回収
最近入ってきたあの男、逸見萩とか名乗ってたが何か変だ。
士官学校からきたとか言ってるが、にしては他の連中のように威張り散らしたりしないし、新米士官特有の自信のなさ、迷いを感じない。
そして中央軍司令であるダミアン大将が言ったあの言葉「よろしく頼むよ」何故?たかだか尉官クラスの人間を、上層部が気にかける?
違和感を拭えない気持ちが強く、考えにふけっていると、「アルノルト少将時間です」そう呼ぶ声が聞こえる。
「分かった直ぐに行く」
服装の乱れを正し、帽子を被り、部屋を出て、広場で待機している部隊を前に訓示を述べる。
「諸君、上層部は我々に実戦の機会を与えた」
「諸君の言いたいことは分かる」
「何故あんなちっぽけな島を占領する為に、一個師団を投入する必要があるのかと、そう思ってる者が居るのは、私も知っている」
「だが覚えていて欲しい!その疑問は時として自らの命を奪う事になる!」
「この事を肝に銘じておくように」
訓示が終わると、靴底を鳴らしながら駅まで歩き、列車の中に乗り込むと装備の最終確認を行った。
「bar13」これは、この国で正式採用されたボルトアクション方式の国産ライフルで、射程300m装弾数4発と、まずまずの性能で、山岳地帯での戦闘を想定し、銃身が長くなった。
その結果取り回しが悪くなり、東系の体格が小さい人種からは、評判が悪い。(私もその1人である)
本当は、私物のライフルを持ち込みたかったのだが、支給される弾薬が合わずこのライフルを使う羽目になった。
列車が軍港に着くと、今度は輸送艦に乗り換え島に向けて出港し、20分足らずで島に到着した。
しかしこうした上陸作戦を想定して居なかったのか、上陸用舟艇の一隻も備えておらず、哨戒艇や救命ボートを使って揚陸作業を行った。
結果第一陣が上陸するまでに3時間掛かってしまう事になり、本作戦のずさんさが伺える。
もし、敵の目の前でこれをすることになるとしたら……考えるだけでぞっとする。
上陸地点は人で埋め尽くされ、何処かのイベント会場の様だった。
「小隊集合!」
その掛け声で、私の部下達が一斉に集まってくる。
「これより作戦目標である『遺物』の回収に向かう」
「足元、木の上にも気を配れ」
「ここの連中は木登りが大好きだからな」
「まずは島内の村を制圧する」
「了解!」
島民達の生活はこの日を境に急変した。
突如として現れた武装集団が瞬く間に、島を占拠してしまったからである。
そしてその中にかつて、村八分の対象にした男が居るのだから島民達は復讐を恐れていた。
島民達は一番大きな村に集められ、この事態の説明を行った。
「たった今この島はアドラー国の領土となった」
「抵抗すれば残念な結果が訪れることになるので、どうか理解して欲しい」
「黙れこの人殺し!」
声の方へ目をやると、そこにはいつぞやに出会った人の良さそう男がいた。
「あぁ、どうもご無沙汰しております」
笑いながら言う私の態度にムカついたのか、声をあらげながら、「人の家族殺しといてその態度はなんだ!」と怒鳴り散らしていた。
面倒だなと思い、そいつに銃口を向け、威圧した。
「やってみろ!死ぬことなんて怖くない!」
「そうなの?じゃあ君でいいや」
銃口を隣にいた女へ向け、引き金を引いた。
「ウギッ」と変な声を上げて、地面に倒れてしまった。
予想だにもしなかった事に、その場に居た全員が目を丸くする。
「もし今後、誰かが抵抗すれば、そいつと全く無関係のやつを殺す」
「だから好きなだけ暴れてくれたまえ」
その言葉によって誰も反抗しなくなったので、私はとても満足し、「大変結構!」と言った。
目標である洞窟にたどり着くと、早速武器の回収作業に取り掛かる。
様々な国の銃があちこちに転がっており、これを全部持って帰るのは、骨が折れるなと思った。
たがこれらの武器より気になることがあった。
それはガーベラが前に言っていた、飛翔体の事である。
もしかしたらと思い、証言と記憶を頼りに飛翔体が落下したと思われる場所を探し出す。
そして何時間もしないうちに目的の物を見つけ出した。
この島で不時着に最も適してる場所と言えば、砂浜しかなかったのが決め手となった。
飛翔体の正体は、三式戦闘機飛燕だった。
多少性能に難はあるが、上手く扱えばこの空を我が物にする事が出来るのだ。
「諸君喜べ、これからの空中戦は大きく変革するぞ」
そう言いながら、笑みを浮かべた。
その頃、島での騒ぎを知ったアルノルト少将は、あの男は自分の手に余ると思い別の部隊に追いやろうと、決めた。




