと、敵が居ると思われる場所に片っ端から投げ入れた。
ドッカンドッカンと爆発を起こし、棚に並べてある袋から、大量の穀物が滝の様に流れ出してゆく。
遮蔽物から顔を出し、周囲を警戒しながら進んで行く。
物音がした瞬間に、その方向へ向かってフルオートで撃った。
火力の面では此方が優位なので、それを利用しない手はないのだ。
弾倉を交換しようと、マガジンポーチから新しい弾倉を取り出そうとした時、カービンライフルの銃口が、棚に積まれている袋と袋の隙間からから見えた。
まずい!心の中で叫ぶと、ライフルを放棄し狙撃を回避してM1911で反撃する。
すると、今度はリボルバーの6連射が襲いかかった。
顔を掠め、空気を切り裂き、銃弾が私の脳を床にぶちまける為に飛んでくる。
互いに弾切れを起こし、装填に入った。
「爺さん!結構やるじゃないか」
ガバメントに新しい弾倉を、装填しながら逸見は声をかけた。
「若いの、年寄りはもっと敬うべきじゃないのかい?」
リボルバーの薬莢を、ローディングゲートを開け手動で排莢して、高速で弾薬を装填する。
「貴様のような年寄りがいるか!」
装填が終わり、物陰から出ようした直後、後ろから組み付かれた。
「いつの間に!?」
拳銃が手から転げ落ち、ナイフを取り出して組み付きを解こうと、老人の足に刺すが刃が通らない。
服の下に刃を通さない頑丈な何かを着こんでいるのだ。
首を締め付けられ、そのまま意識を刈り取られそうになる直後、自決用に隠し持っていた、レミントン・デリンジャーを老人目掛けて撃ち込んだ。
拘束を解くと、直ぐに老人から離れたデリンジャーの残り一発を、撃ち込まんと構えた。
しかし、老人もリボルバーを構えており、膠着状態に陥ってしまった。
「あんたラプア人じゃないな」
逸見の問い掛けに老人は答えない。
「その動きにその戦い方、独学ではない、何人もの人間が考えに考えて編み出したやり方だ」
「何処の人間だ?白衛帝国?いや違う、そもそもあそこはラプアを滅ぼしたがってる」
「私は知ってるぞ、民族同士の争いに介入して、仮想敵国を疲弊させるやり方はブリタニカ王国の常套句だ」
「人様の争いに首を突っ込まないで貰いたい、どうせ平和の為だの、世界の為だの大義名分で行動してるんだろ」
逸見が罵倒すると、不意に老人は口を開いた。
「大きな国は二つも要らない、ましてやそれが大陸を支配する超大国なら尚更」
「今から百も満たない時代に、自らの神の為に泥沼の戦いが起きた」
「どちらも譲らない、どちらも引けない、どちらかが倒れるまで止まることのない戦いだ」
「この争いは止まれない」
「ならば、片方の崩壊を早め、戦争の即時終結を図る」
「分かるか若者よ」
逸見は暫くの沈黙の後、銃を降ろした。
「確かにそうだ、間違っちゃいない」
「だから私も崩壊を早める」
焼夷爆弾が、町を半包囲する形で爆発した。
家屋に飛び火し、北から吹き付ける風が炎を広げ、炎の嵐を造り出した。
火だるまになり、ねずみ火花のように逃げ回る子供や、そのまま炭に成り果てた一家、酸欠で窒息死した民兵、彼らがいくら苦しみ、焼けた喉で叫ぼうとも、その絶叫は誰の耳にも届かない。
地獄の釜を今開けたのだ。
「こちらG3攻撃の評価を確認せよ、送れ」
「こちらG2、オーブンで焼かれてる魚の気分だ、どうぞ」
第2中隊の隊長であるオイゲン・ミツマタは、自らの手でこの惨状を作った事を深く後悔した。
神よこれは、私に与えた罰なのかと
考えるのを止め、深くため息をつくと、隊員達へ
「よし、お前達行くぞ、付いていけない奴は居ねえな!」
と、声を掛け再び歩き出した。
「貴様、いったい何をした!!!!!」
腹の底からこみ上げる怒りを抑えてなお、これだけの声が出ていた。
「まぁ、落ち着けよ」
逸見はわざとらしく、笑いながら話す。
「あんたが言ったじゃないか」
「犠牲を少なくするには、一方を殺すしかないって、ここの民族はうちの領土に侵略しようとしてたんだろ」
「それを阻止して何が悪い?」
「貴様ら大国の都合に、何故我々が付き合わされなければならない?」
「そりゃあ、可能な限りは人道に乗っ取って支援してやるさ」
「だが、1人部屋に5人押し込めば必ず争いは起きる」
「これは、必然だよ」
老人はそれに反論した。
「だから、罪もない人々を殺そうと言うのか!」
「狂ってるぞ!」
その言葉を聴いて、思わず吹き出した。
「ここの人間に武器を持たせて、我々を攻撃しようとしたのは誰だ?」
「罪もない人間に、武器も持たせて突っ込ませるのと、何の違いがある?」
「戦争になれば数万人が死ぬが、ここで指導者ごと焼き払えば、千人程度で済む」
「送り込んだ暗殺者全員を返り討ちにしたもんだから、町ごと焼き払うしかなかった」
「それよりも、あんたの任務は終わった」
「ブリタニカの関与を知られたくないんだろ」
「見逃してやるって言うか、見なかったことにするから、立ち去ってくれないかな」
内心この老人に恐れを抱いていたので、早いとこ帰って貰いたかったのだ。
老人は、銃を向けながら、下がり
「次は必ず仕留める」と言い残し、倉庫から姿を消した。
一息つく暇もなく、放棄した装備とリズを担ぐと、安全地帯まで離脱した。
気づけばもう朝になっており、火災もその勢いを失くしつつあった。
「隊長!よくぞご無事で」
キキョウが駆け寄り、私を心配してくれた。
「待ったか?」
「いえ、それほど」
「そうか……指導者はどうなった?」
思い出したように本来の目的を確認した。
「第3中隊が、対戦車ライフルで狙撃」
「指導者の死亡を確認しました」
「……撤収準備を」
「了解」
町を捨て、1人の兵隊も使用人も側に付けずに、ここまで逃げてきた。
火災で皮膚はただれ、剥がれ落ちた。
だが、足は残っている。
ラプア民族解放の指導者として、私は立ち上がらなければならない。
グシャと、音が聞こえた。
脚をもがれたのだ。
全ての力を振り絞り、私の命を奪う敵に向かって叫んだ。
体が真っ二つに、千切れ砂の大地に散乱した。
「あの男何か言ってた?」
「ううん、聞こえなかった」
「こちらアンナ、目標の排除を確認」




