独立
軍の飛行場格納庫の一角に設けられたスペースに、所狭しと武器が並んでいる。
「どうです?凄いでしょう!」
逸見が興奮しながら、一丁一丁丁寧に説明している。
「ワルサーp38これは引き金が重いですが、その分暴発の危険性が低くなっています」
「命中精度が良く、生産しやすい、将来これを持つ事が一種のステータスになるでしょう!」
意気揚々と銃を語る、その様子はまるで何処かの商人の様だった。
その様子に全員が若干引き気味ながらも、銃に対する感心が強かったのか、1人の陸軍将校が、その銃を見せてくれと指さした。
「お客さんお目が高い!」
何でお客さん?という全員の疑問を無視して、喋り始める。
「kar98うちの故郷ではとある作品で話題になったせいで、別の銃と混合させられたりして、少し困った事になりましたけど」
「まぁそんな事はどうでもいいんです。見てくださいこの直線的なフォルム!」
「木製の温かみのある銃底に、無骨な鉄の銃身が程よいアクセントを産み出しています!」
「更に更に、光学照準を取り付ければ、狙撃銃に早変わり!侵略者共の頭をぶち抜いてやりましょう!」
「設計ミスで6発入る筈だったbarライフルなんか捨てて、こっちを持ちましょう!」
突然国産ライフルをディスり始めたので、企業関係者は顔を真っ赤にし、軍人は苦笑いを浮かべた。
「さて、皆さんお気付きだと思いますが、私の後ろにある戦闘機が気になりますか?」
「ええ、そうでしょう!そうでしょう!本日の目玉商品!三式戦闘機飛燕です!」
「こいつのエンジンは馬力が低く高高度性能に難がありますが、現在国内と海外メーカーに依頼して改良を進めています」
「現在我が国は非常に厳しい状況下に置かれております」
「特務隊を排除した事によって、周辺国は再び戦争を起こすのではないかと警戒しており、ユニコッド国とアガナ国が、連携して軍事同盟を締結するという情報さえあります」
「我が国の外交力を、駆使して引き延ばし工作を行っても、5年後には必ず侵攻してくるでしょう」
「最早一刻の猶予もない状況です」
「我々の大地が!我々の空が!我々の海が!」
「そして国民が!敵の手に落ちることになれば、今までの苦しみを、超える苦しみが待ち受けています!」
ここにいる全員が彼の言葉を、痛い程理解していた。
「どうか軍備拡張の許可を各部署並びに、各省庁にお願い致します」
私は土下座をした。
この国にはないモノだが、地面に頭を擦り付けることが、どれだけ屈辱的なことなのかは、わかっている。
そこまでして、切実に頼まれては、彼らも断ろうにも断れず、結果軍備拡張を承諾した。
「よくやってくれた!」
ダミアンが嬉しそうに話掛けてくる。
「いえいえ、展示会開催に協力してくれたダミアン大将のお力添えのお陰です」
謙遜しながらも、何処か嬉しそうである。
「そんな事はない。君があの日和見主義者に現実を突き付けてやったお陰で、軍拡が猛スピードで進むのだからね」
ダミアンが、ワインをグラスに注ぐと、それを一気に飲み干した。
いつもは味わって飲むが酔いたい気分なので、浴びる様に飲もうと思っている。
サラミに手を伸ばし、ムシャムシャと食べた。
「このサラミ美味しいですね」
「ユニコッド国産だよ」
「宜しいんですか?仮想敵国の物資を上の人間が使って」
「後々、文句言われたりしません?」
するとダミアンは、ワインを注ぎながらこう言った。
「出来るだけ敵国の資源を消費してやってるんだよ」
と冗談を飛ばした。
「はは、それはいい、とても良いことですね」
二人は部屋の外まで聞こえるぐらい大笑いした。
「そういえば、部隊を追い出されたんだろ」
と唐突に、話を切り出してきた。
「おや、耳が早いですね」
「私を誰だと思って居るんだい?中央軍司令だよ」
「あぁ、そうでしたね」
「そうでしたねってまさか私が、偉い人ってことを忘れてないかい?」
「いえ、とんでもない忘れてなんかいませんよ」
「そう?ならいいんだがね」
「それでどうなんだい?」
「私のやり方は師団長はあまり、良く思っていないみたいです」
「まぁ仕方のないことさ、戦闘に犠牲は付き物、過ぎた事悔やんでも仕方ない」
「あら?てっきり道徳心について、説くのかと思ってましたよ」
「私みたいな人間が、まともな感覚など備えてるとでも?」
「あぁ、そうでしたね」
「まぁ、今日の功績もあることだし、希望を言ってみたまえ、人事には口が出せる立場なんだ」
そう言って、転属願いの用紙を差し出してきた。
「そうですか、なら希望を一つ」
文字を書き込むと、それを大将へ渡した。
ダミアンが見たものは、転属希望先の欄に「独立大隊」と書き込まれた用紙があった。




