第七節
六月二日
毎日、千代己に話をすることで、なんとか学校に通うことが出来ています。私は学校が好きですし、勉強もしたい。けれど、その合間にあまりにも苦しい出来事ばかりが起きるので、だんだん疲れてきました。今日も、痣が増えました。というより、痣の無い所の方が多いくらいで、痣の上に痣が重なって、紫どころか黒ずんでいる所も何か所か。放っておけばきっとすぐに飽きるだろうと思ったのですが。彼女たちは飽きるどころか、よりエスカレートしてきているように感じます。私が悪いのでしょう。けれど、学校にはきちんと通いたい。受験の時もあんなに努力したのですから。
あまり書いていると、手が痛みだして困ってしまいます。授業中も板書を写すので一苦労しています。
六月四日
気持ち悪い。気持ち悪い、としか言えません気持ち悪い。
まだ、舐められた皮膚が突っ張っている気がします。本当に気持ちが悪い。いつものように教材準備室で彼女たちに殴られ、彼女らが去ったころ、あの人……あれは本当に人でしょうか……が突然のしかかってきて、私の服の袖や裾から出ている肌を舐めまわして行きました。気持ち悪くて気持ち悪くて、肌がぞわぞわしました。お腹の底の方が冷たくなって、声も出せなかった。悔しい。あれが侮辱というものでしょうか。それとも……。
私を舐めまわしたその人は、遠くから名前を呼ばれて慌てて走って行きました。確か、ふじい、とか呼ばれていたでしょうか。私はしばらくそこから動けませんでした。傷が痛んで、舐められていた皮膚にはあの人の唾の跡が光っていました。こんなこと、千代己にも話せません。もう、私はだめかもしれません。自分の肌が汚く思えて仕方ない。気持ち悪い。
六月五日
これは、千代己に話したことです。千代己はしきりに心配してくれました。あまり思い出したくもない悲しい出来事です。今日は、放課後、殆ど人の来ない空き教室で、彼女らに思い切り突き飛ばされました。その時、その教室に入って来た人がいたのです。五十里 不言君。高校に入ってすぐの時に、好きな本の話で盛り上がったクラスメートでした。今まで、誰にも目撃されてこなかったそういう場面を、親しく思っていたクラスメートに見られたというのは、恥ではなく、私にはチャンスのように思えました。突き飛ばされた私は、教卓の角に思い切り頭を打ちました。その時、教室に入って来た不言君の姿が目に映ったのです。私は、不言君が間に割って入ってきてくれることを願いました。しかし不言君は不意打ちを食らったようにビクッとして、そして、そのまま目を逸らして、速足で教室を出て行ってしまいました。頭の痛みよりも、それに対する衝撃の方が強かった。それを見て、彼女らはケラケラ笑っていました。私は蹲って動けずに、彼女らがいなくなるまで、じっと痛みに耐えました。そうしている間にまたふじいという人が来て、私を舐めまわして満足げに去って行きました。
千代己は、私の肉体的な消耗についても、とても心配してくれています。でも、頭の痛みはもう消えました。そちらは何とでもなりますし、病院に行った時に何と説明すべきか分からないので、良いのです。ただ、心は違います。もう、私の心が許容出来る範囲を軽く逸脱しています。こんな苦しみに耐えてまで、学校に行く必要があるのかどうか、もう分からなくなっています。
また後で千代己と話して、これからどうするか決めようと思います。今となっては、千代己だけが私の味方です。




