独立処刑大隊
「3時間前に、特別医療研究所に収容されていた患者が一斉に暴動を起こした」
そう説明すると、状況を分かりやすくする為に、黒板に文字を書き込んだ。
「まあ、お察しの通り我々に出動命令が出た」
「速やかに、該当施設の制圧を行えとの事だ」
すると、ブリーフィングを聴いていた者の1人
リズ・ニューサイランが手を挙げた。
「質問をよろしいですか?」
「構わないよ」
「上は何故、3時間もの間事態を放置したのですか?」
「いい質問だな、簡単に言えば、この脱走した連中の中には疫病持ちが居る、それもエスパニア風邪だ」
その事実に隊員の多くが、どよめきの声を上げた。
「大丈夫なのか?」「そんなの聴いてないぞ」
「落ち着けお前達、毒ガスに対する訓練はやっただろ」
「それと同じだ、対BC装備を持って行け」
BCとは生物兵器(biological)
科学兵器 (chemical )の頭文字から取った略称である。
この世界でも、白衛帝国とブリタニカ王国の国境紛争で、唐辛子と有毒植物を混ぜたガスを、王国側が使用し、多数の被害を出した為禁止条約締結を、議論してる最中なのだ。
こうした対BC装備を配備しているのは、世界広しといえどもここだけだろう。
「訓練兵扱いはここまでだ」
「今から諸君らは兵士として実戦の舞台に立って貰う」
「10.00までに装備を揃え、第3校舎前で集結セヨ!」
「了解!」
かくして、彼ら訓練大隊に初めての実戦が訪れた。
ある者はこれから起きる事に絶望し、またある者大いにその絶望を楽しんだ。
「所長様、軍が施設の状況を聴きたいと言っています」
警官が頭をツルピカにした50代ぐらいの男に向かって、話しかけた。
「分かった、直ぐに行く」
面倒な事になったと思いながら、テントの外に出ると、辺り一面得体の知れないガスマスクを被った人間が隊列を組んで、待っていたのだ。
彼は驚き、尻餅を付いた。
「な、な、なんなんだね君たちは!?!?!?」
「南方軍から派遣されました基地警備大隊です」
そう話すと、ツルピカ男は見下した態度で話始めた。
「南方軍?なんだ、地方の田舎者の集まりじゃないか」
「何が精鋭を派遣するだ、こんな連中に何が出来る」
逸見はこのツルピカをぶん殴りたい衝動に駆られたが、ぐっと堪えて皮肉で返した。
「申し訳ございません、誰も貴方の後始末はしたくないと言って、田舎軍に仕事を押し付けてきたので」
すると、それに気を悪くしたのか、顔を真っ赤にしながら、大声で怒鳴った。
「なんだその態度は!私は軍の上層部に顔が効くんだぞ!言葉に気を付けろ!!!!!」
と、列車のブレーキの如く声をあらげた。
このままやってたら、埒が明かないと、思い別の人間を掴まえて、話を聴いた。
施設の中には400人の患者が居て、内20人が警備だと言う。
明らかに人員が足りないのをみると、あの所長のせいだなと、逸見は悟った。
部下を集合させると作戦を建てた。
「まず施設の周りを第2,3中隊が包囲する」
「第1中隊は内部を制圧する、第4中隊は予備戦力として待機せよ」
命令を受け、各員が動こうとしたその時、隊員は意味ありげな言葉を耳にした。
「それと、研究員と患者を見分ける事は難しいんだ」
「うっかり誤射してしまっても、それは単なる事故で済まされる」
「私は事故が起きる事を大いに期待する」
この瞬間全員が悟った。
隊長は中にいる人間皆殺しにする気だと
正面門に向かって前進して行くのは、訓練成績がずば抜けて良かった、第1中隊である。
90名の完全武装した歩兵が警戒しながら前進して行く。
正面玄関にたどり着いた中隊は、ドアに爆弾を仕掛ける。
「3,2,1点火」
ドアが粉砕され、施設の中に次々と隊員突入して行く。
味方の射線を遮らないようにしながら、分隊ごとに、一部屋づつ制圧する。
死体を見付けると、「確認射撃」と言って死体に銃撃した。
「1階を制圧」
「了解、2階の制圧に掛かる」
各員で呼び掛けやハンドサインで合図を出しながら、慎重に前進する。
すると、突然部屋のドアが開き、1人の女が出てきた。
「助けて!」
「撃て!」
部屋一杯にドン、ガシャドンドンと銃声が響き渡る。
たんぱく質の塊に成り果てた女がそこに居た。
「今助けてって言いませんでした?」
リズがそう呟くと、逸見はそうか?聞こえなかったぞと、とぼけた。
その後も生存者に容赦なく鉛弾を浴びせ、命乞いをして来ても、一切の躊躇いなく撃った。
逃げ出す患者を、まるで射撃訓練の的ように次々と撃ち殺す。
隅に追いやられた10人ほどの患者が、必死に命乞いをしている。
「お願い!まだ家に帰らせて、まだ5歳の子供がいるの!」
「私はどこもおかしく無いのにここに連れてこられたんだ!頼む見逃してくれ」
「殺さないでくれ!家のローンがまだ払い終わって無いんだ」
「お前ら組織の人間だな!わかってるぞ俺の脳を取りに来たんだろ!」
「撃つなら頭を撃ってくれ痛い思いはしたくない」
「我が名は、ソミィオ・アディクール我を救った暁には、必ず恩に報いおうぞ!」
「神よ!あの悪魔を討ち滅ぼしたまえ!」
「ビョウキダカラココニイレラレタノニ!クスリモロクニアタエズニミゴロシニシヨウトシタノハオマエタチジャナイカ!」
「××××××、××××!×××××?××××」
「ケケケケケケケケケケケケケケケケケwww」
「忌々しい連中だ、また人のフリをしてるのか」
短機関銃が叫び、壁を赤く染めた。
そんな出来事に軍人ら勿論の事、罪人でも嫌悪感を抱いた。
兵士達は暗い顔を浮かべながら、命令を遂行する。
「こんなの鎮圧なんかじゃない虐殺だ」
キキョウ大尉の放った言葉に、殆どの人が同意だと、思っていた。
「違う処分してるんだ」
「処分!?ただ病気に冒された罪もない人達を殺しといて!?」
「その病気が問題なんだ!」
突然の怒りに、キキョウ含め全員が驚いた表情を見せる。
「ここの研究所が、エスパニア風邪だけを扱ってると思っているのか!」
「なんですって?」
逸見はそこら辺に転がっていた椅子を引き寄せ座ると、静かに語り始めた。
「発祥は何処かわからない、だがファゲッセンハント島で同じ症状の人間を見た」
「信じられないかもしれないが、気色悪い怪物が、そうさせたんだ」
「突然意味不明な言葉を喋ったり、普通ではあり得ない思考をする」
「個体差はあるが、大体は被害妄想を始める」
「この病気で1番辛いのは、顔見知りの人間だ段々おかしくなって家族、知り合いを何も出来ずにただ見つめる事しか出来ない」
「時折元の人格を見せる時があるが、その人格とおかしくなった人格のギャップの差で、精神を消耗してしまう」
「そして、この病気は周りに伝染して行く」
「どうやって伝染して行くのかはさっぱりわからない」
「そして問題は、その患者を量産しようとしてる連中が居るって事だ」
「あの怪物は、人の目がくっついていた」
「誰かが、あれを造った誰かが………」
何処か遠くを見つめながら、水筒の水を一口飲んだ。
「少し話過ぎた」
そう言うと、再び銃を手に取り、歩き始めた。
「これは、私がやらなければならない」
「私は既にこの手で、患者を葬っている」
「君の手も汚れているだろうキキョウ」
キキョウは、自分の手を見た。
そこには、上官殺しの罪と、逃亡助長と言う罪で汚れた手があった。
虐待好きの上官から新兵を守る為に、やむなく汚した手だ。
「我々の手は純白を保つ事が出来なかった」
「ならば、純白を忘れたその手でしか、出来ない事をやろう」
「まともな状態じゃない我々ならきっと出来る」
「楽しんで殺せ、憎んで殺せ、機械のように殺せ」
二度と我々を作り出さないように




