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当世退魔抜刀伝  作者: 大澤伝兵衛
第4章 ニクジン編
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第89話「M4A1」

 鬼越家に武装グループの襲撃があった翌日、早朝から警察庁の一室に様々な制服等を着た男達が集まっていた。


 制服の種類は、警察、陸上防衛隊、米陸軍、米海兵隊等である。また、スーツを着ている者もいるが、地味ながらもかなり良い仕立ての物を着用している。


 男達の目線は部屋の一角に備え付けられたモニターに向けられている。そして、そのモニターには昨晩の鬼越家に対する襲撃事件の概要が映し出されていた。


 パソコンを操作するのは日頃、鬼越修と接触する機会の多い陸上防衛隊の特殊部隊隊員の2等陸尉である中条、説明しているのは同じく修との面識がある警察庁抜刀隊の大久保である。


 中条は防衛大学出身、大久保はキャリア採用であり一応幹部に属している。しかし、この部屋に集まっているメンバーの中では明らかに見劣りがする。


 この会議の招集メンバーは軍事系の組織なら大佐級、中央省庁なら課長級で構成されており、2等陸尉や警部程度の幹部の中では下っ端は本来会議を傍聴することすら許されない。


 ただ、会議の内容は世界でも知る者が限られる異形の怪物「()(もの)」に関するものであり、組織での序列よりも実務的な物が求められる。


 5年前の外つ者の活動期で当時対応していた者のほとんどが死に絶えてしまったため、中条と大久保のような若い者でも貴重な実戦経験者であり出席が許されたのだ。


「……ということであり、武装グループは鬼越修と監視対象(チャーリー)、えー鬼越家ではダイキチと呼ばれている猫ですが、彼らによって撃退、捕縛されました。以上です」


 大久保は緊張しながら説明を終えた。ここからは質問時間である。


「襲撃者達は海外の傭兵経験者という事ですが、雇い主は分かりませんか?」


 質問者は公安調査庁から参加している佐々木である。公安調査庁は外つ者と戦うことは範囲外だが、テロ組織等に関する情報を集めることが任務であり、国内での銃器を使用した今回の事案を見過ごせないのだろう。


「残念ながら不明です。彼らの使用した装備品等の経路から捜査をしていますが、現時点では何も」


 佐々木の質問に答えたのは、大久保ではなくその上司、警察庁抜刀隊隊長の山岡だ。他の組織に対して警察庁としての正式見解を述べることになるため、下っ端の大久保が答えるのは避けたのだ。


「装備品? そういえば奴らの使用していた銃器はどんな種類ですか? テロリストの使用する自動小銃と言ったらAKあたりか、模造品あたりが相場ですが」


「それが……、バックスライドの98を出して下さい」


 山岡の指示で中条が指定された画面をモニターに映し出す。


「ほう? M4A1とは……、これは米軍さんに意見を伺いたいですね」


 モニターに映し出されたアサルトライフル、それはM4A1というライフルであった。


 米軍が採用しているライフルである。通常単なるテロリストが使用できる武器ではない。


「現時点で言えることについてのみですが、奴らの使っていたのは、材質、精度からして恐らく本物でしょう。製造番号は削り取られて確認できませんでしたが」


 答えたのは、米陸軍のバンフリート大佐である。普段は神奈川県の座間にある基地で勤務しているが、今回の会議のために急遽東京まで出てきたのだ。


「民間向けのモデルとかそういった類では?」


「いえ、あくまで軍用のモデルですね。ちなみに日本にある保有数については既に全数点検が終わっていて異常はありません。まあ、どのルートで入って来たかは米軍(うち)としては分かりませんな。密輸とかは専門外なので」


 バンフリートは、自分たちには責任が無いことを強調して見解を述べた。


「では、防衛隊さんはどうですかね?」


「ははっ。我々の制式装備は89式ですよ」


 新たに水を向けられた陸上防衛隊の代表、特殊作戦隊隊長の新井1佐はぬけぬけと答えた。特殊作戦隊では、通常の防衛隊が装備している89式ではなくM4カービンを使用しているというのは、ウィキペディアにも記述されているように広く囁かれていることである。


「まあ、一般的に言えば、防衛隊では定時に武器の数を目視で確認していますので、現時点で行方不明の物は無いと言えますよ」


「念のため言っておきますが、我々もM4A1など押収したこともないので、紛失したり横流ししたりなどはありませんよ」


 税関を所管している財務省の担当者も、この件に関して分からないとの見解を述べた。


 会議室は沈黙に包まれる。


 これでは、現時点では何も分からないと言うのと同義である。そして、敵の組織は米軍の制式装備を入手し、痕跡無く日本に持ち込むことが出来る実力を秘めているのだ。


 外つ者だけでも手に余り、やっとのことで対抗する組織を再建できたというのに、ここに来て人間の敵である。


「そういえば、茨城の香島神宮でヤトノカミを復活させた鞍馬という男も組織的な支援を受けていたはずですよね。これとの関連は? 後、富士演習場で海兵隊を襲撃してダイダラボッチを復活させた奴は? 土偶の密売で国立博物館でワイラを復活させた奴も捕まっていないですよね? これとの関連は?」


「それも調査中で不明です。鞍馬氏も協力者については良く知らないまま支援を受けていたようです」


 それ以降、大した質問は出ず、情報収集を強化していくことで話はまとまり、解散となった。


「大久保。ちょっといいかな?」


 会議が終わり、中条と共にパソコンや紙資料等を撤収している最中の大久保に、上司である山岡から声が掛けられた。


「今回襲われた鬼越修君の様子はどうだった? これまでも外つ者とは命のやり取りをしてきたかもしれんが、人間とやるのは初めてだろう?」


「はい。昨晩話した限りでは特にショックなどを受けた様子は見られませんでした。これからは銃火器で武装した相手との戦い方も稽古しなくてはとの感想を言っていました」


「流石に抜刀隊最強と謳われた鬼越鷹正の息子で、当代最強の武芸者との呼び声高い太刀花則武の弟子だな。心配するまでもなかったか」


「ですが……」


「分かっている。一帯の警護を強化するように掛け合おう」


 修は高校生ながらに武芸者として一人前の実力を持っている。しかし、武芸とは銃火器と戦うための技術体系ではない。


 昨晩はたまたまTRPGをプレイしていて思いついた罠を、庭のあちこちに仕掛けていたのが上手くはまっただけで、本来なら苦戦するか、負けてしまうのが当たり前なのだ。


「しかし嫌なものだな。人間同士で争うというのは」


 山岡は大久保に聞かせるでもなく呟いた。


 山岡は警察官として奉職して以来、外つ者との戦いに関わることが多かった。実力が足りなかったため実戦部隊である抜刀隊で勤務することはなかったが、裏方として行政的な調整や補給など、密接に支援してきたのである。


 それが5年前に抜刀隊が壊滅したために、山岡が隊長となり部隊を再建させる任を帯びることになったのだ。


 抜刀隊壊滅の一因には、政治的な思惑や駆け引きがあったことを山岡はうっすらと聞いている。しかし、実力を行使して、外つ者を倒す任務を妨害してくることなどこれまでは無かったのだ。


「本当、嫌な時代になったものだ」


 山岡はもう一度だけ呟いて会議室を後にした。


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