白衛帝国
月明かりのない暗闇を1人の女が歩いている。
その女の目はインク壺の中のようにどす黒く。
髪は獣の血を浴びたが如く、染め上げられている。
女が手に持った照明弾を上空に打ち上げると、ひゅるひゅると遠くから、空気を切り裂く音が聞こえてくる。
そして、次に聞こえてくるのは爆発音、120mm迫撃砲弾が着弾したのだ。
それを、合図に軽戦車4台に支援された、短機関銃で武装した職員が、隊列を組み、古ぼけた建物へ向かって突撃していく。
建物から、反撃が行われるが、戦車砲によって建物ごと吹き飛ばされた。
こうして、白衛帝国内の反統一派は全て消え去った。
「アデリーナ報告終わります」
内務省の一角、国内安全保障課に設けられたオフィスに、その女はいた。
「ご苦労、我々が15年掛けても、発見出来なかった反統一派の本拠地を、たった半年で見つけ出してくれてとても感謝している」
「個人的に何か、昇進祝いでもしたいところだが、何か希望はあるかね」
そう言うと、上司は腰に手を回してくる。
「いえ、結構です」
そう言うと上司の手を払いのけ、部屋を出た。
そして、静かにため息をついた。
こういうことはよくあるが、最近は頻度が多い。
確かに、ハニートラップを仕掛けたことはあったが、仕掛けた相手が、動物に興奮するマニアックな性癖の持ち主だったのだ。
仕方なく別の方法で懐柔したのだが、何処から漏れたのかハニートラップを仕掛けたと噂がたった。
そのせいで、付いた渾名が、売女のアデリーナだった。
廊下を歩けば、10人に声を掛けられ、その内の1人が、アデリーナを部屋に連れ込もうとしてくる。
そして、その度に内務省では指に包帯を巻き、1週間ペンを握れなくなる者が出てくる。
アデリーナは、同僚の女性職員からも白い目でみられ、職場での居場所を失いつつあった。
そうした状況を悲観し、机に突っ伏して考え事をしていると、「おいアデリーナ!早く私のオフィスに来い!」と上司から声を掛けられた。
嫌な予感しかしないが、仕方なく行くしかなかった。
「アデリーナお前、ちょっとアドラー国に行ってきて」
「アドラーですか?」
「そうだ、少し前に、特別医療研究所の協力者が殺害された」
「別の協力者の話では、今まで見たこともない装備を着けた連中が来て、患者も研究員も皆殺しにして行ったとか」
「もしかしたらアドラー国に、機密部隊が出来たのでは無いかと上が騒ぎ立てている」
「今から、行って何か情報持って帰ってくれ」
アデリーナは、驚き今からですか!?と、若干の怒りを混ぜて、抗議にならない抗議をした。
すると、突然胸を鷲掴みにされ、耳元で今すぐ行かないと、うちの家畜と一夜を共に過ごすことになるぞと脅された。
仕方なく、準備を進める為に自分の机に向かったところ、避妊具が机に置いてあった。
周りの人間全員がクスクスと笑っていた。
内務省の中には、出世欲の塊のような連中しかいない。
そのため、こういった非常に下らなくも陰湿なやり方で、競争相手を蹴落とそうとしている。
だが、アデリーナは自暴自棄になりかけていた。
頭の中で何かが切れ、次の瞬間には部屋の中にいる人間全員男女問わず、近くにあったタイプライターで血祭りにあげた。
二つの国が存在した。
一つは、世界でも最先端の科学技術を有したガルマニア帝国
もう一つは、世界で最も広い国土と、豊富な資源を有したブルシーロフ国である。
この二つの国は、流行り病によって皇帝女帝を亡くし、王の座に君臨する者が居なくなってしまった。
両国は、一族滅亡の危機を脱するべく、血の繋がった後継者を探しだした。
そして、やっと見つけ出した人物は、なんと敵国に嫁いでいたのだ。
皇帝・女帝候補も、それぞれ一人しか存命しておらず、両国の睨み合いが続いた。
そんな時である、二重帝国の案が提案されたのも。
両国の皇帝・女帝が、一つの国に集い、新たな秩序と時代を築くのである。
そして、今現在両国が掲げている国家大陸思想の実現も、可能である。
「国家大陸思想」
(大陸を1つの国が支配し、全てを管理する構想)
融合すれば、後継者問題を一興に解決することも出来る。
勿論二重帝国思想に反対する者も居たが、彼らの多くは交通事故を起こすか反乱分子として粛正され、亡き者となった。
こうして、白衛帝国、正式名称
「白銀大地及び黒土大地防衛帝国」が誕生した。
新たな覇権国家の誕生である。




