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当世退魔抜刀伝  作者: 大澤伝兵衛
第4章 ニクジン編
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第85話「異形を狩る者達のTRPG体験」

 道場破りに来たものの、修と千祝の不意打ちの真鍮製ダイス投げにより昏倒した青山を尻目にして、修達はTRPGを開始した。


 最初はGM(ゲームマスター)の中条によって、ゲーム開始時点の状況が説明された。


 こういったファンタジー物によくある、プレイヤーが冒険者として仕事を請け負うというものである。


 修達がやっているゲームは、小説等により様々な話が展開しているため、それらの世界設定に合わせたプレイも可能だが、修と千祝は小説等を読んでいないため誰でも分かりやすい冒険者としてのプレイとなったのだ。ちなみに他のメンバーは小説やリプレイを概ね読んでいるため世界設定については理解している。


「君たちの泊っている冒険者の店の主人が、仕事の紹介があると言っているよ。どうする?」


「話を受けなけりゃストーリーが進まなそうだから、受けるぞ。一応話を聞いてからにするけど」


 パーティーのリーダー役を務める戦士キャラを使う修が、あまり深く考えずに依頼を承諾した。こういう場面でゴネるプレイヤーや、報酬に五月蝿いプレイヤーもいるが、修達は初心者であるため、そういう発想にはまだ至っていない。


 酒場の主人からの依頼内容は、修達のパーティーが拠点にしている都市の、とある大商人に関して調査して欲しいというものだ。件の大商人の周辺で行方不明が続発しているというのが理由である。


「それは許せないな。俺達が解決してやるぞ! えーとこのキャラ的にはこれで良いんだよね?」


 修の使っているキャラには、正義感が強いという特徴が付いているため、このような悪事を見過ごすことが出来ない。ダイスを振って正義感を抑える判定に成功すれば見過ごすことが出来るが、ロールプレイとしては特徴に従った方が雰囲気が出る。


「うんうん。その調子。それじゃあ大商人のバイエルンの情報を……あっ」


 修が上手くTRPGに馴染んでいることに満足であった中条だが、これから情報を与えようという所であることに気が付いた。


 パーティーの情報収集の要である盗賊は、TRPG初心者の千祝(ちい)が使っている。リプレイを読んだことがあり、ある程度TRPGを知っている修と違って、盗賊は情報収集をするという発想は無いだろう。


 何か上手く誘導しなくてはと中条は考えた。しかし、


「懇意の情報屋とかあるわよね? そこに行って情報を買いに行くわ。出来るわね?」


「俺のキャラもこの世界の警察みたいなことをやっている神殿で勤めているんだろ? 警察キャラも情報屋と繋がりはあってもいいよな」


 千祝も修も、やけに手慣れた感じで情報収集を開始しようとした。


「大丈夫だけど。よく分かったね。こういうシティアドベンチャーはちょっと早いかと思いかけてたのに」


「え? だってこの前、情報屋と……」


「千祝。あまり話さない方が良い」


 修に制止されて千祝は話すのを止めたが、聞き取れた範囲では、現実に情報屋と接触を持ったことがありげだった。


 普通なら中二病かゲーム脳かと疑いを持つ内容である。


(そういえば、この前ラブホテルに殴りこんで、犯罪者みたいなのを沢山捕まえていたっけ)


 中条は修と千祝が犯罪者を警察に引き渡す光景を見たことがある。この二人は普通の高校生とは違う世界で生きているのかもしれない。


 色々と考えた中条であったが、気にするだけ無駄だと考えて話を進めることにした。


 情報屋から大商人の屋敷には隠し部屋や秘密の通路があるらしいことが分かり、パーティーはそこから侵入することになった。


「隠し部屋に通じる通路は、暗くて中が見通せないし、狭くて横に二人並ぶのは難しそうだね。どうする?」


「じゃあ光の魔法を使います」


 舟生(ふにゅう)が使う魔術師キャラが魔法で解決することにした。後は侵入の並び順が問題である。


「前線に向いているのは私と鬼越君のキャラだけど?」


 神官戦士キャラを使う那須が意見を述べる。


「いえ、罠や不意打ちに対応しやすいのは盗賊キャラですから、千祝のキャラが先頭を行って、敵が出てきたら後退しましょう。先頭は盗賊、次に戦士、最後尾に神官戦士を配置して挟み撃ちを防いで、接近に弱い魔術師を守りましょう」


「うん……問題ないと思うけど、良く初心者なのに思いついたね」


 饒舌に並び順について意見を述べる修に、中条は驚き交じりで尋ねた。まるでダンジョンに入った経験があるような感じだ。


「そりゃあこの前地下の……」


「修ちゃん?」


「おっと、いかんいかん」


 修が何かを語りだそうとしたところ、千祝が口元に人差し指を立てて制止した。何かありそうな雰囲気であったが、中条はあえて無視することにした。


 態勢を整えたパーティーはダンジョンに侵入していく。途中罠付きの扉などが行く手を阻んだが、千祝の使う盗賊が無事に罠や鍵を解除させていく。


 中条としては初心者である修や千祝に配慮して、ダンジョンの罠などを予定よりも簡略化していた。しかし、これまでのプレイから元々用意していたダンジョンでも問題なさそうだと判断した。


「行く手には、4メートルくらいの穴が開いているね。結構深くて?10メートルくらいだ。どうする?」


「その位だったら飛び越えればいいわね。向こう側まで飛ぶわ。4メートルなら成功判定いらないでしょ?」


 即座に穴を飛び越える判断をして宣言した千祝の言葉に、中条がどことなく邪悪な笑みを浮かべる。


「うん。幅跳びには問題なく成功するよ。ただ、着地した瞬間足元の石畳が少し沈んで、爆発が起こるよ。ダイス2個分のダメージだ。防護点で減らしていいよ」


「え? わ、罠感知は?」


「ん? 罠を探す技能を使う宣言何てしたっけ? したとしてもジャンプ中じゃ無理だけど」


「お、おのれ~」


 中条の用意した意地の悪いダンジョン設計が、その真価を発揮し始めた。TRPGはコンピューターと違って、プレイヤーがルールでは定められていないような手段を創造して物語を解決することが出来る。しかし、裏を返せばGMもそれが可能なのだ。


 ルール外の手段が有効になる場合、それは常識的に考えれば効果があるような手段だ。


 例えば、ルールに高所からの落下、呼吸できない状況、火傷、凍傷などのダメージに関して定められていなかったとしても、常識的に考えればこれらは効果がある。コンピューターのRPGではプログラムに無い行為は効果が無いが、TRPGはそれが可能であり大きな魅力の一つである。


 そして、常識的に考えれば注意を払わずに、走っていたりジャンプしていたりしたら罠を探すなど出来ないというのは当然のことだ。罠を探す技能を使えば罠にはかからないだろうというプレイヤーの裏を突いた罠の配置だと言える。


 プレイヤーとGMが互いに知恵を巡らせるというのは、TRPGの大きな楽しみであるため、今まさに修や千祝はその魅力的な世界に一歩足を踏み入れたと言ってよい。


 ただし、相手の裏をかこうと策略を巡らせ過ぎるとギスギスして友人関係に影響を及ぼすため、やり過ぎることなく程々にしておくことにも注意しなければならない。


 話をプレイに戻すと、回復魔法を使える那須の神官戦士が盗賊の怪我を癒し、探索が再開された。


 GMの卑劣な罠によって警戒を増した一行は、先ほどよりも注意しながら先へと進んだ。


 途中、飾られた石造がモンスターではないかと警戒するあまり先制攻撃した結果、中に封じ込められた毒ガスが噴出するなどの更なる罠に嵌ったりしながら、ついに最深部へと到達した。


「えーと、最深部の部屋はかなり広い作りになっていて、何本も柱が立っているね。部屋の中央部分には魔法陣が描かれていて、そこには攫われてきたらしい人が寝かされていて、すぐそばには短剣を持った男が立っているよ」


「お前がバイエルンだな。人々を攫ってどうするつもりだ? と言いながら最前線に出るぞ」


「オーケー。一応見せ場だからお互いに不意打ちは無しにしようね。バイエルンは、お前らも悪魔の生贄にしてやると言いながら、その姿を変えていくよ」


「悪魔だって? て、このゲームの悪魔ってどんなやつだっけ?」


「このゲームの悪魔は、この世界に直接実体化出来ないから、暴れる時は誰かに取り憑いて悪さをするやつね。ランクが獣とか騎士とか色々いるけど、上位の悪魔はプレイヤーキャラが相手に出来ない位強いから、目の前にいる奴は下っ端のはずよ」


 このゲームの小説を読んでいる那須が、悪魔について解説してくれた。


 日頃、()(もの)という異形の化け物を退治している修は、悪魔が外つ者と似ていると思ったが、流石にそれは機密事項であるため、一般人の中条達の前で口にするのは思いとどまった。


「なるほど、大商人のバイエルンは、悪魔に取り憑かれて誘拐していたって訳だな。で、元に戻せるの?」


「無理ね。この世界観では悪魔に乗っ取られたらもうお終いよ。一応悪魔の力だけ利用していると称している技術もあるけど、今回の話では無理でしょうね」


「じゃあ倒そう」


「うん。それでは戦闘開始します。こっちは一人だけど複数目標に攻撃するから覚悟しておいてね?」


 激しい戦闘が始まった。中条の宣言した通り、敵の悪魔は前衛に対して接近戦をするだけでなく、同時に怪光線を放ってきて後衛にもダメージを与えてきたのだ。後衛は生命力が低く設定されていたので、ピンチである。


「柱の蔭に移動します。射線が通らなければ狙われないでしょ?」


「ん? 今、柱の蔭に移動するって言ったね? そこに移動すると、落とし穴が仕掛けてあって3メートル程落下してもらおう。スパイクとかは仕掛けられていないから、追加ダメージは勘弁してあげよう」


「な、なんたる……」


 舟生の使う魔術師キャラは、罠によって戦線離脱してしまった。魔術による掩護が無くなってしまったため、残りのパーティーは危機に陥る。しかし、回復キャラが残っていたため粘り強く戦い敵の悪魔を追い詰めていく。


「よっしゃー! クリティカル、効果は防護無視! ダメージも6ゾロ! これは逝ったろ?」


「うん。流石に倒れたね。深々と切り付けられた悪魔は、地響きを立てて倒れ、ピクリとも動かなくなったよ」


 長きに渡る戦いは修の使う戦士の一撃により、幕を閉じた。かなり長く戦闘していたので疲労感に襲われるが、爽快感もその分大きく感じる。


「もう結構遅いし、この辺でお開きにするか」


「そうだね。今日は楽しかったよ。鬼越君達も初めてなのに上手くはまってくれて何よりだったよ」


「ああ。中々に面白いから、また今度やろうな」


 道場に散らかったキャラクターシートやお菓子の残骸などを片付けると、皆帰って行った。


 後に残るのは、修と千祝と、


「あ。青山がまだ倒れているな」


 道場破りの青山はまだ道場の隅に寝かされたままである。


「どうしましょう? タクシー呼ぶ?」


「そうだな。歩いて帰れそうにないし……おっ?」


「むぅ」


 青山の扱いを話し合っている最中、丁度良く青山が目を覚ました。記憶が曖昧なようで、周囲を不思議な表情で見回しているが、後遺症などはなさそうだ。


「お目覚めの様ですね? もう遅いから、この辺でお帰り下さい。これ、タクシー代です」


「ああ」


 修はまだ余り状況の呑み込めていない青山にタクシー代の万札を握らせると、道場の外に案内した。そして、千祝は同時並行的にタクシー会社に連絡をしていたため、迅速にタクシーが到着した。


「それじゃあお元気で、またお越しください」


 青山を乗せたタクシーはすぐに出発し、みるみるうちに離れて行った。行き先が病院なのか、青山の家なのかは二人には分からないが、太刀花道場は静けさを取り戻したのであった。

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