戦争の準備
バチルタ党が勝ったみたいだな」
新聞を読みながら逸見は、彼女に話かけた。
「そう」
彼女はそう口にすると、珈琲を一口飲んだ。
あの図書館の一件以来、こうして週に1回2人で会うようになっていた。
私が一人で喋り、それに頷くだけの関係である。
「サンレフトも、タントライトも、大馬鹿だ」
「外国人差別だと?違うね、一ヵ所に宗派や価値観の違う民族同士をくっ付けたら、否が応でも問題は起きる」
「正規に審査を受けて通ったならまだしも、国外からの圧力に負けて、審査無しで国境を通らせたのが事の始まりだ」
そう言いながら、左にあった茶菓子に手を伸ばし、こんどはタントライトの記事を読んだ。
「我が国は直ちに敵国ユニコッドを攻撃し、難民問題を解決すべきである!だってよ」
「国力は向こうの方が上なのに、こっちから攻撃できるはず無いだろ、馬鹿なのかコイツら」
「自国の力を過信し過ぎだ、もしかしたら行けるかもで、戦争を始めようとするな!」
「太平洋戦争もこんなノリで始めたのか」
喋り過ぎたせいか、喉が渇いた。
今度は右に、あったお茶を飲んだ。
すると、彼女イザベラ・シラーは珍しく、「そう」以外の言葉を返した。
「それで結局、何が言いたいの?」
お茶を飲み干した逸見は、一呼吸置いて言い放つ。
「戦争に負けたのが悪い」
ドヤ顔でそう言った逸見を見つめながら、イザベラは貴方説明するの下手って言われないと、静かに囁かれた。
某所陸軍航空基地
改良型飛燕実験場にて
「凄いですよ!うちの白衛帝国から買った主力戦闘機を圧倒しています!」
「キルレシオは49:0です!」
研究員の言葉に、エルマー国防大臣はニヤリと笑った。
「今に50:0になるさ」
そしてその言葉通りに、撃墜判定が出た。
飛燕の圧勝である。
着陸する戦闘機を眺めながら、エルマーは、傍らに居たダミアン大将に話掛けた。
「これでうちの国の空は安泰だな」
「いえ、そういう訳には行きません」
「パイロットを機体に慣れさせる為に訓練をしないと、それに機体の生産がまだです」
「いや、その心配は無い、機体の生産は既に開始されている」
「この機体を一目見た時から、この機体が次世代の戦闘機であることを理解した」
「だから早めに生産させた。もう100機は出来てるんじゃないかな」
その言葉にダミアンは目を大きく開き、思わず感激した。
やはり、この大臣には先見性があると。
そう思っていると、エルマーが愚痴を溢した。
「しかし国防費がかさんでいるな」
「国費の2.5割を使って、軍拡に勤しんでおりますからね」
「工場も軍需に生産ラインが切り替わって、民需が圧迫されています」
この時周辺国は、アドラーへの圧力を強めていて緊張が高まっていた。
その結果各国は国境の兵士を増員し、徴兵の強化、装備の更新etc.を進めていた。
その様は冷戦の様相を呈しており、各国が凌ぎを削りながら、軍事力の強化を行っているのである。
しかし、戦争は儲かるが民間の産業に比べれば、利益は低かった。
極端な話、世界は軍人よりも民間人の方が多く、沢山いる民間人相手に商売した方が儲かる。
戦争に賭ける金があるなら、需要が高い民需産業に力を入れた方が良い、世界はライフルよりマイカーを求めているのだ。
そして、その後主力が軍事産業に集中した企業は、100年後に相次いで経営難に陥り、倒産することになるとはまだ誰も知らない。
「気を付けろ、周辺国との軍事バランスが上手く保てなければ、我が国の領土に地雷をばら蒔く事になる」
「それに敵はユニコッドだけではない」
「白衛帝国の大陸制圧を妨害する為に、ブリタニカ王国が、ユニコッドに武器の提供をしているようだ」
「情報部の話によれば、銃火器・戦車・輸送車両・戦闘機・爆撃機・空中艦艇等の型落ち兵器が、ユニコッドに送られている」
そう、断言したエルマーの言葉に、ダミアンは浮かない表情を浮かべた。
「もう、時間がありませんな」
「そうだ、もう時間がない」
「機甲師団と新型戦闘機の件はよろしく頼むぞ」
「はい、お任せください」
そう言い残し、エルマーが迎えの車に向かおうとした時、不意に立ち止まり、こちらを向くと、予想だにもしない事を口にした。
「それと、例の独立大隊を連れてこい、やって貰いたいことがある」




